第18話 過酷な赤砂の地

  休暇を利用して、火星に来ている。

 ここは、テーマパーク。オンラインロール

 プレイングゲームの世界を実体験できる

 場所だ。

 

 ボム・オグムは鎧兜に剣を下げている。

 ディサ・フレッドマンは、灰色のフードの

 付いたマント、杖を持っている。

 

 赤い砂の大地、崖に囲まれた場所で、

 巨大な影を見つける。薄い青色の肌を持つ、

 一つ目の巨人だ。

 

 実際はアンドロイドで、ボムとディサを

 見つけて、ゆっくりと歩いて近づいてくる。

 手に巨大なこん棒。

 

 振り下ろされたこん棒が思っていたより

 大きいのもあって、かわし切れないと判断

 したボムは、左手の盾を構えて防ぐ。

 

 盾の上からでもダメージを食らう。

 だが、実際はこん棒の部分は3D映像で、

 盾に当たったという映像上のリアクションが

 あるだけだ。

 

「インドラの神よ、我に雷の力を与えよ、

 トゥニトルア!」

 ディサが叫ぶとともに、轟音が鳴り響き、

 巨人に雷が注ぐ。3D映像の雷だ。

 

 杖に付いているタッチパネルを見ながら

 次の呪文を選び詠唱に入る。セリフは、

 ディサが適当に考えて付けているようだ。

 

「イフリート神よ、我の呼びかけに答え、その

 存在意義を示せ、ファイラボル!」

 巨大な火球が発生し、巨人に向かう。その

 足元で、ボムが巨人の足に切り付けている。

 

 実際には切れていないが、巨人は攻撃を

 受けているリアクションを取る。そして

 ついに巨人が崩れ落ちる。皮膚表面が

 燃えたリアクションだ。

 

「なんかさあ、魔法使いのほうが派手でいい

 よね?」

「交替する?」

 

 ゲームの中で、剣を使う戦士は、派手な

 アクションで技を決めるのであるが、

 現実となると本人がその動きをできな

 ければ出来ない。

 

 従って、剣を振るだけで派手な技が

 出るようにしてあるわけだが、演出と

 してはいまいちだ。

 

 その点、魔法使いのほうは、大した体の

 動きがなくても立派な魔法が出せる。

 

「もともとロールプレイングゲームなんて

 ものは、派手な魔法を使うためにある

 からねえ」

 

 ディサは、魔法使い派のようだ。

 

「剣士も派手な技出せるんだよ」

「やってみればいいんじゃない」

 

 10メートルほんどジャンプして、そこから

 回転して剣で切りつけるような技は、専用

 のパワースーツを着て技をプログラム

 しないと出せるものではない。

 

 ディサならその打撃技で本当の意味で

 ダメージを与えることもできるかも

 しれないが、あとで弁償する羽目になる。

 

  火星はかなり昔から大気調整も行われ、

 緑化もされているが、こういったテーマ

 パークのアトラクションに使用するために

 砂漠のまま残されているエリアもある。

 

 日中は、けっこうな気温になるが、

 利用者は鎧やマントの下に、温度調節

 スーツを着用しているため、快適だ。

 

 近くには給水ポイントやトイレも

 あれば、小腹が空いた時のベンダー

 マシンもある。なんなら移動住居も

 呼べる。

 

「もう少しリアル志向のがあるといいん

 だけどね」

 とボムは言うが、絶対にたいへんだと

 ディサは思う。

 

 火星以内であれば、ここが一番リアル

 志向だろう。木星圏に行けば、もう少し

 規模が大きくて、ダンジョンなども

 探検できるところがあるようだ。

 

 十数日かけて行ってみるかどうか。

 

  ゴブリンの群れ、魔性化した巨大な牛、

 悪の魔法使い、巨大なドラゴンなどを

 次々と倒していく。

 

 今回は二人で周っているが、6人まで

 パーティを組める。同年代で働くひとが

 増える再来年あたりから、誘えそうな

 人間を誘おうか。

 

「馬で周れる場所ないのかな」

「いいねそれ」

「あとでリクエスト書いておこう」

 

 ゲーム中も馬をはじめ、いろいろな乗り物

 に乗ることは可能だ。本物の馬かアンド

 ロイドがわからないが、テーマパークでも

 乗れると楽しいだろう。

 

 ゲームと異なるのは、安全面を考慮しないと

 いけない点だ。一つ目の巨人も、3D映像の

 こん棒で殴りつけはするものの、実体の

 手で掴んできたりはしない。

 

  ここを一周したら、別のコースもあるが、

 そちらへは行かず、それぞれ職業を変えて

 もう一度トライしてみる。

 

 ボムが弓使い、ディサは召喚士だ。

 ボムはその専用の弓との相性がいいのか、

 当てるのがうまい。あれ以来、家で

 練習しているのかもしれない。

 

 召喚士は少し面白い。召喚書を開いて、

 対象を選んで呼び出すのであるが、

 呼び出しをかけると、どこかからアンド

 ロイドのそれが登場する。

 

 そして、一緒に戦ってくれる。これが、

 この部分に力を入れているのか、

 けっこういろいろな種類がある。

 

 その中でもどうしても気になるのが、この

 妖怪というカテゴリーだ。弓使いと召喚士

 が、どちらもあまり接近されるとダメな

 職業のようなので、この、壁みたいな

 妖怪を呼び出す。

 

 壁が防いでくれている間に、ボムが弓で

 攻撃していく。召喚士も、短時間に何度も

 呼び出せるわけではないが、一定時間

 経過すると、次のが呼び出せる。

 

 このぬらりひょんというのはどうだ。

 試してみると、いいのだが、強すぎて面白く

 ない。何だかよくわからない力で、あっと

 いう間に敵を倒してしまう。

 

 人間二人のやることがなくなってしまう。

 こいつは封印かもしれない。

 

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