第51話 歴史の舞台

  幼い皇帝の前に、タイナート家の3人

 の将軍が控える。

 

 上将軍のトキコ・タイナート、副将軍の

 フィオラ・タイナート、同じく副将軍の

 ザイラ・タイナート。

 

 場所はフクハラ京、帝都の中心地にある、

 皇居の執務室。

  

 小さな丸顔に大きな切れ長の瞳、長い黒髪、

 トキコ上将軍が立ち上がり、命じる。

 

「敵軍はすでにこの都に迫ってきています。

 ザイラ副将軍、一軍を率いて、これを討伐

 せよ」

 

 仰せのままに、と返事をし、小顔でスタイル

 の良いザイラ副将軍が立ち上がり、一礼して

 下がってゆく。

 

「敵はこの都まで迫っておるのか」

 5歳になったばかりの皇帝が声を出す。

 

「前皇帝陛下のようなことにはなりませぬ」

 トキコ上将軍が答える。前皇帝は、前回の

 親征時に不幸にも命を落としていた。

 

 

  タイナート帝国第3宇宙軍が航行する。

 その真紅の旗艦、レッドデーモンの戦闘用

 艦橋に立つザイラ副将軍。

 

「閣下、敵接触まであと1分です!」

 

「作戦どおり、線形鶴翼から球形鶴翼へ展開

 せよ」

 

「自軍敵軍とも射程内入ります!」

 

「砲撃開始、一点集中から敵を殲滅せよ!」

 ザイラ副将軍の指示とともに戦闘が開始

 される。

 

  一方こちらはフイ共和国宇宙軍の漆黒の

 旗艦、ゴブリンクロウのブリッジに立ち、

 艦隊を指揮するヨシツネ・ミナコーレ将軍。

 黒装束、褐色、長身の美男子だ。

 

「立体魚鱗陣で微速後退! 序盤耐えれば必ず

 我々が勝つ!」

 

 タイナート帝国軍の球形鶴翼陣による圧倒

 的火力の前に、フイ共和国軍はかなり

 押されるが、

 

 大量のシールド艦を全面に押し立て、かつ

 ローテーションをかけていた。シールドの

 切れそうな艦を後ろに下げ、補給する。

 その他の砲艦などの攻撃系艦も、

 順次ローテーションさせた。

 

 一点集中攻撃を継続していたタイナート

 帝国軍も、いったん敵軍から距離をとり、

 弾薬やシールドの補給の必要がでてきた。

 

 帝国軍は、全軍が鶴翼陣で戦っていたため、

 控えがいない。

 

 その敵軍の状況を把握したヨシツネ将軍。

 

「よし、私が人型機械で出る!」

 

 これも漆黒の巨大人型機械、ベンケイに

 乗り込むヨシツネ将軍。艦隊指揮を副官に

 任せ、高機動艦を引き連れて出撃する。

 

「敵上方を迂回し、敵軍斜め後方から敵軍

 中央、旗艦を狙う、みな、我に続け!」

 

 高機動別動隊の動きを隠すかのように、

 フイ共和国軍は魚鱗陣から散開し出す。

 が、その後球陣となり、相手鶴翼の

 ふところに飛び込む動きだ。

 

  帝国軍が共和国軍の別動隊の動きを

 察知したとき、ザイラ副将軍は状況が

 もはや手遅れであることを察した。

 

「旗艦を残し、全軍撤退! 急げ!」

 

「しかし閣下!」

 

「急げ、お前たちも撤退せよ」

 

 殉死を覚悟した数名のオペレーターと

 副将軍を残し、人がいなくなる。

 

 敵巨大人型機械と高機動艦が迫る。

 旗艦レッドデーモンの双眸が開かれ、

 拡散放射砲を放つが、簡単に敵機を

 捉えることはできない。

 

「神は我を愛さなかったか……」

 

 大量のレーザ光と砲撃を受けて、レッド

 デーモンが閃光に包まれる。轟音と

 閃光が止んだあと、ザイラ副将軍を弔う

 かのうようなピアノ曲がどこからか

 流れてくる。

 

