第33話 雪原の塔

  雪原の塔、と呼ばれている。その姿は、

 直径100メートル、高さ200メートル

 ほどの円柱形だ。

 

 その建設時期や目的は明らかになっていない

 が、寒冷地での実験や研究を行うために

 造られたのではないかと推測されている。

 

 塔から1キロの地点で、サポートの6人が

 我々に物資を渡して、折り返していく。

 今回のようなミッションは、例えばギルド

 に属していないグループなどにとっては

 かなり難易度が上がる。

 

 ミッションそのもの、というよりも、そこに

 行きつくまでが難しくなるのだ。だが、今回

 のものも、行程が最高難易度というわけでも

 なく、もっと難しいものがある。

 

 例えば、ミッションをこなすにの7000

 メートル級の山を登頂しなければならない

 場合であるとか。そうなると、もはや

 移動の行程が、というよりも、麓に小屋の

 建築から始まる。

 

 そこを本拠地に二百人体制で攻略を目ざす、

 などということになってしまうのだ。

 

  塔の周辺は天候も良く、気温も氷点下

 前後というところだろう。周囲を警戒しつつ

 門へ接近する。ニコリッチ商会からの事前の

 情報では、塔自体に外部へ攻撃するシステム

 や罠などは無い、とのことだ。

 

 念のため、門近くから塔の外部の解析を行う。

 探査ドローンのシキガミも飛ばす。安全を

 確認してから、門の扉を開く。門の暗号

 キーはニコリッチ商会から入手していた。

 

 遠景から見たときはそうでもなかったが、

 近くから見上げると巨大な塔だ。

 

 この塔は、事前の情報では、七階層からなる。

 塔の攻略方法は、塔のタイプによって色々

 ある。例えば、砦タイプの塔の場合、冒険者

 旅団では攻略が無理だ。軍、つまり国が

 動くしかない。

 

 あるいは、時間をかけて根気よく守備側の

 銃士や魔法士、弓兵、砲兵などを消していく。

 守備側に飛び道具が無くなれば、攻略の

 可能性も出てくる。

 

 次に攻略が難しいタイプの塔が、積極的に

 決戦を挑んでくるタイプのものだ。塔自体に

 侵入する際にはそれほど抵抗はないが、

 塔内でのキャンプ中などに奇襲をかけてくる。

 

 その場合、まずとにかく事前にどれだけ

 情報を手に入れるかがポイントとなる。塔

 全体でどれぐらいの戦力があるか、そして、

 その戦力をどの程度集中させて差し向けて

 来るのか。

 

 単純な話、自分たちよりも質と量において

 より大きい戦力を持っており、それを

 一度に投入できるのであれば、こちら側は

 勝てる見込みが無い、ということになる。

 

 一番計算が立ちやすいのが、各階層で完全

 に守りに入っている塔である。必ず攻略

 できるわけではないが、下から順に攻略して

 行き、無理な相手が現れたらそこで諦め

 ればよいだけである。

 

 これは、洞窟や迷宮などにも言えることで、

 町から近い人気のある洞窟などで、相手側も

 積極的に攻めてくるタイプの場合、複数の

 冒険者旅団が暗に、あるいは事前に約束して

 協力しながら攻略したりもする。

 

  今回攻略しようとしているこの雪原の塔は、

 ニコリッチ商会からの情報では、比較的

 守備的な塔とのことだ。つまり、向こうから

 攻めてこない、こともない、ということだ。

 

 塔の一階の構造は、扉からまっすぐ塔の

 中心部へ通路が伸びており、天井は高く約

 30メートル弱、中心部まで行くと、

 そのまままっすぐの通路と、直角に左右へ

 折れる通路がある。

 

 塔の外壁扉はちょうど南面にあるので、

 ちょうど通路が東西南北にのびる形だ。

 東西の通路は中心から50メートルで

 行き止まり。

 

 北の通路は行き止まりに扉があり、それも

 外部へ出る扉ではなく、階段のある部屋へ

 の扉だろう。塔の一階は、東西南北に

 通路で区切られて、四つの部屋が存在する。

 

 東西の通路のちょうど真ん中あたりに、

 南北の壁に面してそそれぞれ部屋への扉が

 ある。そこを、現地組で一つ一つ確認

 していく。

 

 本部は、塔の扉入ってすぐのところで

 キャンプだ。上階からの奇襲に備える。

 夜の見張り役はこのタイミングで休む。

 

  南西側の部屋から順に時計回りに部屋を

 調べていくことにする。南西と北西側は、

 人が宿泊するための部屋らしきものが

 それぞれ20ほどあった。

 

 そして、シャワールームやバスルーム、

 トレーニングルーム。警備の兵か研究員など

 が使用していたのだろうか。今は誰も

 いない。

 

 次に北東と南東側を確認する。大きな食堂

 らしき部屋、書庫、会議室、倉庫など。

 使われなくなってからそれなりの年月が

 経っていそうだ。

 

 一階の部屋に特になにもないことが確認

 できたので、北側の突き当りも見に行く。

 扉を開けると、階段が、外壁の内側に

 沿って上へ伸びていた。東方向のみだ。

 

 そこまで確認できた段階で、今日の探索

 は終わりとする。南側の通路を使って

 キャンプする。塔の外は雪が降り始めた

 ようだ。

 

 攻略中の塔内でそのまま寝泊まりする、

 というのも状況次第だ。明らかに危険な

 場合は外の少し離れた場所に宿営する

 こともあり得る。

 

 今回は内部を解析して問題ないとして

 宿営するが、もちろん交替で見張りもする。

 今夜は奇襲は無いというオリガ・ダン他、

 本部メンバーの読みで、見張りは二人だけ。

 

 外部の探索もシキガミだけで行う。現地組は

 しっかり食事もとって、第2戦闘配備で

 就寝する。さすがに鎧は脱げないが、座った

 姿勢で武器を抱えて寝るのにも慣れてきた。

 

 さすがに、今日見つけた個室を片づけて、

 ベッドで寝ようという気分にはなれない。

 攻略後の最終夜に考えてみるか。

 

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