2章

第6話 ビルディング01

 この会議は一体何時まで続くのだろうか、全く。俺は今、くだらない会社の幹部会議に参加している。所詮は会社のポジションを守るために当たり障りの無い事を言っている駄目な人間たちの会議だ。私はこんな無駄話をしたいために定例会に出席している訳ではない。

「だから弊社が目指すべき方針がこうも離散しては、社長も判断が下せないだろ! 今社会全体が求めているのは当社の人類代替機アンドロイドだ。決まっているだろう! ここは悩む所ではない! もっと会議のスピードを追及しろ」

 今低能な頭に血が上っているのはこの会社のトップ三である西本浩二。彼はこの中でもかなりの権力を持っている。だが、この男を飼っている人物がいる。通称『黒幕』と呼ばれている会社外部の集団だ。俺の今の生きがいはその黒幕を突き止めること。残念ながら黒幕の実体はまだ見つかっていない。

「貴方はいつもそうだ! 会社が今大きな決断を求められている時、混乱を巻き起こすだけではないですか! 今この会社が持っている社会的責任は昔の創業期よりも遥かに重いんですよ! もっと頭を使ってください!」

 そして西本に今歯向かっている男が若手の元原俊介。元原は反西本派の上層部から入れ知恵された『猿』だ。この場においても、会社トップ三に口答えが出来るのは紛れもなく上層部の後ろ盾があるからだ。

「私に逆らうとは君も随分と偉くなったな。──では君の意見を聞こうではないか。元原君!」

 西本は怒りを表情に反映させる事が得意なゴミだ。口調がいくら冷静になろうとも、誰もが見て分かる「怒っている人」だ。元原は若さに身を任せて机を叩き、会議室で一人立ち上がった。

「いいでしょう! 西本さんにも分かる様に丁寧に説明してあげましょう。──そう、西本さんの言う通りこの会社は世界を便利にするもの《アンドロイド》を造っている会社です。私たちの役目は社会にアンドロイドを供給する事です。ですが、国の政策だろうと今回の話を鵜呑みにしたら、社会から反発を受けるのは自明ではないでしょうか!」

 反西本派の連中がここぞとばかりに野次を飛ばす。全く、お前たちは自分の口で意見を発する事も出来ないのか。この会議がくだらないのも自明だ。

「君は国からの命令に背くつもりなのか? この国が過去どれだけ『アンドロイド産業』というもので経済を回してきたのか知らないのか! 国をあげての一大プロジェクトであるこの政策に、私たちに不利益などあるわけがないだろう!」

「いいえありますとも! 人々の生活に過度に密着する事を目指しているこの政策は、人間が持つ本来の価値観を歪める可能性が高すぎます。そうなったとき、人間は自分たちが生み出した機械で滅ぼされるでしょう! ですから今まで通り、仕事現場での使用にとどめるべきです!」

「君は分かっていないな。この政策プロジェクトを成功させれば、人類代替機アンドロイドが浸透した社会機構をパッケージとして世界へと売り出せるんだぞ! その時、アンドロイド産業にもたらされる莫大な利益を見逃すつもりか!」

 この会議は阿呆な人間しかいない。この会社が創業された時、アンドロイドは利益を生み出す事だけを考えて作られた訳ではない。

 だが、この連中に幾ら言ったって無駄だろう。もうこんな会議をしても無駄だ。見るに堪えない。

「もういい。西本、元原。今日の会議は終わりだ。他の幹部も全員通常業務に戻れ」

「江口社長……」

 俺はこの会社の創業者。江口基弘えぐちもとひろだ。

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