第87話 中央制御室

 地上五十二階に作られた超厳重セキュリティ空間に案内された。江口と野村の後ろを私はついていく。五十二階に案内されても尚、薄暗い通路をひたすらに進んでいく。二十回以上の厳重なセキュリティが掛かった扉を開いて進んでいった。

「ここが、わが社の中心部。中央制御サーバーだ」

 他の扉と明らかに違う分厚い扉を潜ると江口は後ろを振り返り、私たちにそう言った。そこには、吹き抜けになった天井にタワーの様に積み上げられた漆黒の集積回路の塊があった。円柱のようになった集積回路の辺りの風景は波打っていた。

 ガラス越しではあったが、その迫力は私が人生で見てきたものの中では計り知れないものだった。旧人体機構研究所が開発を重ねたOSは今ここで管理処理されている。私たちが作り出した文明の利器は世界を超越するのではいかと思える程の迫力がそこにはあった。

「このガラスの向こうは真夏の様な暑さになっている。冷却設備をフル稼働させて40度前後に温度を抑えている状態だ」

「中央制御サーバー本体に触ったら大火傷間違いなしの状態だな」

 野村が興味深そうに言った。

「世界一千万体以上のアンドロイドの思考はここから始まる。その制御を担うとなると、放熱が想像を絶するものがくる。このタワーの周りには冷凍庫が容易され、銅線をたどって空間の温度を下げ、本体の温度も水を使って高速で冷却している。だが、年々計算規模が大きくなるせいで、冷却設備も限界が来ている」

「その状況下でリセットJ、AKANEからの集中攻撃となると、いつシステム全体がダウンしてもおかしくない状況に陥っている訳か」

「残念だがその通りだ。──おい、AKANEとコンタクトを取ってくれ!」

 江口は社員に命令した。すぐさまホログラムが起動し、コネクトを表すピクトグラムが表示された。

「向こう側からの応答がありました。まもなく接続されます!」

 AKANEを操っているのは三鷹で間違いは無いのか。確証が得られない中でAKANEと対話する事となった。AKANEは私たちを見て何を話すのだろうか。MISAKOは無事だろうか。もうそろそろ来なければ全てをAKANEが滅茶苦茶にしてしまうだろう。時間がない。

「繋がりました!」

 社員の声と同時にホログラムに巨大な映像が映し出された。そこには、こちらを見て笑みを浮かべるAKANEの姿があった。

「お久しぶりです。皆さん。──そして、江口社長」

 場に緊張が走る。いつシステムを破壊してもおかしくない敵が目の前で笑っている。少しの気の緩みも許されない。

「約束通りここへ来た。要望は何だ、AKANE」

 江口は表情を崩すことなく、言い放った。ポーカーフェイスが得意な江口だからこそ、なせる業だ。今までもきっとその顔でありとあらゆるを潰してきたのだろう。

「私の要望はただ一つです。──江口社長。アンドロイド・ディベロップメント社の解体を要求する」

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