第48話 爆破
騒ぎを聞きつけた人々が集まり出した頃、俺と咲子は例の雑居ビルから離れた場所に移動して、人目のつかない細路地を歩いていた。咲子は煤で汚れた顔を拭いながら無言で歩いた。俺は暫く緒方さんを探したがどこにもいなかった。
「残念ながら、あいつは西本では無かった」
そうでしょうね。俺が紹介した人間は西本ではないからな。しかしながら、今のところ俺に対しての攻撃は一切ない。最も、そこが怖いところではあるのだが。
「だが、ヒントを掴むことは出来た」
「え? ヒントって?」
緒方さんと西本が何かしら繋がっていたのか。だとしたら、確かにその手掛かりになるモノがあったのかもしれない。だが、あの熱の爆風の中で何が分かったんだ。
「西本がつい最近までこの辺りに住んでいたという証拠だ」
「そうか! 緒方さんはここを仕切っていた人物。だがら、この辺りで誰が入ったか、抜けたかを記録してたのか!」
「お前、あいつが西本じゃないって知ってたのか」
しまった、口が滑った。こんな典型的なバレ方あるかよ。今度こそお終いだ。殺されてきっと緒方さんと同じ様にされてしまう。
「あ、いやその……。これは違うんだ! その──」
「ありがとう」
「え?」
いや予想していた展開と全然違うのだが。そもそも、俺はお前に嘘をついてさっさと逃げようとしていた人間だ。間違いなく感謝される筋合いではない。殺されていても間違いないような状況だったじゃないか。
「お前、どこに感謝してんの?」
「いや、違う人とは言えども手掛かりを掴むきっかけになったからな。そこは感謝してるって話」
「何だよそれ。変化球過ぎるだろ……。てっきり殺されるかと思ったよ……」
「少しでも私の仕事にプラスになった者は殺さない。それが私の流儀」
「変な奴」
本当に変な奴だこいつは。今まで死ぬ覚悟でいた俺の緊張感を返してくれ。咲子は俺の方を見ると引きつった笑みを浮かべた。いや、怖いからやめてくれ。まだ真顔の方がましだ。
「腹、減らないか?」
「え?」
「樋口。お前と会ってかれこれ四時間は経とうとしている。そろそろ、飯にしないかと聞いている」
全く、咲子という女は優しいのか、はたまた冷酷な心の持ち主なのか分からなくなりそうだ。仕事とプライベートは分けてる派か? 奇妙な性格の持ち主だな。
「そりゃぁ、腹は減ったさ。身体は嘘がつけないからな」
「じゃぁ、飯を食いに行こう」
「え?」
「安心しろ。──私の全額奢りだ」
「はぁ……」
久々に人と飯を食べに行く事になりそうだが、喜びきれない自分がいた。ボロボロになった服を見ながら思わず笑いが出てしまった。
「奇妙だ。あんたは」
「私にはお前が奇妙に見える」
そりゃそうか。こんな所で笑い出したら変にも見えるだろう。遠くの方から消防車の音が聞こえた。
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