第28話 胸の痛み

  エンジニアのヨミー・セカンドが、

 グレネードランチャーらしき武器を撃つ。

 岩狼旅団の騎馬の二人に、網がかかり、

 その直後に網に通電される。

 

 馬がいななき、暴れる。そこへ、アンデット族

 のパリザダ・ルルーシュが、催眠の呪文を

 決める。呼吸を数秒我慢すればよいのだが、

 動転して呪文自体に気づかない。

 

 廃砦方面からの襲撃は、これでいったん

 収まったかたちだ。盗賊と馬を確保する。

 

 セイジェン・ガンホンが、洋館の援護に走る。

 

  せき込みながらエルフ族のシャマーラ・

 トルベツコイの前に転がり出たおれは、

 ジェスチャーで胸と腕をやられたことを

 伝える。

 

 回り込んでくるスケルトン兵士に火球の呪文

 で追い払っていたシャマーラは、確認の

 ためにしゃがみ込む。そのうえをスケルトン

 兵士の剣が通りすぎるが、すぐドワーフ族の

 スヴェン・スペイデルが飛んできて木槌で

 吹っ飛ばす。

 

 おれの装備を開けて、胸の部分を確認して

 手を当てる。シャマーラは、この回復法の

 使い手だ。原理的には浸透勁に似ているが、

 こちらは破壊でなく治癒だ。

 

 一瞬で楽になったおれは、腕のほうを見せる。

 掠っただけで切れてもいない。問題ないことを

 確認すると、おれを立たせ、前に蹴り出す。

 すぐさま次の呪文の詠唱に入る。

 

  おれがシャマーラの元に転がる直前、

 おれの命がけの牽制に合わせて、スヴェンも

 逆側から飛び込んで木槌の打撃と雷撃を

 決めて、そしてうまく離脱していた。

 

 それにじゃっかんの隙を認めたのは、

 折り畳み戦闘用アンドロイドのダラムルムだ。

 ジャイアント族のアントン・カントールの

 背後から、背中を利用して飛び上がる。

 

 そして、ヴェータラの顔に、巻き付いた。

 ヴェータラは、三つある顔のどれもが

 ウオーンと雄叫びをあげる。

 

 チャージ音がして、閃光と轟音がとどろく。

 が、ヴェータラの周囲に被害はない。かわり

 に、ヴェータラの頭部が吹き飛んでいた。

 

 口から放射砲を放つ瞬間に、ダラムルムが

 力場シールドを使った。その反動で、三つの

 顔が吹き飛んだようだ。ヴェータラの飛び道具

 がこれで無くなる。

 

  戦闘が開始されてから、まだ10分も経って

 いないが、ようやく相手側のドワーフ族と

 ジャイアント族の兵士が出てきた。

 

 それぞれ3名づつ、そのなかにその隊の指揮官

 らしき者もいるが、どうやら混乱している

 ようだ。

 

 その混乱の原因はおそらく、廃砦からの応援が

 来ないこと、暗殺担当のアサシン3名が、

 戻ってこないこと、ヴェータラの頭部が破壊

 され、スケルトン兵士もほとんど破壊され

 て骨が転がっていること、

 

 この洋館所属の狙撃士が、二日前から姿を

 見せておらず、連絡も取れないこと、

 洋館の主と言える人物が、部屋の鍵を閉めて

 出てこないこと。

 

 ヴェータラは頭部を破壊され、肩部分の

 サブカメラの瞳が作動して開き、あたりを

 見回していた。

 

 洋館の6名の兵士は、ヴェータラに全てを

 任すことに決めたようだ。玄関から戻り、

 扉を閉めてしまった。スケルトン兵士が

 狙撃されているのも確認したのだろう。

 

  このあと、サムライのセイジェン・ガンホン

 や他の本部のメンバーも加わり、とりあえず

 スケルトン兵士は倒したが、ヴェータラの

 頭を吹き飛ばしたとはいえ、まだ手ごわい。

 

 魔法士と回復士を兼ねるエルフ族のシャマーラ

 ・トルベツコイは、間断なく炎と冷却と

 雷撃の呪文をヴェータラへ放ちながら、

 前衛の誰かが転がってきたら確認して治癒を

 行う。

 

 狙撃士のイスハーク・サレハは、酸による

 腐食弾に切り替え、前衛の3人が距離をとった

 タイミングで打ち込む。

 

 温度変化と通電、腐食により、装甲と内部

 機能の摩耗を狙っていた。たいていこれには、

 時間がかかる。

 

 風雨が強くなり、雷も鳴り始めた。ヨミー・

 セカンドが、本物の雷撃の利用をオリガ・ダン

 団長に進言する。そして、そのための準備を

 行う。

 

  ヴェータラは、門付近から離れず、あまり

 突っ込んでくる様子はなくなった。

 おそらく、サムライの持っている武器が、

 斬鋼刀であることに気づいたのだろう。

 

 不用意に誰かに飛び掛かり、止めを狙った

 ところで、そこで動きが止まり、斬鋼刀の

 餌食となる。蓄積ダメージの計算からも、

 もうあまりそういう斬撃を受けられる

 余裕はなかった。

 

 こういう時の攻撃優先順位のセオリーがある。

 治癒士またはダメージ源を先に落とさないと

 いけない。玄想旅団は両方シャマーラなので、

 前衛中央のアントンと、シャマーラ本人の

 立ち回りはとても繊細だ。

 

 魔法を放ち続けながら、距離感を間違わない。

 この攻防が、一時間続いた。待っているのは、

 雷雲だ。ガンソク・ソンウの魔法デバイスの

 補給も届いた。

 

  そして、タイミングがきた。ヨミー・

 セカンドの観測デバイスから、雷雲の位置と

 チャージ状況が見て取れた。

 

 合図を送る。前衛陣は、いったん攻勢に出て、

 そして引く。出来るだけ転がり離れて、

 盾を構える。装備自体の絶縁は問題ない。

 

 落雷の呪文を準備するシャマーラ、上空に

 特殊な誘雷ドローンが飛んでいく。

 ヨミーが、再びランチャーを構え、撃つ。

 

 網を武器で取り除こうともがくヴェータラ

 を除いて、その場の全員が落雷に備える。

 

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