自由
「お願い……助けて……」
泣きながら救いを求めるリリアを、ミナセは抱き締め続けていた。
どれくらいそうしていたのだろうか。
ふと、何かで雨が遮られる。
ミナセの背中、リリアの正面から傘を差し出す人物に、リリアがわずかに反応した。
「社長さん?」
その声に、ミナセも振り返る。
「社長……」
マークが、静かにリリアを見つめていた。
リリアが、焦点の合わない目でマークを見つめ返していた。
その目に光はない。
マークを認識してはいるが、それ以上には何も感じていない目だ。
そのリリアの頬に、マークが優しく手を添えた。
驚いたように、リリアがピクッと震えた。
大きな手のひらが、冷たい頬を暖めていく。
その手が、そっとリリアの頬を離れ、顔の正面に向かっていく。
そして、突然、リリアの鼻をつまみ上げた。
「ふぎゅぅ!」
今度こそ本当に驚いたリリアが、顔をしかめながら可愛い声を上げた。
「ちょっと社長! 何してるんですか!」
同じく驚いているミナセを横目に、鼻から手を放して、マークが言った。
「リリア。今から一つ質問をする。気合いを入れて答えなさい」
いつもの優しい顔とは違う、真剣な表情。
驚きで完全に現実に引き戻されたリリアは、その顔を見て、よく分からないながらも姿勢を正す。
そんなリリアに向かって、マークが聞いた。
「リリア。自由になりたいか?」
「自由……?」
リリアは、理解ができないままその言葉を繰り返す。
「そう、自由だ。伯父さんたちや借金から解放されて、自由に生きる。自分の意志で働き、自分の力で未来を切り開いていく。そんな人生を送ってみたいと思うか?」
リリアは、マークの言葉の半分も理解できなかった。
急にそんなことを言われても、よく分からない。
ただ。
伯父さんたちや借金からの解放。
それは、リリアが求めてやまないものだった。
大好きだった両親を辱めないために、借金を返すと決めた。
でも、本当はそんなものに縛られないで生きていきたかった。
ほかに行くところがないから、ひどい目に遭っても我慢してきた。
でも、本当は心安らぐ場所で暮らしていきたかった。
心から人のことを好きになりたい。
心から笑っていたい。
自分の人生を、自由に生きていきたい。
「私は」
リリアが顔を上げる。
「解放されたいです」
リリアの瞳に生気が戻る。
「笑いながら暮らしていきたいです」
リリアの声に力が戻ってくる。
「私は、自由になりたい」
リリアは繰り返す。
「私は、自由になりたいです!」
リリアが叫んだ。
マークを真正面から見つめて、切実に叫んだ。
何年もの間、無理して、我慢して、押さえ込んできた気持ち。
誰にも言えなかった本当の気持ち。
大きな声で、リリアは叫んだ。
「私は、自由になりたい!」
マークがリリアをじっと見つめる。
黙って強く見つめ続ける。
そして、大きな声で言った。
「よし、分かった!」
続けてリリアの肩をポンと叩いて、にっこりと笑う。
「俺に任せろ」
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