第52話 秘密結社

  幕が下りて、周囲が明るくなる。

 金剛石の四人、ヴァイ・フォウ、オンドレイ

 ・ズラタノフ、ワルター・テデスコ、そして

 ヤーゴ・アルマグロが、それぞれ伸びをして

 立ち上がる。

 

「やっぱ何回見ても面白いな」

「毎年ベンケイのデザイン新しくなるのズルい

 よな。そんで毎回模型売れてるらしいし」

 オンドレイとワルターが話す。

 

「けっきょくあの後皇帝とトキコはどうなんの

 かな?」

「ヴァイねえは毎回そこ気にしてるし」

「いや、そこだろふつう」

 

 今回の演劇は、実際の中間都市周辺での出来

 事をある程度元にしている。それも、人類が

 中間都市の宙域に着いて少し経ったぐらいの、

 4万年ほど前の歴史だ。

 

 そのまますぐ会場を出て、外で時間を潰す。

 ここからが彼らの本当の任務だ。ニコロ塾の

 実体は、秘密結社の禍福社。そして、その

 実行部隊が、金剛石の裏の顔だ。

 

  そして、その3人が出てきた。金剛石が

 狙う対象、それは、今回の舞台に立っていた

 人物たちだ。

 

 並んで歩いてくる3人、左から、フィオラ・

 タイナート副将軍を演じていた、イレイア・

 オターニョ、紺地に桜の花の浴衣だ。

 アゴ周りが少ししっかりしているが美人だ。

 

 真ん中が、トキコ・タイナート上将軍を演じ

 た、モモ・テオ、白地に山の絵の浴衣。

 

 右端が、ザイラ・タイナート将軍を演じた、

 マティルデ・カンカイネン、赤と黄の紅葉柄

 の浴衣を着ている。

 

 3人とも髪をまとめて、それらしく歩いて

 くるが、言っておくが、こいつらは全員男だ。

 

「待てーい! おれたちは、金剛石だ!」

 

 知ってる、と短く答えるモモ・テオ。

 オンドレイがイレイアの前、ヴァイがモモ・

 テオの前、ワルターがマティルデの前に立つ。

 ヤーゴも後ろで身構える。

 

 浴衣の3人のほうが、金剛石のそれぞれ3人

 より少し背が高い。

 

「そのほうら、我らがタイナート家の者と知っ

 ての狼藉か?」

 モモ・テオの言葉に、

 

「その話はもう終わってんだよ!」ヴァイが

 叫んでモモ・テオに掴みかかるが、

「我らと尋常に勝負致せ!」とつられてセリフ

 がおかしくなるワルター。

 

 モモ・テオの肩口を掴みかけた瞬間、手首を

 掴まれふわっと一回転して地面に叩きつけら

 れるヴァイ、すぐ回転して立ち上がり、今度

 は体の重心位置に気をつけて踏み込みながら、

 脇のあたりを掴む。

 

 そこから渾身の一本背負いを放つが、この

 モモ・テオ、その投げを柔らかく受けて、

 まったく崩れる気配がない。

 

 他の技も試すが、まるで暖簾に技をかけて

 いるかのごとく、力がうまく伝わらない。

 

 その間にも、オンドレイがイレイアに数発

 殴られ、ワルターがマティルデの回し蹴りを

 頭部に受けて、ふらついている。

 

 形勢悪しと見て、撤退を決意するヴァイ。

 

「おまえらなあ、季節感ないんだよ!

 ダッセーな!」

 ヴァイの言葉に動揺する浴衣の3人。その間

 に、ワルターに肩を貸して逃げ出す金剛石。

 

「木の打ち込みだけじゃなくて、竹の打ち込み

 もやった方がいいよー」

 となにやらアドバイス的なことをくれるモモ

 ・テオ。うるせえ、と返して逃げていく

 ヴァイたち。

 

 その様子を見守る6名の黒い影。

 

 

  宇宙構造都市曼陀羅型9999番、外周部

 のビャッコブロック、1層目から公共交通

 機関で戻って来た金剛石の4人は、翌日

 ニコロ塾の寺子屋に出る。

 

 塾長のニコロス・ニコロディが語る。 

「前のサンボの大会でもそんなに悪くはなかっ

 ただろ、お前たちはけして弱くはない」

 

「おやっさん、なんか飛び道具的なものを

 使うのはダメなんですか?」

 そう問うワルターに、

 

「駄目だ。まずは相手の心を制す。我らは単

 なる過激派でもゴロツキでもない」

 ニコロディが諭す。

 

「いい芝居見せられて、コテンパンにやられて、

 心を制せられているのは今のところ……」

 オンドレイが誰となく言うが、ニコロディは

 相手にせず、

 

「もう少し打撃系の技と投げ技のバランスが

 必要だな。そして、もっと序盤から畳み

 かける」

 

「そうだ、おやっさん、モモ・テオの奴が、

 タケの打ち込みがどうの言ってたよ」

 ヴァイだ。

 

「リチャード・キムラも強かったけど、なん

 つうか、捉えどころがないんだよな、

 モモ・テオは」

 

「それは、おそらくアイキの技術がからんだ

 投げ技に対する防御のテクニックだな」

 ニコロディがどこかを見ながら答える。

 

「固定された木人への技の打ち込みはやって

 おるわな、それを、しなる竹を相手にやる、

 という練習法が古い文献に残っとる、

 やってみるか?」

 

「面白そうだね」

 ヴァイは乗り気だ。

 

「じゃあ具体的にはあとで考えるとして、

 金剛石の活動の理論的背景をもう一度

 おさらいするか」

 

  半獣半人座星系から、反発展主義と呼ば

 れる危険思想が中間都市にも入って来た。

 モモ・テオ一派は、その芸風から、反発展

 主義者であると指摘されている。

 

 それに対し、いち早くモモ・テオ一派に挑戦

 状を叩きつけて抗争を開始したのが金剛石だ。

 と同時に、ニコロ塾では反発展主義そのもの

 の研究も開始している。

 

 ニコロ塾は、比較的いろいろな思想を勉強

 する。それも、かなり踏み込んだところ、

 つまり、その主義を表明する程度にまでだ。

 

 反発展主義に関してどこまで踏み込むかは

 わからないし、人によっては節操がない、

 と言うひともいる。しかし、ヴァイたちは

 ニコロディのそのやり方を受け入れていた。

 

 考える前に、まずやってみる、飛び込んで

 みる、というのは、なんとなく彼らの性に

 あっていたのだ。

 

 少なくとも、学校で習う眠たくなるような

 話よりは、幾分か面白く、かつ自分の

 ためになるような気がした。

 

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