第9話 『告白』


25日早朝。


『お母さん、あのね……』


『ましろ、どうしたの』


『優人にプレゼントにクリスマスのプレゼント渡したいから、デパートに連れてってくれないかな?』


『えっ!』


私から外に行きたいと言ったことが、今までの事を考えると、お母さんもビックリするはずか


『勿論良いわよ!直ぐに支度するわね』


お母さんは快く承諾してくれると、台所の仕事をテキパキトこなしていく。


今だ外に出ることに抵抗はあるけれど、ずっと

声を描けてくれた、優人に何かお返しがしたくて、私は外に出ることを決める事が出来た。


いつも、外に出るときに着る、お母さんがくれた、ニット帽を深く被り私は、リビングで待機している。


出来ればもっと早く行きたかったのだけれど、

中々人混みに行くとなると、決心が着かず

結局クリスマス当日になってしまった。


『お待たせ、準備出来たよ』


お母さんの支度も終わって、私達は家を出た。


家の前の駐車場に着いて、二人とも乗り込もうとしていたら


『ましろ、ごめんね、車の鍵を忘れちゃっ た、直ぐに取って来るから、ちょっと待ってて』


お母さんは慌てて、家の方へ向かい、私は一人車の前で待っている。


久しぶりに、一時ではあるけれど、一人で外に居る自分が、当時の状態を考えると、大きな進歩だと自信でも思う。


早く元気になって、また優人と学校に行ける用になりたいと、改めて実感していると……。


『ガサッ』


私の背後から、物音が聞こえて来る。


不安になった私は慌てて振り返ると、目の前に居たのは、学校の同級生の松尾君だった。


『柊さん、実は……』


行きなり現れた、男性に一瞬にして私はパニック状態になってしまい、全身の震えと、心臓の鼓動が激しく唸りだす。


『やっ……辞めて……』


逃げる用に私は、後ろに後ずさりしていく。


『待って、伝えたい事があるんだ』


それでも松尾君は、私に近づいてくる。


『いっ……嫌……来ないで』


『逃げないでよ!』


松尾君は、後ずさりする私に近づいて来て、

私の腕を強く握ってきた。


『きゃーーー!』


びっくりして、思わず声が出てしまう、腕を握られた瞬間あのときの事を思いだし、私は出来る限りの早さで、その場から逃げ出した。


声をあげて、松尾君も驚いたのであろう、私の後ろを着けてくる人誰も居なかった。


『ぐすん……怖いよ……優人……』


目的地も何もない中一人私は走り出した。



『何今の悲鳴は……』


慌てて外に向かうと、そこにましろの姿は無く

一人の高校生らしき姿が、玄関の前から伺える


『ちょっと、何してるの』


声を描けた瞬間その子は走って逃げ出して行く


急いで車の方へむかっても、ましろの姿がない


もしかして、先程の悲鳴はましろのものだったと気づいた私は、車に乗ること無く周囲から探しだす。


『ましろー!何処にいるの』


何があったのかは、わからないけど、いくら探してもましろの姿が見えない、その場に座り込み込み上げてくる、涙を必死に我慢していると


『おーましろのお母さん!』


『ちょっと早いかなと思ったけど、我慢できずに来ちゃいました』


聞きなれた声のする方へ、顔を向けると。


ましろが唯一お父さん以外に、心を許す事が出来る男性の、優人くんが目に入ってくる。


『優人くん、ましろが居ないの!』


『何があったかは分からないけど、ちょっと目を離した隙に何処かに行ってしまったの』


『えっ……』


待たしても、悪い想像が僕の頭の中を駆け巡る

しかし今は落ち込んでいる暇は無い、直ぐにでもましろを見つけないと、ましろの身が危ない


『どっちの方向へ向かったかわかりますか?』


『分からないわ、この辺の周囲は探したけれど何処にも居なかったわ』


『分かりました、この辺りは僕が探しますので、お母さんは、車で辺りを探して見てください』


ましろのお母さんにそう告げると、一目散に走り出した。


ましろが居そうな場所は何処だ……


手当たり次第思い付く場所に行く事にした


『はっ……はっ……』


近所の公園に着いて、辺りを見回すが人の気配が無い。


『ましろー!居ないのか!』


返事はない。


『くそっ……』


(何処に居るんだ、ましろ……)


