悪の秘密結社最大手にスカウトされた件
れもんと紅茶
俺と異能と正義と力
1悪目 俺と首領と改造と
目の前に迫る凶刃。とても早く鋭く避けれるようなものじゃない。急所を狙ってきてはいないが、重症と気絶は免れないだろう。
仲間の戦闘員は既にボロボロで気絶している。急所を避けて攻撃したのか全員生きてはいるが、気絶するまで攻撃されたせいで傷は深い。
助けてくれるものもいるはずがなく、俺にできることはなにもないーーはずだった。
「ん? キミ、すごいね。才能の匂いがぷんぷんするね。良ければキミ、ボクんとここないか? 優遇するよ? 良かったらお仲間も助けてあげよう」
敵から告げられたその一言と共に、迫ってきていた刃は止まる。
この言葉に抗う意味は無い。どう考えても格上の職場だろう。この際、正義のヒーローでもいい。待遇がよく、みんなが助かるのであればこんなブラックな悪の秘密結社の中堅所なんてやめてやる。
そんな甘い言葉を俺にくれた相手に俺は問う。
「そ、それは職場の環境と待遇を聞いてからで。後、職場はどこですか? 」
さっきまで俺を倒そうとしていた相手に対し声がうわずり、思ったように話せない。
そんな俺に微笑みながら彼女は言った。
「環境と待遇は業界トップを自負してるよ? ボクが首領である、この秘密結社【ダークネス・モデル】はね」
俺はその言葉に恐れおののいた。何故なら、悪の秘密結社界トップの悪の秘密結社の中の悪の秘密結社である悪の秘密結社最大手である【ダークネス・モデル】にスカウトされたのだから。
そこ、名前がダサいとか言わない!
企業が立ち並ぶニホンの大都市であるトウキョウ。ニホンでも有数の企業の本社である、馬鹿でかい高層ビルの地下で、俺は現在手術台の上に拘束されている。
ここは確か世界的にも有名な電化製品企業のはずだったんだが、何があってこうなった。
確か、スカウトされて、一人ここまで連れてこられてから、この会社の表の顔である方の仕事を見学して……あれ? ここから先の記憶がない。
「ようやく目覚めたのかい? どうだい体は?」
「体?」
体の様子を聞かれて、改めて自分の体に気を向けてみる。
かなり厳重な拘束をされた腕と足。いつもの自分じゃ解けないような見たことのない金属製の拘束具だが、腕と足をガチャガチャやってみたらバラバラに壊れてしまった。
それを見ながら俺をスカウトしたこの秘密結社の首領である彼女は、「ふ〜ん、けっこうやるじゃん」とか言っていた。
俺は立ち上がり、手術台を下りる。それだけの動きに体が軽く、動作が滑らかかつ、力が有り余っていて、いつもなら出来ないようなことができる気がした。
しかし、それと同時に何故こんなに力が漲っているのか不思議に思った。
「自分の体に力が漲っていて不思議だろう?」
彼女は俺が思っていた事を笑いながら言い当てる。
「は、はい」
「だろうね。まぁ、ボクの組織の改造手術は伊達じゃないからね」
彼女は俺に微笑みながらサラリと言い放った。
俺が改造手術を受けてしまったという事実を。
改造手術か。確か俺の組織にもそんなのはあったが、俺は受けることがなかった。理由は簡単。俺にこれっぽっちの才能がない代わりに、異能があったからだ。
異能があるため、何とか悪の秘密結社に入れたにすぎない。異能以外は壊滅的である俺は改造手術も受けずに最下級戦闘員となった。
改造手術を実感したことはないがこんなに強いはずはない。最下級戦闘員のリーダーのみは改造手術が許されていて、三日三晩最先端技術を使った改造手術を受けていたが、絶好調の時でもガチャガチャ程度じゃ鉄をへし曲げる程度だ。
しかし、俺の場合はガチャガチャで素人が見ても、とんでもない強度を誇るであろうことが分かる、謎金属で出来た複雑な拘束具をバラバラに破壊してしまった。
こんな改造手術やばいはずである。きっと後遺症とかヤバいに違いない。
「あ、言っておくけど、これは体に後遺症とか副作用とかない超安全な改造手術だからね。キミは心配しなくていいよ」
「は、はい」
相変わらず思考を読むように話をしてくる。
「思考は別に読んではないよ。そんなにすごい事じゃない、ただ予想をしているだけさ」
それはそれで凄すぎると思ってしまうのは俺だけだろうか。
あの後は、改造手術の説明をされてから、裏の顔である裏の設備の説明をされた。やはりここも前の職場とは比べ物にならない程だった。最後に来たのは首領の部屋である。
「ここがこの組織の首領用の部屋さ。あまり誰も入らないから私用のもので溢れてるんだけどね」
見える部分は厳粛な書斎だったが、見えないところはファンシーで女の子らしい部屋だった。俺も女の同僚の部屋にはお邪魔したことがあるがこんなんだった。やはり女は女なのだろう。
「ほら、突っ立ってないでこっちきて」
彼女に声を駆け寄ると、もう一つの扉の前だった。なんの部屋なんだろう。
「ここはキミの部屋。社長秘書兼次期【ダークネス・モデル】首領である
衝撃的だった。理解が出来ない。こんな凡人な俺が次期首領だって? こんな悪の秘密結社最大手の? スカウト自体が質の悪い冗談なのだろうか。次期首領が改造手術を受けた程度の俺に務まるわけが無い。
「冗談じゃないよ。キミはまだ首領の座に十分じゃないが才能がある。今までのキミは体が、才能の限界に耐えきれるようなものじゃなかっただけだよ」
そんなこと言われても何も信じれなかった。俺にできるわけが無い、そんなこと。
「信じれないというのなら1ヶ月間修行させて上げるから、考えて見てくれないかい? 多分その頃には信じられるような力がついているから」
その言葉に俺は従う事にした。
ーーその時に俺の人生最大の転機が訪れ、世界征服の道を進むという人生が確定したのだろう。
そして、俺は暫定社長秘書兼次期首領として1ヶ月を過ごすことになった。
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