第59話 斜陽
河野大臣たちが去った後、社長室は再び静寂を取り戻した。大越出版の親しい人間に片っ端から今も連絡を入れているが、誰も出る者はいなかった。
「一体何がどうなっているのやら」
俺は机の上に肘をついて唸った。大越出版は所謂「優良先」だ。しかしながら、こうやって裏切られるとなると、こちらとしてもかなり不利な立場になってしまう。
「社長。来客です」
「通せ」
咲子がドアを開けると、そこには、俺よりも若いスーツ姿の男が立っていた。随分と慌てた様子で額には汗がうっすらと浮かんでいる。
「突然の訪問お許しください。私、大越出版の
原地と名乗る男は深々と頭を下げた。
「遠いところから態々ありがとうございます。貴方まだ若手でしょう。貴方が直接記事を書いた訳ではないでしょうし、取り敢えずお座りください」
「すいません。失礼致します」
随分と礼儀正しい男だ。音信不通の大越出版がまさか直接人を寄こしてくるとは、一体何がどうなっているのだ。
「早速本題に入りたいのだが、原地君。君の会社が今週発行した『未来科学』の記事だが、あの記事のソースはどこなんだね?」
「実は……。その記事を書いた人間が失踪しておりまして」
「失踪?」
ただでさえ話がややこしくなっているのに、ここに来て失踪となるともっと厄介だ。西本の黒幕に関係するのか。それとも。
「連絡は? ついてないのか?」
「大越出版としても、彼の安否確認を最優先に今連絡を入れ続けているのですが、繋がらなくて……。それで、彼のデスクを色々調べてみたんです。そしたら、『西本』という男が浮上しまして……」
「え?」
耳を疑った。西本だと。ここに来て、西本の名前が出てくるとは。となると、失踪した記事を書いた人間と西本が何らかの形で繋がっていて、例の人工知能省の内容をリークしたというのか。いや待て。今回流出した人工知能省の秘密は社員にも話していない。となると、西本と人工知能省が別のパイプで繋がっているのか。
「どうかされました? 社長」
「いや、何でもない」
「こちらの社員ですよね……。西本さんって。会って直接お話出来ないでしょうか」
「残念ながら、西本のここ数日欠勤しているんだよ。申し訳ない」
「そうですか……」
原地は困った顔をして、額に手を当てた。俺は背中に冷えた何かを感じた。
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