第80話 睨み合い

 木元は河本と同様、自分が西本では無い事を江口に明かした。江口は自分の中で納得したのか、「そうだったのか」と呟いた。

「私も西本という姓が偽物である事は実は探りを入れている時に把握していた。そして、色々と経歴を詐称して我が社に入っている事も実は知っていた」

 江口はそう言うと木元もまた、納得したかのように頷いていた。アンドロイド・ディベロップメント社に私と近藤は入った事が無いが、この様相だとお互い睨み合いのようなものが続いていたのかもしれない。

「江口社長の秘書アンドロイド。あれ、改造品でしょう。あのアンドロイドを使ってディープウェブを経由して色んな情報を入手していたんじゃないですか。そして、リセットJを行う判断がやけに早かったのも、あの秘書アンドロイドは影響を受けないように除外していたからじゃないですか。普通に考えたら、自分にとって戦力になる駒はとっておきたいでしょうし。リセットなんてそんな気軽に出来ません。必ず自分にが無い限りは行わないでしょう」

「実に鋭い推察だね。西本、いや木元君。その素晴らしい観察力は父親譲りかもしれないな。その通りだ。普通に考えて、リセットプログラムを稼働している全アンドロイドに仕掛けると我々も勝手が悪くてね。実はいくつかのアンドロイドはリセットJの影響を受けない様に再設定したんだ」

「江口君、君は人工知能省とのリセット協定を無視したというのか」

 河本が強く出た。確かに、リセット協定は絶対的な効力を持つ。人体機構研究所が事故を起こしたのがきっかけで、二度と同じ様な事故を起こさないという意味を込めて、アンドロイドが暴走した時に絶対的に動きを封じるシステムだ。

「申し訳ございません。ただ、私もリセットが行われる状況を冷静に考えたんです。バグによるハザードが起きた時に、アンドロイドがのような挙動をとった時、人力では太刀打ちできません。しかし、アンドロイドなら互角に戦えます。危険な状況に陥った時の切り札としていくつかのアンドロイドを切り離しているんです」

 河本は「それでもだがね──」と言おうとしたが、何かを思ったのか言い止まった。暫くの沈黙の後、木元は口を開いた。

「そして江口社長もう一つ。貴方秘書アンドロイドに、違法命令を行わせたのではないですか。実を言うと私はこのビルに移る前に隣町の飲屋街に潜伏していました。当時はアンドロイド・ディベロップメント社に近い所に住んでいた方が都合が良かったもので。そしてそこで潜伏していると、貴方の隣にいつもいる秘書アンドロイドがうろついているのを確認したんです。私は身を潜めて一部始終を見ていました」

 木元からのに江口の顔が歪む。こいつも河本も極端な利益優先主義者だ。違法行為を自分の変わりにアンドロイドにやらせたり、何のためらいも無くするだろう。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る