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赤い月に照らされた漆黒の魔城を、私はいつまででも覚えてる。
そのお城の天辺に住む、月光と同じ目の色をした主人のことをいつまでだって愛しているように。
「また来たのかい?僕のお姫様」
真っ黒い玉座の足元で微睡んでいると、いつもそう言って蒼白の手が私を抱き上げてくれた。
彼は、初めて私に温もりをくれた人。
「また、体から抜け出してきたね?駄目だと言っているのに、悪い子だね」
そう、今の私の体は透け透けで。通り抜けるのだって簡単だ。
でも彼は、必ず私に触ってくれる。
「………悪い子にならないと、あなたに逢えないから」
僕のお姫様って呼んでくれる声を聞きたくて。
私は懲りずに彼のもとを訪れる。
「そうだよ。僕は、悪党だからね」
いつだって、彼は憂鬱げ。
楽しそうな顔なんて全然しないし、きっと知らないのだ。
する顔といえば、無表情と冷酷な微笑み。
優しさなんてこれっぽっちもないとばかりに、冷たい指先で頬を撫でる。
「君も大概物好きだよね。ふふふ。魔王の僕を愛しているの?」
わたしにだって、向けるのは嘲りの含んだ微笑みだ。
だけど、孵化したばかりの鳥が初めて見たものを母だと思うように。
初めて私を抱きしめてくれた彼を、最愛たど思ったんだ。
だから、返事の代わりにその唇にキスを落とした。
ついでに、白い頬をぺちっと叩いた。
白皙の美貌が、ちょっと間抜け面になった。
「私は、貴方のお姫様なんでしょう」
「そうだね、僕のお姫様……」
私は、彼のことなんて何にも知らないけど。
「君は、いつまでそう言ってくれるかな」
彼が私をそう呼ぶ限り、私は彼のお姫様なので。
そう信じて疑わなかったので。
「ね、僕のお姫様…」
だから、その白皙の美貌を見上げるのもの。
漆黒の魔城とそこに降り注ぐ紅い月の光も。
これっきりになってしまうなんて、夢にも思わなかった。
私の心は、あるべき所におさまるように。
体という、窮屈な檻に繋がれた。
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