第62話 模擬戦

  中間都市連合軍の艦隊の特徴は、標準化だ。

 砲艦、盾艦、空母、機動艦、補給艦、すべて、

 全長2キロ、縦横400メートルの標準外殻

 フレームを使用している。

 

 中間都市周辺の国交のある国では、それら

 以外の様々な形状を試し、データをもらい

 つつ、中間都市では標準化したものを

 使用する。

 

 外殻フレームは、民間船でも使用され、

 信頼性が向上されている。内部モジュールを

 入れ替えることで、各機能を持った艦艇に

 なるのだ。

 

 推進装置などは、民間でも使用され、軍艦

 用にチューニングされて利用される。

 

 従って、数週間の時間稼ぎがあれば、民間船

 を改装して軍事用に転用し、そういった艦を

 5千隻ほどならすぐに準備できる。

 

 今回は、その奥の手を使用しないで対処する

 ことを目ざしている。

 

  中間都市連合軍は、移動基地を出発させ、

 都市から一日あたりの距離に留める、

 そこから艦隊を出撃させ、二日の位置で

 敵艦隊を補足する予定だ。

 

 基地の長大なカタパルトで次々と艦が出発

 していく。基地から出る際はなるべく

 自身の推進力を温存する。

 

 艦隊の構成は、全7千隻のうち、盾艦が

 3千隻、残りの砲艦、空母、機動艦、補給艦

 がそれぞれ1千隻の、防御主体の構成だ。

 

 モモ・テオは、盾艦の中の一隻にいる。

 外見は他の盾艦と同じだが、艦隊操作専用の

 モジュールがある。

 

「テオ少尉! どうですか?」

 メカニックが話しかける。

 

「うん、体の固定のほうは問題なさそう」

 システムが模擬戦のころより少し新しい。

「ではこのあと加重テストやります!」

 

 モモ・テオは、今回少尉待遇で参加している。

 彼用に新たに開発された艦隊操作システム

 で、艦隊の陣形をリアルタイムに決める。

 

 尉官のモモ・テオの操作に対して、この艦

 とは別の旗艦に乗る佐官と将官が、陣形予測

 を確認して承認を出すことで、実際の軍事

 行動となる。

 

 艦の各方向への急加速テストをしたのち、

 直前の模擬戦を行う。決戦は明日。システム

 自体は訓練時とほぼ同じのため、最終調整

 のみ行う。 

 

 現場で本番までの直前の細かい調整を行う

 ところは、演劇と似ていた。

 

「モモ、まずは自軍オンリーでやるよ!」

「了解」

 

 イザムバード・ビーチャム中尉、モモ・テオ

 より一歳年下だが、軍歴は長い。身長は

 モモ・テオより少し低く、細身。肩まで

 伸びた髪、女性っぽい顔立ちの男性。

 

  イザムバードは、幼少のころから操艦

 技術の高さを見出され、神童扱いされていた。

 数年前軍に入ったころにはすでに中間都市で

 ダントツの腕だった。

 

 イザムバードのスタイルは、艦隊操艦用の

 インターフェースに自作のモディファイアを

 使用し、かつ陣形も事前に作成したものを

 使用する。

 

 それでもAIよりは充分に強いのだが、モモ・

 テオの登場により、状況が変わった。即興で

 リアルタイムに最適化される陣形に、なか

 なか勝つことが難しかった。

 

 そして、今はモモ・テオの模擬戦の相手を

 しつつ、コーチ役兼、予備の艦隊操艦士

 として従軍する。

 

 多少の葛藤はあったが、モモ・テオと

 模擬戦を行うことで、確実にイザムバード

 自身の実力も深まっていったことは確か

 だった。

 

 自作の陣形に加えて、各陣形間をつなぐ

 メタ陣形を加え、かなりモモ・テオとも

 戦えるようになっていた。

 

 しかし、相手陣形を崩したあとの混戦

 状態での対応が、モモ・テオのリアルタイム

 でデザインされる陣形よりは少し効率が

 悪かった。

 

 ただ、モモ・テオは今回の戦いが終われば、

 軍属を離れて一般に戻る可能性が高い。

 実戦も含めてなるべく多くのものを吸収し、

 自分が第一線に立った時に活かしたい。

 

 今後は後進も育てていかないといけない。

 

 

  モモ・テオのその才能に気づいたのは

 ロロ・ボナだったが、きっかけはオンライン

 ゲームだった。

 

 クリボイド、という宇宙空間に都市を建設

 していくゲームだが、物理計算エンジンを

 採用しており、かなり厳密に現実世界を

 模擬実験できる。

 

 サーバ毎でユーザが作成したものを少し

 づつ試し、良ければ全てのサーバに採用

 される方式もあり、それによりキャラ

 作成方法やスキンなどが豊富だった。

 

 そうした流れで、ゲーム内の宇宙船の種類も

 多く、宇宙空間での艦隊戦も行えるように

 なっていた。

 

 最初モモ・テオは、兄同様あまりゲーム内で

 の艦隊操作がうまくなかった。ロロ・ボナが

 見ていると、艦隊戦で勝つというより、

 

 数千という艦艇を、様々なフォーメーション

 に組み替えて遊ぼうとしているようだった。

 そこで、艦艇の種類があることと、その特徴

 や配置の仕方で相手艦隊との相関が変わる

 ことを教えた。

 

 しばらくすると、事前登録した陣形と、

 リアルタイムの修正で、弱いAI相手に

 勝てるようになっていた。

 

 モモ・テオが不満だったのは、もう少し自分

 のイメージを形にしやすい操作インターフェ

 ースがあれば、もっとやれそうだったこと

 である。

 

 いくつかの異なるソフトウェアインター

 フェースとハードウェアインターフェースを

 試すうちに、三次元筆によるデザインに

 辿り着いた。

 

 兄弟二人で、左手の特殊筆と、右手の操作

 デバイスにより入力する方法を作り出した。

 

 それで、一年ほど遊んでいるうちに、

 対人戦で連勝しだした。あまりの圧倒的な

 勝ち方に、ロロ・ボナはモモ・テオにオン

 ライン上での対人戦を止めさせた。

 

 その新規性から、実戦での応用の可能性が

 あることをその時から直感していたのだ。

 カスタムゲームで人を募り、非公開の艦隊

 模擬戦のみ行うようになる。

 

  しかし、ロロ・ボナは、そういった事態が

 本当に訪れるところまではあまり予想して

 いなかった。辺境諸国の脅威もあるには

 あったが、自分たちが生きているうちに侵攻

 してくる可能性はあまり高くなかった。

 

 ロロ・ボナもモモ・テオも、演劇の合間の

 息抜きであって、そのまま機会が無ければ埋

 もれてしまっていい才能だと思っていたのだ。

 

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