第57話 襲撃と護衛

  遊郭の恋は、比較的人気のある演目だ。

 主役のサンテリを、モモ・テオの幼馴染みで、

 スペースオペラでヨシツネ・ミナコーレ将軍

 も演じていた、ヨイチ・サクラゴウチが

 演じる。

 

 遊女のレイをモモ・テオ、呼び込みのジェマ

 おばさんをイレイア・オターニョ、大学の

 友達コジモをマティルデ・カンカイネンが

 それぞれ演じていた。

 

 遊郭の世界を、豪華絢爛な舞台装置と

 衣装で色彩豊かに描かれており、それを

 美男美女が演じているため、というのが

 おそらくその人気の原因であるが、

 

 物語の設定の、学生も通える庶民向けの

 遊郭、というのに少し矛盾が生じているの

 ではないか、という指摘もあるにはある。

 

 また、この物語の特徴として、日によって

 ストーリーが異なる。二人がそのまま幸福に

 暮らすパターンもあれば、そもそもサンテリ

 が告白できない、というのもある。

 

 サンテリとレイが全く逆の立場、つまり男性

 がいる遊郭に女性のレイが訪ねていく、と

 いうストーリー展開もあり、気になる客は、

 観る前に副題を確認する。

 

 オリジナルの出典は、数万年前の太陽系だ

 とも言われているし、宇宙世紀前の伝統演劇

 の演目をベースにしているという説もある。

 

  金剛石の4人、とくに男性の3人には、

 少し重い内容だったようだ。なんとなく

 ぐったりした足取りで会場を出てくる。

 

 そこは、ビャッコブロックの2層目で一番

 大きな劇場。外に出て、ターゲットが出て

 くるまで時間を潰す。

 

 遊郭で行われる行為とはいったい何なんだ

 ろうか、ということを想像しているワルター

 ・テデスコの気持ちを読み取り、

 

「おまえ何考えてるんだよ! 舞台のうえで

 実際そんなことやってるわけねえだろ!」

 ヴァイ・フォウがその丸刈りの頭をはたく。

 

 その後、オンドレイ・ズラタノフとヤーゴ

 ・アルマグロも同様のことを考えていること

 を見抜き、順番に頭をはたく。

 

「気合いを入れろ気合いを」

 

  すると、遠方にモモ・テオ一派の三人が

 出てくるのが見えた。四人とも立ち上がり、

 肩をぐるぐる回したりしながら近づいて

 いく。

 

 いつものごとく、左からイレイア・オター

 ニョ、モモ・テオ、マティルデ・カンカイ

 ネンの順で並んで歩いてくるが、

 

 イレイアが、白地に青の縦ストライプの

 ジャケット、同じ柄のズボンだが、丈が短く

 ほぼショートパンツの長さだ。

 

 モモ・テオは、イレイアとほぼ同じだが、

 青の縦ストライプではなく、左半分が青の

 ドット柄、右半分が赤のドット柄。

 

 マティルデは、赤の横ストライプだ。

 そして、3人とも、黒のとんがった革靴

 を履き、文字がいっぱい書かれた紫の

 ティーシャツを中に着ている。

 

 ジャケットにはパットが入っているのか、

 肩の部分がやたらと張っている。髪型は、

 3人とも鳥の嘴のように尖がらせている。

 ベルトの余った部分がやたらと長い。

 レンズの丸いサングラス。

 

  ショートパンツの3人と金剛石の4人が

 対峙しようとする前に、何者かが割り

 込んできて、ショートパンツ3人の前に

 立つ。

 

 3人とも帽子にマスク、背は中ぐらい、

 若そうな格好、一人は手に刃物、もう一人

 は鉄パイプらしき棒、最後の一人は手に

 携帯端末を持ち、撮影しているような構え。

 

 状況を瞬時に理解した金剛石の4人、

 ヴァイ・フォウが、まくっていた袖を

 延ばし、ひざのまくっていたスパッツも

 延ばす。対刃装備だ。

 

 他の3人も慌てて対刃グローブを付ける。

 おまえらなんで先に付けてないんだ、と

 小言を言いつつ、撮影している帽子に

 マスクの人物の背後から蹴りを入れる。

 

「先に撮影許可を取んないとなあ」

 

 携帯端末の人物がヤーゴにのしかかられる。

 ナイフの人物がヴァイに切りかかるが、

 簡単に手首を取られる。

 

 鉄パイプはワルターとオンドレイに挟まれて

 何もできない。

 

「おまえらなにもんだ!」

 とナイフ持ちが声を上げるが、

 

「質問はパンチの後に受け付けまーす」

 と言い終わらないうちにヴァイのパンチが

 ナイフ持ちの口元に入り、悶絶する。

 

「よーしそこまで!」

 

 気づいたら黒い完全装備に銃を持った数人に

 取り囲まれていた。

 

「警察? 来るの早くない?」

 ワルターの声。

 

 

  帽子にマスクの3人は取り押さえられて、

 金剛石の4人も事情を聴かれているが、

 役者3人を助ける形になったので、特に

 お咎めは無さそうだ。

 

 金剛石の4人がニコロ塾の人間であることは

 包囲する前に分かっていたようだ。完全装備

 の警官は合計10人。

 

「ところでさあ、お兄さんたち、実は警察じゃ

 ないでしょ?」

 オンドレイが聞いている。

 

「ああ? よくわかったな。市警には連絡は

 入れてるけど」一人が答える。

 

「いやー、警察の方々にはふだんよくお世話に

 なるので、市警の機動隊とも装備が違うしな」

 

「詳しい話はニコロ塾のおやっさんに聞いて

 みな」と隊のまとめっぽい男性が言う。

 

「え、もしかして軍の特殊部隊?」

 まあそうだな、という答えに、金剛石の男

 3人が、すんげー、と声をあげる。

 

「でも、こんなとこで何やってんすか?」

 あとこの3人何者なんすか、というヴァイの

 問いかけに、

「まあ要人警護で駆り出されてるようなもんだ」

 背後関係はこれから洗う、と答えてくれる。

 

 そろそろ帰っていい、と言われて帰ろうとす

 る金剛石4人に、モモ・テオが声をかけた。

 

「その方たち、我らになにか申し残すことは

 ないか」

 

 あまり乗り気じゃない雰囲気のヴァイ、

「あ、いや、その、今回は一周回ってオシャレ

 かな、と言おうと思ったけど、やっぱごめん、

 言葉が無いや」

 

 動揺してお互い耳打ちし出すショートパンツ

 の3人。心なしか、肩を落として帰っていく。

 

  翌日、ニコロ塾長が状況を話てくれた。

 モモ・テオは、今や軍の要人となっていた。

 詳細は塾長も知らされていないが、

 

 モモ・テオの兄、そして妹とともに、近々

 重要な作戦に参加する可能性があるらしい。

 彼らにしか実行できない戦術があるという

 のだ。

 

 そして、金剛石の方針も180度変更となる。

 芝居のあとに、特殊部隊とともにそれとなく

 彼らを警護だ。

 

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