第二:神々

太陽神:天照大御神

 「外見」

 白を基調とした衣類、そして頭には黄金の飾りを着用するというのが現在のイメージではありますが、決まった外見や衣装などはありません。例えば明治期の浮世絵師、枝年昌が描く天照大御神は黄金の飾りを持っておらず、かわりに後光が指しています。

 というのは、古事記や日本書紀に外見の記述がある神自体がそういないからなのです。

 ただ、一つだけその姿に関する記述があります。それは弟の須佐之男神が、姉である天照大御神に会おうと高天原へと来訪したときです。そのただならぬ様子を察知した彼女は、「むすんでいた髪を解き、男性の角髪みずらへと結い変えて、底に数珠上の飾りをつけ、また鎧をつけた背中には千本の屋が入る矢筒、胸に付けたそれには五百本の矢が入る矢筒を装備した」と言います。

 となると、髪を結いなおしたのだから、もともと髪を何かしらの形に結っていたということになりますね。


 「属性」

 天照大御神には、大きく分けて三つの属性があります。それは

①太陽神、②巫女、③戦神

 の三つです。

 ①の太陽神としての属性は、父伊邪那岐神から「天上界を統治しなさい」という命を受けてから生じたものだと考えます。天岩戸に籠った時にはすでに天界・地上界の双方が暗闇に閉ざされてしまったので、それより早い段階と言うと、言及されているシーンはここしかありません。

 ②の巫女という属性は少し意外かもしれませんが、古事記にはこのような記述があります。

「…勝ちさびに天照大御神の営田つくりたの阿を離ち、その溝を埋み、また其の大嘗おおにえ聞しす殿にくそまき散らす」

 と。ここにある「大嘗」は、現在勤労感謝の日として知られる新嘗祭と同じ意味を持っています。営田つくりたで収穫された穀物を、神々に献上する祭儀のことですから、つまり天照大御神は、天上の統治者でいながら巫女でもあるのです。

 ③の戦神というのは、先述した須佐之男命に対抗する姿がそのまま信仰の対象となったということです。ただ、太陽神として世界の秩序守りながらも、同時に勇ましくある天照大御神と、あれ荒ぶ神力をもった須佐之男神という対比は、まさにギリシャ神話のアテナとアレスのようです。


 「関係」

 天照大御神の親は伊邪那岐命ですが、その誕生方法が独特です。まず妻である伊邪那美命に会うために黄泉の国へと旅立った伊邪那岐でしたが、結局は失敗し、引き返します。その時に付着した死者の国の穢れを洗う際、左目から出現したのが天照大御神です。その後月読命と須佐之男命の三貴神します。 

 それゆえに多くの書物では天照大御神の親が伊邪那岐と書かれていますが、私はもう一つの要素があると思います。というのも、この三神が禊で生まれているからです。父である伊邪那岐の影響があるのはもちろんのことですが、そこに黄泉の国の強力な負の力、つまり「穢れ」も混ざっているのではないかと。実は前の方に八十禍津日神やそまがつかみ大禍津日神おおまがつかみという二柱の災いの神が生まれているのですが、これはあくまで浄化途中の(高純度の)穢れから生まれた神です。

 となると、みぞぎという行為が終わる最後に生まれた三神こそ、伊邪那岐の神力と黄泉大神よもつおおかみとしての伊邪那美が持つ別の神力を併せ持った貴神となるのでしょう。

 (分かりにくくなったので簡潔にまとめますと、天照大御神はきょうだいである月読命と須佐之男命と並んで父の強力な神力と母の特別な神力をもっている、ということです。)

 

 もうひとつ、彼女特有の関係があります。それは地上を治める大国主神の代替わりを命じる時、彼女はどういうわけか姿を隠したはずの神代七代の一柱、高御産巣神と共に出てきて神議かむはかりをさせるのです。

 この二神の関係性はどうなのか、なかなか一筋縄ではいかない問題ではありますが、少なくとも共に出てくるという事実はあります。創造神としての高御産巣神と、同じく天を照らし、生命をはぐくむ天照大御神は相性が良いということでしょうか。

 ちなみに、こうした神議かむはかりの際に必ず出てくる神に思兼神おもいかねのかみがいますが、その親が高御産巣神なので、この親子関係が関わっているのかもしれません。


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