一年生 二月第二週目休日 その2

「いや~リカに何故か家の周り寄るなって言われちゃってさあ~」


 


あははと相模が笑う。


 


時刻は午前11時


 


最寄りの駅前に相模アサヒ小田俺の四人が集まった。


それ絶対友達とチョコ作るから隣の家からメンツを見られたくない奴じゃん。


こいつはどこまでも鈍感なのである。


 


「ししょー!おはようございます!」


 


「おう、休日も元気だな。」


 


「で、どこ行くんだ?」


 


小田が相模に聞くと相模はきょとんとした顔で「決めてないよ?」と言ってきた。


 


それならばと俺は一歩前に出た。


「ならさ、悪いんだけど俺の買い物手伝ってくれない?」


 


「いいけどなに買うの?」


 


「服とか暇潰し用品とかかな。」


 


まあ元々買いにいこうと思っていたし丁度いい。


 


「へーいい時間潰しになりそうだな。それについて行くわ。」


 


「僕は言われなくても師匠に着いていきます!」


 


「よし決定だな。今日は原の買い物手伝いだな!」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「さて、二人とも道迷わなかった?」


 


「大丈夫よ。学校からも近くて分かりやすかったわ。」


 


「私はセリカ様の匂いをたどって来たから迷いませんでしたわ。」


 


「何よそれ……え?私臭う?」


 


「とても芳醇でいてまるで……」


 


「ストップ!!これ以上話してると時間なくなるよ」


 


時は同じくしてリカの家にセリカと花園は集まっていた。


目的はただ一つ。バレンタインのチョコを作るためである。


 


「じゃあ早速調理開始しようか!」


 


「「はい!」」


 


二人の息はピッタリだ。


 


「じゃあまずはレイちゃん。お願いしてたチョコを出してくれる?」


 


「ええ。これでいいですのよね?」


 


そういうと花園は調理台の上に何か豆のようなものを出した。


 


「それってもしかして………」


 


「カカオですわ!!」


 


「豆から!?」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「服は大体このぐらいでいいかな……。」


 


「結局、師匠の買い物に釣られて僕らも服買っちゃったね。」


 


昼12時


 


俺らはリーズナブル価格でシンプルな服が揃う「ウニクロ」を後にした。


このバッタもん感は名前だけで、売ってる服は一流である。


 


「に、しても腹減ったな~。何か食おうぜ~」


相模が自分の腹部を擦りながら言った。


 


「うーん、じゃあ何食いたい?」


 


「ハンバーグだな!」


 


「僕はパスタ!」


 


「そこの居酒屋で熱燗。」


 


「はい、原以外の意見を取り入れそこのサイゼにします。」


 


おかしい。小田の質問に誠実に答えたのになぜ無視される?


 


「あ、でもサイゼにはワインがあるか。」


 


「お前いい加減ちょっとは隠せよ……。」


 


小田の悲痛なツッコミが寒空に溶け込んだ。


 


 


 


 


 


 


時は同じく リカ邸


 


「板チョコ買ってきてって、言ったよね?」


 


「ええ、言われましたわ!」


 


「これは?」


 


「ゴデバに板チョコが無かったので、店の商品をあるだけ買ってきましたわ!これで少しは足しになるでしょう?」


 


「普通のでいいんだよ!!」


 


「ここまで大量のゴデバ溶かすって……。料理下手な私には出来ないわ………」


 


「ほら、セリカちゃん凹んじゃったじゃん!」


 


「セリカ様。私このチョコを全身に塗るので舐めてくださいますか?」


 


「えぇ……」


 


「家で変なことしようとするのやめて!?」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「食べ過ぎたな~アサヒ」


 


「小田くん結構食べたね~」


 


「お前が作ったオレンジコーヒー、すげえ吐きそうなんだけど。」


 


「あれ?俺のカクテル技術が落ちてるのか?」


 


サイゼを後にし、満足そうに歩く小田とアサヒ。


その後ろから俺発案オレンジジュースとコーヒーのカクテル、名付けて「色合いだけカシオレ」を飲んだ相模が口を押さえながら、その横に俺が駅近くを歩く。


 


「さてと…あとは原の暇潰し道具だけだが何か趣味とかあんのか?」


 


「それがねえんだよなぁ~。」


 


「確かに師匠がジム以外で趣味の話とかしてるの聞いたことありませんね。」


 


「うぐ~。うぐ~。」


 


駅の丁度前を通った瞬間、ふとどこかから綺麗な声とエレキギターの音が聞こえる。


 


「この音…ストリートライブって奴か?」


 


「もしかしたら、ディーヴァが来てるかもしれないですね!」


 


「ディーヴァ?歌姫?何だそれ?」


 


「ここら辺で不定期に一人で演奏してて、ギターとその美声で周りの人を虜にする正体不明の女性ですよ!」


 


「へー。」


 


俺がアサヒの解説を聞いて納得していると、小田が小声で耳打ちしてきた。


 


「ちなみに、正体は同じクラスの桐谷カナデだ。」


 


「へーあの子なんだ。」


 


桐谷カナデ。


うちのクラスにいる軽くパーマをかけた黒髪を肩まで伸ばした女の子だ。


「ちなみに属性は一匹狼系の不良。攻略ルートは自作の歌を完成させるだぞ。」


 


「一匹狼系の不良って何だよ。」


 


「不良って他にもスケバンとかギャルとかいるから……。」


 


とりあえず桐谷が歌っている所まで行ってみることにした。


 


「♪~♪~♪~」


 


「あの子あんな声だっけ?」


 


「声優と歌手が違うんだよ。」


 


「へー。」


 


しかしそのギターにその美声に引き込まれていく。


まるで、俺の周りに誰もいなかった様に周りの音が聞こえずただただ桐谷の演奏と美声の虜になる。


 


 


 


 


 


 


「サンキュー!」


歌が終わり、桐谷は俺らに気付いたのかそそくさと帰り支度をして帰っていった。


 


 


「いや最高だったね!」


 


「あの美声を聞くと自然と吐き気も治まったな。」


 


「どうだった?原?」


 


俺は全身から沸き上がるものを感じた。


何度も諦めたものが掴めるような、そんな感覚。


この世界は努力が短時間で必ず実を結ぶ。


そうだ……


 


「楽器屋着いてきてくれ。俺ギターやるよ。」


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


 


「今日は楽しかったですわ。ありがとうございました。また月曜日。」


 


「今日はありがとね。また月曜日ねー!」


 


 


 


「さて、何とか私も二人もチョコ出来たけど………。」


 


 


 


 


 


「このゴデバの山。どうしよう…………?」


 


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る