第63話 沈黙する艦隊

  連合艦隊本体が、タイナート帝国艦隊と

 ほぼ睨み合う位置にまで来ていた。

 

 両艦隊とも、これだけの規模であるからだ

 ろうか、それまでやっていた急接近を止め、

 少し様子見をしながら微速接近となっている。

 

 モモ・テオ少尉とイザムバード・ビーチャム

 中尉がそれぞれの持ち場に着いている。

 専用の艦隊操艦モジュールが入った盾艦だ。

 

 モジュール内には、モモ・テオ専用と

 イザムバード専用の操作席がそれぞれ2基

 づつある。

 

「モモ、いつでも操作を俺に渡していいからな、

 リラックスしていこう」

「了解、序盤だけ多めの助言求む」

 

 モモ・テオの艦隊操作方法は一般のそれより

 集中力を要する。戦闘が一時間を超えてくる

 と、イザムバードのパフォーマンスレベル

 と同等にまで落ちてくる。

 

 それ以外にも、不測の事態に備えてイザム

 バードもいつでも交替できるようにしていた

 が、声の調子から、モモ・テオより自分の

 ほうが緊張していることが感じとれた。

 

 両艦隊は、射程範囲が近づいてきたことも

 あり、散開状態から陣形を形作る。まず

 連合艦隊側は立体魚鱗陣、帝国側は鶴翼陣。

 

「射程範囲まであと5分!」

 オペレーターが叫ぶ声が無線を通して聞こえ

 てくる。中間都市から二日の地点で艦隊戦が

 開始されようとしていた。

 

 

  一方、中間都市近傍、その数分前から、

 すでに戦闘が開始されていた。

 

 連合艦隊守備隊は、移動基地を数時間の距離

 に置いて、総数2千隻、盾艦1千、砲艦5百、

 空母5百という構成だ。連合標準の、宇宙

 空間に溶け込みそうな紺色の艦体色。

 

 奇襲を行ったのはタイナート帝国艦隊別働の

 機動艦5千隻。急襲用にチューニングされて

 いるが、多少のシールド装備と武装も持つ。

 横に長い左右非対称、赤い角ばった艦形。

 

 守備隊が半球陣で守りの体勢に入るのに

 対し、帝国別動隊は5隊に分かれてどこから

 でも回り込む形を作る。

 

 3隊で正面を攻めつつ2隊を両側から周り

 込ませる陣形を取りそうだ。数の面からも

 守備隊が勝てる見込みは無いが、盾艦が

 多いため、シールドが持つ時間の分だけは

 耐えそうだ。10数分といった所。

 

  すると、守備隊基地の方面から、3隻の

 機動艦が急接近する。この機動艦は、標準的

 なものと同様、シールドモジュールを艦首に

 ひとつ備えているが、標準的な武装を

 備えていない。

 

 代わりに、人型機械のモジュールを備えて

 いた。1隻が中央の帝国3隊、残りの2隻が

 それぞれ回り込もうとしていた帝国2隊へ

 接近し、そこから各艦6体の人型機械が

 飛び出す。

 

 通常の人型機械は大きくても30メートル

 ほど、しかし、今回飛び出した人型機械、

 アンダカ、と呼ばれる。全長は100

 メートルを超え、直径も100メートル近く

 あるずんぐりした黒い体。

 

 体に対して小さめの腕が前後に4本、短か

 過ぎて目立たない足。しかし、抜群の運動

 性能とシールド装備、武装を持っていた。

 どちらが前か後ろか判別が付きにくい。

 

  アンダカの一台に乗るのは、アナ・ボナ。

 既に帝国別動隊の旗艦の姿を捉えていた。

 急接近する。

 

 敵旗艦は、通常の帝国機動艦と似たような

 デザインであるが、ほぼ倍程度の大きさを

 持っていた。赤銅の艦体色。

 

 アナ・ボナが乗るもの含め6機のアンダカが

 敵旗艦目がける。守備隊半球陣を攻撃して

 いた帝国艦たちも反応しだす。

 

 アンダカの残りの5機は、遠隔操作だ。

 最寄りの移動基地で5人のパイロットが操作

 を行っている。守備艦隊についても、旗艦

 に十数名が乗るだけで、残りは遠隔操作だ。

 

 アナ・ボナは、移動基地と通信をとりながら

 機体を操作する。

「射程範囲、粒子砲の掃射開始します」

 

「移動基地了解!」

 

 守備艦隊の旗艦ともいつでも通信できる状態。

 アナ・ボナの兄は、中間都市の曼陀羅型1番、

 無重力モジュールにある参謀本部にいたが、

 兄ともいつでも通信可能だ。

 

  帝国機動艦の旗艦がいる隊から10キロ

 前後の地点で、アナ・ボナの操縦する

 巨大人型機械アンダカの、腹部にある砲

 が火を吹く。

 

 何かが敵艦隊を薙いだように見えたが、特に

 大きな変化は無い。同時に残りの5機も同様

 に砲を使用する。そして、さらに接近して

 一斉掃射する。

 

 が、その後すぐ離脱、乗って来た高機動艦に

 帰艦し、移動基地の方へ高速で戻っていく。

 

 帝国旗艦内では混乱が生じていた。

「遠隔艦との通信がどんどん途絶えていって

 います!」

 帝国旗艦内でオペレーターが叫ぶ。

 

 連合軍の、新技術、加速ニュートリノ砲の

 効果だった。加速されたニュートリノが、

 通信受像機を破壊する。発信は可能でも

 受信が不可能となる。

 

 この時代、通常の電磁波通信は敵側の電波

 攪乱装置だけでなく、自軍側のものによって

 も通信を阻害された。

 

 したがって、ニュートリノ通信が戦闘中の

 主な通信方法になる。当然冗長化されては

 いるのだが、完全に使えないケースは

 帝国軍内で想定されていなかった。

 

 では、通信が途絶えた遠隔艦はどうなるか。

 現在の帝国軍内の仕様では、通信不可に

 陥った遠隔艦は、人工知能による個別の

 操作に移ることなく、完全に停止する。

 

 帝国軍別動隊の、タイムアウトを起こした

 遠隔操作の機動艦が次々と停止していく。

 

  連合軍守備隊の半球陣にまわりこみを

 かけていた帝国の2部隊にも、アンダカの

 6台づつが襲い掛かる。

 

 アナ・ボナが操る機体よりも、接近する必要

 があったが、機体のもつシールド機能も

 フルに活用しながら接近し、加速砲を放つ。

 

 次々と停止していく帝国艦。アンダカは、

 すぐに空域を離脱していく。人口知能

 による継戦のケースも想定しており、移動

 基地に戻ったあとにもう一度出撃して戦闘

 する準備をする予定だ。

 

 残った守備隊の球形陣は、今のところ損害

 無し。帝国別動隊が次々と停止していくのを

 見て、降伏勧告を出し始める。

 

 連合軍側は、今回のこの新兵器開発にあたり、

 ニュートリノ通信の受像機を強化している。

 万一帝国側が同じ兵器を使用しても、かなり

 接近しないと効果を発揮しない。

 

 かつ、遠隔操作不可の場合の対策も行って

 いた。基本的には通信無しの人口知能による

 集団戦闘は難しくなるので、個々の戦闘を

 継続しつつ退避、そして撤退を行う。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る