その後も手当たり次第、ましろが居そうな場所を探して見るがましろを見つける事は出来なかった。


時刻も夕方に近づいて来ており、このまま一人にさせておくには危険過ぎる。


(くそっ、思い出せ、ましろが行きそうな場所は……)


すると横から近づいて来る、一台の車から


『優人君、ましろ見つかった?』


『いえ、この辺り見て回ったけど、まだ見つからないです』


『何処か心辺りはありますか?』


二人の沈黙が、分からないと告げている……。


『引き続き私はこの辺りを見て回るから、優人君もお願い、いよいよになったら、警察にも行ってみるから』


『分かりました』


そう告げると、ましろのお母さんは去っていく


ましろが行きそうな場所は……ある程度見て回った。


込み上げてくる己の未熟さに苛立ちが止まらない。


『くそっ!』


ふと頭の中で引っ掛かる、待てよもし僕がましろの立場だったら何処に行く?


自分なら何処に行くか、ひたすら考える。


遠い記憶の一部に、思い付く場所が出てくる


おばあちゃんが亡くなった時、家を飛び出して向かった、小さいころ良く遊んで居た、古い神社の事を思い出す。


大事な人を亡くした、絶望を受け入れる事が出来なかった僕は、家を飛び出してその神社に混もって泣いていた。


一人落ち込んで居た僕を、最初に見つけてくれたのは……。


『ましろだ……』


誰にも告げずに飛び出したはずなのに、ましろは僕の居場所を見つけ出した。


落ち込み泣いていた僕に、声を描けてくれて、ずっと側に居てくれた、記憶が甦ってくる。


『もしかしたら……』


僕は一目散に、神社に向かって走り出す。


『頼む居てくれ』


思い付く場所はそこしかない、ずっと走ったせいで体は汗をかき、外の凍てつく寒さが更に追い討ちになり、体力はどんどん削られて行く。


『はっ……はっ……』


運ぶ足元は段々と重くなっていき、横腹も痛みが増していく。


『くっ……』


目的地に近づいて行く度に、辺りは薄暗くなっていく。


『もう少し……』


体の悲鳴を無視して、走り続けることおよそ、

十数分。


目の前に現れたのは懐かしく、記憶の一部に蓋をした思いでの神社。


反りたつ本殿の前に立ちはだかる階段が、更に

僕の内蔵達に追い討ちを掛け、呼吸が苦しくなり横腹は痛みを増していく。


『はっ……はっ……くっ』


痛みを押してどうにか階段を登りきると、昔良く遊んで居た神社が目に入ってくる。


『確か、僕は』


本殿に近づいて行く度に、当時の記憶が甦ってくる。


落ち込み殻に閉じ籠りそうだった、僕の側に寄り添ってくれた、姿


泣きじゃくる僕と、一緒に泣いてくれた、姿


本殿の前にポツンと、座る人影が目に入る。


『ましろーー!』


体は一気に軽くなって逝き、人影目指して、走り出すと、薄暗くてはっきり分からなかった、

正体は間違いなく『柊ましろ』の姿だった。


『ましろ、ごめん、遅くなった……』


少女は、小さく体を寄せてうつ向いている。


僕が着ていた、ジャンパーを着せてあげて、静かに横に座る。


『あの時落ち込んだ僕を、ましろは最初に見つけ出してくれたよな』


『すげぇー悲しくてさ、もうどうでも良くなっちゃって、一人になりたくて、ここに逃げ込んだんだ……』


『一人でうつ向いていたら、急に誰かが座って来た事に気がついて、びっくりして顔を上げたらましろだったんだよ』


『何かましろの顔を見たら、また涙が止まらなくなっちゃって、その横でましろは、ずっと慰めてくれたよな……』


『凄く楽になって、ましろの顔をみると、今度はましろが、泣き出したったけ……』


『あの時の事、すげぇー覚えている』


『ぐすん』


『あの日の事覚えてる?』


『ぐすん』


『僕はあの日から、ましろの事がずっと好きになったんだ』


『今度は僕が、ましろ側にいて、ましろに何か有った時は僕が側にいて、声を描け続けるって決めたんだ』


『でも、自分で決めた誓いを僕は破って、ましろに酷い経験をさせてしまった』


『もう二度と、ましろを離したくない』


