一年生 三月第二週目  その2

件の教室前。


よく耳を澄ましてみると哀しげなギターの旋律が聴こえてくる。どうやら中にいるようだ。


 


「おっす。」


 


俺が教室に入ると、やはり桐谷がギターを弾いていた。


誰か入ってきたのに気づいてこちらをチラリと見ると、舌打ちをしながら付けてたヘッドホンを外した。


 


「何だよ……お前かよ。」


 


「いや、ごめんな。ギターの音聞こえて中見るとお前がいたからさ。所で何弾いてんの?」


 


「何でも良いだろ。関係ねえだろ。」


 


そういうと桐谷はまた、ヘッドホンを付けギター練習に戻ったのでとりあえず空いてる椅子桐谷の前まで持っていき、そこにわざとらしくドカッと座る。


 


「……何しに来たんだよ。」


 


「ギター教えに貰いに来た。ほら!これギター持ってきたからさ!」


 


俺がいそいそとケースからギターを出していると、桐谷は観念したように深くため息一つ吐く。


拒絶はされていないようだ。


 


「…で、何の曲弾きたいんだよ?」


 


「流行ってるこの曲なんだけどちょっと変なところ無いか、聴いててくれないか?」


 


俺は、この世界に来てから知った曲をとりあえず弾いてみる。


桐谷は俺のギターの音に合わせて、基本無表情だが眉をしかめたり、逆にうんうんと満足そうに頷いたり表情が色々と変わる。


曲が終わると、桐谷は開口一番質問をして来た。


 


「お前ギター初めてどんぐらい?」


 


「三週間ぐらいか?」


 


「それでここまで弾けるのは凄いな…。でも、変な癖付いてるな。例えば…」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「今日はここまでだな。」


 


熱心な桐谷の指導のもと、俺は自分の癖を確認しそれを修正しようとする。


気付くと時刻は午後五時、下校の時間になっていた。


 


「桐谷、ありがとうな!すげえ助かったよ!」


 


「それなら良かっ……」


 


「明日もまた教えてくれよ!!」


 


「え?」


 


目的を忘れかけていたが、俺は桐谷の過去の話を聞いて悲しかったから話に来たのだ。そして出来ることなら毎日学校に来て欲しいとすら思った。


それなら策はある。


桐谷は現状、いじめられてるわけではない。


そして俺らとクラスは同じ。なら、俺が頼ることによって学校に来ざるを得なくしてしまえば良いわけだ。


知り合いもいるし、アイツらも快く受け入れてくれるだろう。


 


「な…何でだよ…。大体私は……。」


 


「頼むよ!」


 


俺は桐谷の手をがっしり掴みさらに頼み込む。


 


「お前の教え方凄く上手くてさ、こう、何というか自分が成長していくのが目に見えて分かったんだよ。一時間だけでもいい!明日もこうやって教えてくれよ!!」


 


「わ、分かったから!一回手を離せ!!」


 


「あ、ごめん。」


 


すっとぼけて手を離す。


 


「……私口悪いしお前に不快な思いさせるだけだぞ?実際今日もかなりきついこと言ったしさ。」


 


「?何か言ってたけ?」


 


気づいてない振りをしたが、確かにきついこと言ってたのは俺も気づいた。


でも、あれぐらい元営業マンの俺に取ってみれば屁でもない。


 


「………ははは!何だよ気づいてないのかよ……。分かったよ明日も教えてやるよ。今日は楽しかったよ。」


 


桐谷のキラキラとした顔が夕焼けで赤に染まっていた。


 


 


 

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