第34話 守りの匠

  翌朝から、2階の探索に入る。外壁の

 内側に沿って上方へカーブを描く階段を

 上っていく。1層あたり30メートル

 ほどあるため、踊り場が数か所ある。

 手すりも両側に付いている。

 

 1階の階段下の位置から探査を行って、

 安全を確認しているが、あまり油断はでき

 ない。一般に市販されていない自製の小型

 砲台などは、探査に引っかからない可能性

 もある。

 

 階段を上がって二階に到着すると、通路が

 外壁の内側に沿ってぐるっと塔の周囲を回って

 いるように見える。いったん真北の位置に

 戻ると、すでに三階へ上る階段がある。

 

 そのまま三階へ上がることも出来そうだった

 が、いったん二階の探索を済ますことにする。

 反時計回りに通路を進む。左手側は、円形

 の大きな部屋になっていそうだ。

 

 丁度真南に着いた時、部屋の入り口があった。

 そこを入ると、また通路だ。5メートル

 ほど進んだ先に再び扉がある。その扉は、

 他の扉と比較して頑丈そうな造りに見えた。

 

  この塔の発電システムはまだ生きている。

 おそらく、風力発電と恒星宇宙線発電の設備

 は少なくとも存在しそうだ。あとは地熱発電

 も寒冷地では使っている可能性がある。

 

 頑丈な扉を開けるとそこも灯りが点いている。

 周囲も頑丈そうな壁。広い円形の空間。

 

 東西にひとつづつ扉があるのが見える。そして

 中央に、黒い山がうずくまっている。我々の

 侵入に気づいている。我々との間に、遮る

 ものはない。

 

 体長8メートル、体高5メートル弱、体重

 4トンといったところだ。熊という動物を

 生体改造したものだろう。

 

 こちらの6人はゆっくり中央に進みながら

 フォーメーションを組む。その怪物は、

 奥のほうにいたが、4足で立ち上がり、

 こちらへ走り始めた。

 

 中央で待ち構えるのはアントン・カントール、

 そこから少し距離をとって後ろにシャマーラ

 ・トルベツコイ、左におれ、ベルンハード

 ・ハネル、右にスヴェン・スペイデル、

 

 左後方からイスハーク・サレハ、さらに左へ

 セイジェン・ガンホンが回り込む動きだ。

 巨大熊はスピードに乗り、アントンに

 あっという間に接近する。

 

 シャマーラは火球の呪文の詠唱を始める。

 イスハークはすでに狙撃を開始していて、

 何発か命中している。麻酔弾だが、この

 巨体だとかなりの数を入れないと、

 おそらく効いてこない。

 

 アントンは、いったん右へ回り込むふりを

 して、相手の左手の一撃を誘いながら、右へ

 流れる。体を反転させて、一撃を盾も使用

 しながら体全体で柔らかく受け止めつつ

 跳ねる。

 

 向かって左方向へ大きく吹っ飛ぶが、

 そのあと転がって、大きなダメージはなさ

 そうだ。盾と濃紺の装甲から、黄色い衝撃

 吸収剤が捻り出され、パチパチと音を立て

 ながら元に戻っていく。

 

 盾は大きく変形しているが、時間とともに

 元にもどる。それぞれ、構成している材料

 そのものが持つ機能だ。

 

  防御というのは、装備の機能や性能にも

 たしかに大きく依存するが、それ以上に、

 防御技術がものを言う。

 

 今のアントンの防御の技も、ふつうに受けると

 簡単に腕が飛ぶ。あるいは頭部に受ければ

 もうそれで落命だ。ナノマシンによる

 治癒でも追いつかないだろう。

 

 巨大熊は次にスヴェンに照準を定めて、距離

 を詰めるが、すでに接近していて勢いは付け

 られない。スヴェンは低い体勢で盾で受け止め

 るが、素早い位置取りにより、相手の攻撃の

 インパクトを微妙にずらしている。

 

 そのうちにシャマーラが発した火球が右背

 に当たり、巨大熊は咆哮をあげながら

 立ち上がる。いったん下がって距離をとる

 よう動くが、こちらは簡単に距離を

 とらせない。

 

 押さば引き、引かば押す動きで、さきほどの

 突進を、二度はさせない。

 

  その間に、首元あたりを狙ってイスハーク

 の麻酔弾が次々決まる。アントンが中央に

 戻ってきて、威嚇を続ける。先ほどの会心の

 一撃から、なんなく戻ってきているのを見て、

 この怪物は何を思うだろうか。

 

 もう一度、今度は右手の一撃を試みるが、

 今度はバックステップで避ける、そこへ

 おれが足元に棍棒の一撃、これはスピード

 重視であまり威力がないが、それに

 怒った巨大熊がこちらに覆い被さってくる。

 

 それを、武器と盾を持ったまま、横っ飛びで

 転がりながら避ける。これも技術の一つだ。

 そこへ反対側から距離を詰めたスヴェンの

 木槌と雷撃。

 

 ほぼ同時にシャマーラの雷撃魔法。また

 大きな咆哮をあげる巨大熊に、おれの背後

 から飛び込んだ影、動きが鈍ったのを

 見切ったセイジェンが、巨大熊の右腕を

 居合で一閃する。

 

 一瞬バランスを崩し、右手の異常を認識する

 巨大熊、おそらく右手の肘あたりの健を

 切られ、体重を支えるのが難しくなるはずだ。

 

 そこへ、間髪入れず右足に浸透打を決める

 おれ。そしてすぐ離脱。そして、動作が

 鈍った巨大熊の右目にイスハークの

 弾丸が命中する。

 

 戦意を喪失して威嚇しか行わなくなった

 巨大熊に、シャマーラが催眠の呪文を数度

 使い、麻酔弾も重なって効果が発揮される。

 

  いったん本部へ戻り、巨大生物用の網と

 拘束帯を持ってくる。あとで本部から依頼者

 または行政に連絡して処置を確認する。

 

 可愛そうだが、人間を見たら攻撃するように

 教育もされているだろう、おそらく安楽死だ。

 

 寝ている巨大熊を固めたあと、メンバーの体の

 状態をチェックし、休憩もとったうえで、

 上階を目ざす。

 

 三階は、二階とほぼ同じ構造で、中央に大きな

 円形の部屋があるが、二階を監視するオペレー

 ター室となっていたようだ。

 

 巨大熊のエサの倉庫と、モニタリング設備、

 餌を落とすのに使うのだろうか、下の階へ

 繋がる蓋付きのダクトなどがあった。

 

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