  ここでいったん10分間の休憩。

 

  再び幕が上がり、帝都フクハラ京。

 トキコ上将軍が報告を受けている。

 

「おそらくヨシツネが最前線に戻って来たかと」

 

「やはりそうか」

 上将軍が報告に応え、皇帝のほうを向く。

「皇帝陛下、ここはもはや、親征しかござりま

 せぬ、敵艦隊が来れば、帝都も危険となり

 ましょうゆえに」

 

「余は親征を恐れてはおらぬ、早く父上の

 元へ向かおうぞ」

 

「そんなことを仰られてはなりませぬ、ここに

 いるフィオラ副将軍とわたくしとで、必ず

 勝利を手に入れまする」

 

 

  完全に帝都の守備を放棄し、全軍で出撃

 するタイナート帝国。旗艦ブルーデーモンに

 フィオラ副将軍が乗艦するが、

 

 トキコ上将軍と幼き皇帝は、白色の旗艦

 ノーマスクや、金色の親征艦プラジュニャに

 は乗艦せず、二人とも一般の高機動艦に乗る

 こととなった。

 

 フイ共和国のヨシツネ・ミナコーレ将軍が

 率いる共和国宇宙軍はもう帝都間近に

 迫っている。

 

「敵艦隊捕捉!」

 

「作戦どおり、斜線陣で正面より当たる」

 

 共和国軍は、前回の戦闘と同じ、立体魚鱗陣

 の構えだ。縦深陣に対し、鶴翼のような横陣

 ではなく、同じく縦型で当たる。

 

 戦闘が開始される。開始から、鶴翼陣ほどの

 派手さはない。

 

 だが、左側に重点を置いた斜線陣は、じわ

 じわと相手を斜めに押し込んでいた。頃合い

 だと断じたトキコ上将軍は、副将軍へ指令を

 だす。

 

 蒼い旗艦ブルーデーモンのブリッジに立つ

 フィオラ将軍が叫ぶ。

「高機動部隊、全速前進! 左から相手後方へ

 まわりこむ!」

 

 ザイラ副将軍がやられたことを、やり返す。

 魚鱗陣の後方は弱い。後衛の補給部隊を

 潰せば、勝てる。

 

 が、しかし、共和国軍の反応は早かった。

 ブルーデーモンの後方からの突撃に対して、

 共和国のシールド艦や砲艦が、いつの間にか

 反転してこちらを向いている。

 

 球形陣に変化したのだ。

 

 しかも、巨大人型機械、ベンケイが待ち受け

 ていた。防御の弱い高機動艦が次々と破壊

 されていく。

 

 必死に転回を試みるフィオラ副将軍の旗艦

 ブルーデーモンであったが、ついに砲撃の

 嵐に捕まる。

 

「私は……、自由になれるのか?」

 

 フィオラ副将軍の体が砲撃で出来た亀裂から

 艦外へ放り出された。

 

  フィオラ副将軍の突撃は失敗に終わったが、

 それでもまだ敗北とは言えない状況だと

 見ていたトキコ上将軍の前で、状況が変わり

 出す。

 

 球形陣と見ていた敵の陣形が、するすると

 ほぐれ、その先端が帝国軍旗艦のある

 位置まで延びてくる。

 

 ヨシツネ考案の、球形車懸かりの陣であった。

 半包囲されつつ旗艦を狙われる帝国軍。

 共和国機動艦が、帝国旗艦ノーマスクと、親

 征艦プラジュニャの位置にまっすぐ向かう。

 

 陣形を崩され、次の手も持たず、もはやこれ

 までと判断したトキコ上将軍。

 

「全軍、旗艦ノーマスクと親征艦プラジュニャ

 を全力で護衛せよ! 一部機動艦は、散開

 しつつ各方面へ撤退せよ!」

 

「陛下、宙の向こうにも都はござりまする」

 

 そう皇帝に告げて、

 トキコ将軍は、太陽系でも半獣半人座星系

 でもない方向へ、艦を向けるよう指示した。

 

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