第13話

「男の子なんかじゃない!これって化け物!こんなの初めて見たよ!」

『パオ~ン!』

実際の動物園ではあまり聞かれないゾウの声。耳鼻逆ゾウは、細長い両耳を左右に揺らしながら地響きを立てて疾走している。


思いのほか早い走りで、耳で森の中のエサを取りながら走るという器用さを見せている。耳鼻逆ゾウの牙の根元が、血が滲むように赤くなっている。

疾走する耳鼻逆ゾウに追いかけられる箱子。


「あれはいったい何?ゾウみたいだけど、ちょっと違うし、何の動物なんだろう?」


前に耳があるのは、前方の五感の目と一緒に並ぶことで探索機能を増加させている。鼻が横にあるのは、体内の空調機である口のとは別の位置にして、横からの空気を取り入れることが可能となり、不測の事態に備えた危機管理の一環による進化と推察される。


「あれれ!」

走りながらバランスを崩す箱子。

耳鼻逆ゾウが広い耳を煽って、風を送ってきたのである。


「うっ!きゃああ!」

足を取られて、倒れた箱子。耳鼻逆ゾウは走るのを止めて目を光らせた。右前足を大きく上げた。明らかに箱子を踏み潰そうとしている。足の裏が見えた。箱子の顔が闇のように暗くなった。


「うわあああ!お兄ちゃん、助けて~!!!」

 思わず『お兄ちゃん』と口走った箱子。そんな生物はこの世界には存在しない。


『ズド~ン!』

轟音と共に巻き起こった砂埃で、箱子の姿と耳鼻逆ゾウの足元が見えなくなった。


弱い風が吹いて砂塵が消えた。

耳鼻逆ゾウの足が、箱子の頭に触れる寸前で止まっていた。


『シュウウウウ~。』

何かが突如として出現した。耳鼻逆ゾウと箱子の間には人間の姿があった。


『ギュルルルル』

 空気を切り裂くような音がした、その次の瞬間、箱子は巨大なナタを手にしていた。長さは2メートル以上ある。刃も合わせて大きくなり、凶悪な光を放っている。


「これ何?デカいけど、すごく軽く感じだよ。」

 箱子は右手に持った大ナタを軽く振ってみた。それは耳鼻逆ゾウに当たらなかった。


『バオオオオ~!』

耳鼻逆ゾウは悲鳴を上げて、ここまで来た時よりも速い足で逃げ去った。耳鼻逆ゾウの首は真っ赤に染まっていた。耳鼻逆ゾウの体から血が噴出していたのである。


「ふう。助かったあ。こんなところでいきなり変なゾウに出会うなんて。やっぱりゾウは王子様になれなかったんだ。どこまで言ってもゾウはゾウだね。でもナタはどうして急に大きくなったんだろう。それに軽く感じてるのはなぜだろう。」


「あいたたたた。頭をひどく打ったぞ。」

 後頭部を押さえて、顔を顰めている緑ぶちメガネの男子。

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