一年生 三月第二週目 その3
翌日
「昼休みに部室に集まって貰って悪いな。ただちょっと依頼があるんだ。」
「依頼って?」
軽音楽部部室の黒板前で今日もメラメラと燃え盛るようなオーラと目の色をしているメイは、相模の質問に紙を配り答えた。
とりあえず空いてる椅子に俺、小田、相模、アサヒは座る。
「お前らのバンドに終業式後のゲリラライブに出て欲しいんだ。」
「は?」
配られた紙をみると、「ゲリラスプリングライブ」とデカデカと書かれていた。
「ターンテーブル組んでたんだけど、予定していたバンド一組が出れなくなっちゃってさ。代わりに出てくれよ。頼むよ。」
「他にも居ただろう。何で俺らみたいな初心者選ぶんだよ。」
「やっぱりそれは………君達の演奏がロックだったから?」
「何だよその選定基準!?」
こいつ言うのロックは俺らで言うところの「アレ」とかレベルか?
「でも実際君達上手いからさ。二曲あれば良いから頼むよ。」
「……しょうがねえな。」
自噴の腕前を人に見せる絶好のチャンスだ。
ぶっちゃけこんな上手い話はない。
そんな俺ら糞野郎共の気持ちを代弁してか、相模はすくりと立ち上がる。
「俺らのロック、見せてやるぜぇ!」
「さて、どうするか。」
教室に戻った俺らはとりあえず作戦会議を始める為に相模の席に集まった。
「原と小田はギターだろ?アサヒはドラムで、俺はベース……。誰がボーカルをやる?」
「相模は?」
「ダメだ。俺の声は印象に残らないってよく言われる。」
ゲームの主人公特有の声優が割り振りされてないだけである。
「俺はギター弾き始めたばかりで歌まで回れねえしなぁ。……ってことは。」
小田がポン、と俺の肩に手を置く。
少し照れ臭いが俺は名乗りをあげた。
「俺がボーカルやるよ。」
「よっしゃ決まりだな。」
相模がメモ帳に几帳面に書いていく。
「つうかさっきからアサヒ一言も喋って無いけどどしたの?何時もなら「師匠の美声で皆を酔いしれさせましょう!」とか言うのに」
小田の発言で気付く。
確かに先程の部室に集合してから一言も喋っていない。
アサヒの方を見ると、そこには可愛い顔に星やコウモリ等のペイントをしタンクトップを着たヤべー奴が座っていた。
「ひゃっはー!!俺様のドラム捌きに酔いしれやがれえ!!」
「誰だこいつ!?」
「俺様は八王子亜鎖紅様だぁ!!てめえらの下手くそな演奏にドラムで彩りを加えてやるぜぇ!!」
「口悪いし!!アサヒ!!どうしたんだよ!?」
「おいこれ何なんだよ小田!?」
「知らねえよ!!まずこれアサヒなのか!?顔とか段々厳つくなってるし、腕もムキムキになってるぞ!!」
机の上に立ち、意味もなくマッスルポーズを取るとまた意味もなくエアドラムをする。
「俺様は自由だぁ!!」
放課後
「ひゃっはー!!ドラムが俺を離したがらねえぜ!!」
「凄いロックだぞ!!八王子!!」
ドラムを高速で叩きまくるアサヒに合わせ目をキラキラさせながらメイはギターを高速で掻き鳴らす。
「ここは世紀末か何かかよ。」
ぼそりと相模が呟く。
「これバンドやってるのに大人しい俺らがおかしいのか?」
「さあな。あーあ、原もどっかいっちゃうしさ。」
「……ま、あいつはどっかでちゃんと練習してんだろ。」
原の事だ、桐谷ちゃんの過去が悲しくて殻を破りにでも行ってるんだろ。あいつが提案したこの曲も桐谷ちゃんに聴かせたいからなんだろう。なら、俺らは俺らでその曲の練習をするだけだ。
「さてと……じゃあ俺らもロックするか!!」
「ああ!!」
「君達は現状八王子君のようにならないから安心してロックしてくれ。」
「?……うわぁ!どうして高井戸先輩がここに!?」
「彼は私の作った『ロックやん』という薬品を飲んだからああなっている。」
「はあ!?いつの間に……っていうかじゃあ治してくださいよ!!」
「寝れば治るよ。あと君達が今飲んでる水にも混入しておいた。では、さらばだ。」
「……」
「……え?」
桐谷との練習を終え、ゲリラライブがあること、そのライブに来て欲しいこと、一週間一時間だけ自主練に付き合って欲しいことを伝え承諾を得た俺はかなり気分よく部室に向かっていた。なんならスキップしちゃいそうだ。
「すまねえ、自主練で遅れ………」
「俺様のギター早弾きをルック!!うおおおおおおおおおおおおおお!!!!ロックに決まってるぜえ!!」
「そんな子守唄がロックだって?笑わせるぜえ!俺様の二本指から弾き出されるあちいメロディでアンプぶち破ってやるぜ!!」
「騒ぐだけかf●ckボーイ?ロックっていうのは指先だけじゃねえ!!身体全体で楽器とぶつかるんだよ!!うおおお!!頭突き!頭突き!」
「すげえ!!ここまでロックな奴ら初めてだぜ!!おい、原見てみろよ!!」
いつの間にか全員覆面レスラーのマスクの柄みたいなメイクを顔にし、これまた何故か伸びてる髪を上下に揺らし各々を罵倒し始めている「Xover」の面々がいた。
その横にはキラキラした目でそいつらを見てるメイの姿があった。
俺は上機嫌を吐き出して頭を抱えた。
「……いや、ロックって何だよ……。」
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