一年生 二月第三週目

「なあ、桐谷ってどんなキャラなんだ?」


 


バレンタイン翌日、昼休み。俺は昨日の事を唐突に思いだし、この学園の目立つ女子の事ならなんでも知ってる歩くヒロイン辞典の小田に質問した。


 


「いきなりキャラ教えてくれなんて、また何かあったの?」


 


「いや昨日、咄嗟に下の名前呼んだら怒られたんだよね。」


 


「あー。そりゃいけないわ。下の名前で呼ぶのは好感度を一定以上に上げなきゃ。」


 


小田は苦そうな顔をして無理無理とジェスチャーする。


 


「いやパラメーターとかないからわからんけど、例えばどのくらい?」


 


「うーん。因縁かけてきた不良グループをボコボコにした後のイベントでかな?」


 


「俺一生呼べねえな。つうか相模そんな強くなんのかよ。」


 


あいつ今すげえひょろいぞ。


 


「柔道部の太田先輩ルートだとオリンピックの柔道で日の丸背負うぞ。」


 


「相模とんでもねえポテンシャルあんな。」


 


「あいつは他にも、エピローグで学校の教師から病院の先生に社長に科学者に宇宙飛行士まであるな。」


 


「俺らとつるんでていいのかよあいつは………。」


 


俺らが前途有望な若者の未来を潰してるんじゃ無いんだろうか?そう考えると恐ろしくなってくる。


 


「……で、そういえばその相模は?何かフラっと教室出ていってたけど。」


 


「あいつならエピローグで社長になれる高井戸先輩に連れていかれたよ。実験台だってさ。」


 


小田はごく普通に返してきた。


 


「またあいつなんかされんの?」 


 


このゲームの主人公の相模は、個性豊かなヒロイン達によく酷い目に合わされる。


こないだは、忍者の末裔のヒロインに罠を仕掛けられて半日宙吊りになってたな。 


 


「共通定期イベントだな。高井戸先輩は属性的に機械から薬から何から何まで作る天才だ。それで変な薬飲まされるか変な機械乗せられるかのどちらかだな。」


 


「相模に平凡な学生生活は無いんだな。」


 


この世界のヒロインのめちゃくちゃさはよく知っている。


俺は散りゆく友の席に向け手を合わせた。


 


「俺を勝手に殺すな!」


 


俺の目の前に現れた、席に戻ってきた相模が俺のジェスチャーにツッコミをいれた。


 


「何だよ生きてたのかよ。」


 


「死んでた方が良かったのかよ!!」


 


相模が吠えると、横から冷静に小田が質問をしてきた。


 


「で、今回は何か飲まされたの?それとも埋め込まれた?」


 


「周りが美少女に見える薬だってさ。まあ今普通の景色に見えるから大丈夫だろ?」


 


「高校生が作った薬飲む時点で怖いもの無しなのか。」


 


「何言ってるんだよ。原、先輩は天才だ………う!!」


 


俺の純粋な感心に何か返そうとしてきた相模は、突然がくりと項垂れた。


 


「おい、小田。これどうなんだよ?」


 


「今思ったら、ゲームでは地の文で成功か失敗か位しか出て来ないからどうなるかわかんねえや。」


 


「ちなみに失敗の場合はなんかリスクあんの?」


 


「体力か勉力のパラメーターが下がる。」


 


薬飲んだら一瞬で肉体か脳がダメージ受けるとか怖すぎだろ。


 


とりあえず起き上がるまで数分待ってみる。


そうすると突然相模の身体がビクッとはね上がり顔を上げた。


 


「おい大丈夫か?相模?」


 


「成功か?失敗か?」


 


俺と小田が顔を覗き込むと、相模は何故か顔を真っ赤にさせながら呟いた。


 


「二人とも何て美少女何だ…………。名前はなんていうの?。ね、キスしてもいい?」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「高井戸先輩!!」


 


俺は高井戸先輩がいる理科実験室のドアを蹴破る。


 


「誰だい?ノックもしないで部屋に入ってくる不届き者は?」


 


「俺は一年の小田です!そんなことより相模のこれを治して下さい!!」


 


そういって俺の後ろにいる……正確には原の頬に唇を当てキス………というよりほぼ吸ってる相模を指差す。


 


「ここまで効果覿面とはな……。いや失敬失敬。」


 


ははは、と笑いながら悪びれもなく高井戸先輩は言う。


 


「もう俺死にたい。」


 


「先輩!笑い事じゃなく原が真顔で涙流してるんで早く周り美少女に見える薬の効果解いてください!!」


 


遂に耐えきれず虚空を眺め濁してる目から大量の涙を流している原を指差し俺は急かす。


 


 


「?私が彼に手渡した薬は別の薬だぞ?」


 


「は?……別の薬でもなんでもいいから早く……。ほら、原が小声でずっと『あの人体模型になりたい』とか言ってるから早く!」


 


「あぁ、すまないすまない。えーっと、処方箋はこれだな!!」


 


そういうと高井戸先輩は机の上にあるアタッシュケースからカプセル状の薬を俺に手渡した。


 


「ちなみに私が渡した薬は『なんでもあべこべに見える薬』だ。」


 


なるほど……だから不細工な男の原が美少女に見えたのか。


 


『二人とも何て美少女だ……。』


 


「俺も不細工か!?」


 


「君の友人がぶつぶつスマホに話しかけてるけどいいのかい?」


 


「一番楽に死ねるのなんだろう………。練炭と睡眠薬かな………」


 


「ヤバい!原が通販で七輪を既にポチってる!!早くこれ飲め相模……いや吸着力凄いな!?」


 


「ははは、君たち愉快な人間だな。」


 


声高らかに先輩は笑っている。


くっそ……誰のせいでこんなことになったと……。


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


夕暮れ時………


 


「あ、あの……原……ごめんな?」


 


「いや……いいのさ……。俺も忘れるから……お前も忘れな……。」


 


教室に差し込む夕日が、項垂れている二人の背中に哀愁のトッピングを加える。


 


「えっと……師匠と相模くん何があったの?」


 


「そんな…八王子君だけじゃなく、兄ちゃんも原君がいいなんて…」


 


リカちゃんは嘆き、アサヒは何のことだかわからずに混乱している。


 


 


 


プレイヤーの俺が知らない所で毎回こんなことになってるなんて……。


俺は今まで操作してきた相模全員と今回の被害者の原に心の中で土下座した。


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