第35話 夜襲の兆候

  そのまま四階、五階と確認を続ける。

 四階は二階と同じ構造、そして、五階は

 三階と同様、四階のオペレーション室と

 なっていた。

 

 その四階だが、すでに生物はいない。

 巨大な生物の、白骨化した死体があった。

 しかし、骨の部分を見るだけでも、さき

 ほどの巨大熊よりもふた回りほど大きい。

 

 ヨミー・セカンドにシキガミを通して

 確認してもらうと、バッファローという

 牛に似た動物の改造生物の骨に見えると

 いう。

 

 生きていればかなり苦戦したようにも

 見えるが、大きすぎて扉を通れない気も

 する。それを利用してうまく戦えた

 かもしれない。

 

 五階のオペレーション室には、三階に

 あったような餌のストックが無かった。

 餌代が払えずに飼育を諦めたのかもしれない。

 10メートルを超える体長、いったい一日に

 どれだけ食べたのだろうか。

 

  この日はそこで早めに引き上げて、また

 一階で宿営する。現地組は早めに食事を

 して、すぐ就寝する。本部隊は、すでに

 順番で睡眠をとっているようだ。

 

 つまり、今晩は夜襲を予想している。上階に

 潜んでいる人間と、塔外部の人間との間の

 通信を傍受したのだ。

 

 さすがに平文で通信はしていなかったが、

 暗号化通信であっても、玄想旅団にはそれを

 解読できるエンジニアがいる。暗号を解読

 できるエンジニアはこの惑星では稀有

 だったので、油断したのだろう。

 

 夜襲は、おそらく塔内に潜んでいる何名かの

 グループと、外部の軽装騎兵による同時の

 奇襲となるだろう。

 

 外部の戦力とは、おそらくこの塔内の人間と

 取り引きを行う盗賊の集団だ。

 

  本部の位置を、北側の階段の扉の向こう側

 へと移動する。そして、準備を行う。

 それは、明け方近くの時間帯。

 

 建物内の灯りは、深夜は弱められるが、

 少し薄暗くなる程度だ。それが、突然真っ暗

 闇となる。塔の一階の外壁扉が開き、

 数十名と思われる足音がする。

 

 同時に、二階からも数名の、人が降りて

 くる音がする。階下では、数名が慌てて

 いる様子だ。暗視ゴーグルでその様子が

 よく見えるため、一気に接近して

 勝負を決めに行く。

 

 しかし、そのうちの一人が、呪文を詠唱

 し始めた。狭い階段で逃げ場がない。

 それでも数名近寄ってくるが、スヴェンと

 オリガ・ダンがその前を塞ぐ。

 

 連続で魔法を放つシャマーラの横で、

 催眠の呪文を使うのはパリザダだ。同時に

 シキガミを目くらましに使う。安価で大量

 生産できるシキガミは、そういう使い方も

 できた。

 

 隠れて端末を使いながら状況を把握する

 のはヨミー・セカンド。 

 

 一方外部から侵入した一団は、北側の

 扉前まで到着し、扉に手をかける。

 中へ踊り込むつもりで開けようとした

 寸前、扉が開いて人が飛び出す。

 

  アントンを先頭に、イスハーク・サレハと

 おれ、ベルンハード・ハネルが飛び出す。

 イスハークは腰の2丁の短銃を使い、次々と

 侵入者の腕や足を撃ち抜いていく。

 

 彼の銃は、ホルダーから抜くたびに砲身の

 形状を変化させる。シールド機能を持った

 装備に対しても、この砲身変化と早撃ちで、

 力場シールドが反応できない。

 

 予めそれがわかっていれば、突入前に

 シールドを出しっ放しにするのだが。

 

 その外部侵入者の背後に、迫る影があった。

 東西の通路の部屋から出てきた、双子の

 クノイチ、そしてセイジェン・ガンホン。

 

 セイジェンは、十字路の中央で増援に備える。

 クノイチのイズミ・ヒノとナズミ・ヒノは、

 戦闘装備に身を包み、神経性麻酔剤の塗ら

 れた短刀を一人ひとり突き立てていく。

 

  そのころガンソク・ソンウは塔の外にいた。

 外部侵入者は馬でここへ到着し、見張り2名

 を残して全員中へ侵入したようだ。

 その数、見張りを含めて22名。

 

 少し離れた位置から、閃光玉を複数投げ込む。

 音と光、数秒して、セイジェンが走って

 駆けつける。ガンソクも加わって、見張り

 2名を素手で片づけた。

 

 その2名を拘束帯で動けなくして、

 セイジェンは十字路へ戻り、ガンソクは

 馬を別の場所へまとめていく。

 

  内部では、スヴェンとオリガがどんどん

 相手を押していく。ヨミーの解析では、

 上階から来たのは30名ほど。ほとんどが

 戦士タイプで、飛び道具持ちもまともに

 その道具を使える状況にならなかった。

 

 20名ほど戦闘不能にしたところで、

 上階から来た襲撃者は撤退を決めたようだ。

 

 外部侵入のほうも降伏して片付いた。

 それにしても、この侵入者たち、東西の部屋

 の中を確認しなかったというのは迂闊過ぎる。

 

 負傷者の傷の手当てと拘束を行い、町に

 護送車を依頼する。けっきょく42名を

 確保したことになる。全員、いったん

 一階の西側の部屋にある個室へ監禁する。

 

 捕虜の処理が終わったところで休憩をとり、

 そして最上階を目ざす。最上階へは本部も

 ともに動く。

 

 まず六階は、一階と同じような構造で、

 居住区となっていた。襲撃してきた者たち

 が、最近まで使っていた感じだ。

 

 逃げた残りのメンバーは、おそらく七階へ

 逃げたのだろう、六階には誰も残って

 いなかった。

 

  六階から、七階の構造を解析する。

 階段を上がったところは、広くなっていて、

 塔の中心から向こう側に、部屋がある。

 

 そのすぐ上がったところで迎え撃ってくる

 のか、それとも部屋の中で守っているのか。

 六階の階段下に本部を置いて、いよいよ

 最上階だ。

 

 我々が階段から顔を出したぐらいで、

 七階の部屋からワラワラと出てきた。

 さきほど逃げた10名プラス1名。

 老人の魔法使いだ。

 

 さっそく詠唱を始める。同時に、玄想旅団

 のシャマーラも詠唱を始めた。久しぶりの

 魔法戦になりそうだ。

 

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