『辛い思いはさせない、僕がましろを守るから』


『ぐすん』


うつ向いていたましろが徐々に顔をあげていく


泣きじゃくった後だろう、いつも可愛い少したれ目な瞳は、赤く腫れ上がっており。


出し尽くして枯れたはずの、涙が再び溢れ出てきている。


僕は溢れ出てきている涙を、指で優しく払うと


声を上げず只涙を流し、じっと僕を見つめるましろに向かって。


『ずっと好きでした、もう二度とましろを離したくない、辛い時も、楽しい時も、ずっと側で声を描け続けて、一緒に居たい』


『結婚して下さい』


『ぐすん』


『ずっと待ってたんだからね』


『うん』


『来てくれるか分からなくて、寂しかったんだよ』


『うん』


『もう一人にしないって約束してくれる』


『うん』


『私も優人の事がずっと好きだったんだよ』


『うん!?』


『気づいてなかったの?』


『ごめん分からなかった……』


『バカっ……!』


『ごめん……』


『私も優人とずっと側に居たい』


『うん』


『居なくなったら、許さないからね』


『約束する、もう二度とましろの側から離れないよ』


『…………。』


『こんな私で良ければ、ずっと優人の側に置いて下さい』


『ありがとう』


頬を赤く染めて見つめるましろの顔に、そっと手を伸ばして、僕の方へ抱き寄せて『キス』を

した。


冷たくなった唇が重なると、急に体温が昇って行き体が熱くなっていく。


二人の体温は誰も居ないはずの、神社の中で熱を帯びて行き、暗く日が沈んだ風景に一時の温もりを与えてくれる。


消え掛かっていた二人の灯火は一つに成る事によって木枯らしがもたらす冷たい息吹を遮り

再び大きな炎を灯す事になって行った。


『そうだ、ましろに渡したい物が有ったんだ』


ポケットに入れていた物を取り出すと、封を開けて、ましろに手渡した。


『何これ』


『柊の花のベースに作った、香水だよ』


『クリスマスプレゼント』


『使ってみても良い?』


『良いよ』


真っ白な化粧瓶に入った、香水を手に取って、

軽く突起を押すと、冷たい微風に乗って香る

柊の金木犀にも似た、甘く華やかな香りが辺りを包み込んで行く。


『凄く良い香り!』


喜んでくれた見たいで、ほっと方を撫で下ろし

中身の事を説明してあげた。


『柊の花から作った香水何だ、学校に有った柊の花の香りを嗅いで、凄く気に入ったから、作ってみたんだ』


『柊の花?』


『ましろ見たいな、真っ白な綺麗な花を咲かすんだよ、ましろが元気になったら、一緒に見たいなって思ってたんだ』


『あの時のメールのやつね、ふふっ』


『必ず見に行こうな!』


『楽しみにしてる』


『風引いたらいけないから、そらそろ帰ろっか』


『うん』


その後無事にましろの家まで、送っていき対面した、ましろのお母さんの泣きじゃくる姿に

ましろも寄り添って一緒に泣いていた。

その姿を見つめているの、さらさらと小さく冷たい雪が、降り注いでいる。


まるで二人の涙を彷彿させる粉雪は、悲しみのからなのか喜びからなのか、僕らの回りを包み込む用に降り注ぎ、泣き止む事のない二人を他所に静かに足元を真っ白に染めて行った。


警察沙汰にもならず、どうにか乗りきれた事に僕は安堵し、告白もした僕は改めてましろを守っていくと固く決意した、思いでのクリスマスになった。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


12月25日 天気 曇り後雪


ましろとが居なくなったことはびっくりした


記憶の中に蓋をしたあの日の事を思いだし


少し遅くなってはしまったけど、ましろを見つける事が出来た。


ましろに告白して、オッケーを貰う事が出来て


本当に嬉しかった


もう二度とましろを離さない、一生守っていくと決めた日になった。


今日も明日も僕らは二人で生きていく。


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