第7話 ビーチで放置

  リクライニングチェアに寝そべるディサ・

 フレッドマン。ここは、スンバワという島の

 西端のビーチ。

 

 そばの小さなシートには、グレートピレニーズ

 のタピオと、げっ歯類のチンチラのウッコ。

 トロピカルなドリンクに、水着、サングラス。

 

 午後からであるが、少し泳ぎにいったり、

 寝そべったりを繰り返している。平日なので

 仕事のほうはどうなったのだろうか。

 

 ラウニは、陸側のマウントポイント、と

 いっても太めの杭が4本立っているだけだが、

 その上に停止していた。

 

 仕事のほうは、折り畳みアンドロイドのペッコ

 がレンタル移動住居で進めてくれていた。

 データを集めるための端末と、探査ドローン

 を積み込んで、近くの島を回っている。

 

 「おーい」

 

 来た来た。同い年の女の子、ボム・オグム。 

 

「いつ着いたの?」

「昨日ムーで一泊して、今日高速艇で着いた」

「道具持ってきた?」

「うん、エアロック入れといた」

「スグルいた?」

「うん」

「明日でいいの?」

「うん、ちょっとゆっくりしたい」

 

 船で少し酔ったらしい。

 

  昼寝するというボムとウッコを残して、

 タピオとまた泳ぎにいく。遠浅の海、

 水中の下のほうを見ると、小さな魚が

 泳いでいる。

 

 少し雲が出て、日差しもそれほど強くない。

 人影もちらほら見える、狭いビーチだ。

 砂浜沿いにゆっくり泳ぎ、端までいって

 折り返す。

 

 今頃、折り畳みアンドロイドのペッコは、

 ぶつぶつ文句を言いながら探査をしてる

 のだろう。

 

 でも、ペッコも意外と苔が好きなのだ。

 乗り物からドローンで探査するだけでいい、

 と言っているのに、時々珍しいのが

 あったと言って、降りていって、写真まで

 撮って送ってくる。

 

 地上監視の仕事でアンドロイドを使用する

 例は珍しくなく、監視員によっては、

 月近辺から全く離れることなく、多くの

 アンドロイドを駆使して仕事をこなす

 者もいる。

 

 場所によっては、高い身体能力が要求され

 たり、セキュリティが低いため、自身の

 身を守る技術が要求される地域もある。

 

  またリクライニングチェアまで戻る。

 ボムは、島の男の子たちと話していた

 ようだ。

 

 ボムは、身長はディサとあまり変わらないが、

 少し太めだ。そして、そんなにかわいい

 わけでもない、とディサは思っているのだが、

 けっこうモテる。

 

 今は昼間に実家のペットショップの仕事を

 して、夜は学校に通っている。その年頃

 にしては少ししっかりしてるから、という

 のもあるかもしれない。

 

 月近くの構造都市で、実家が近いのだ。

 他にも同年代の友達がいるが、学校や

 部活動に忙しく、今のところこのボムと

 遊ぶ機会が一番多い。

 

 いつも観光客があまりいない場所を選ぶので、

 宇宙から来たというと、たいてい驚かれる。

 ディサはもう数回ここに来ているので、

 このビーチ付近の人の顔を覚え始めた。

 

 男の子たちがいなくなり、ボムがタピオと

 ウッコを交互にあやす。さすがにペット

 ショップ店員は、コツを知っている。

 

 タピオはまだいいとして、ウッコはけっこう

 な人見知りだ。でも、まったくそれを感じ

 させないで、肩やら頭やらに乗せたりする。

 

 タピオは実家に帰ったついでにトリミング

 なども頼んだりする。口の中やら目やらを

 見て、健康状態もチェックしてくれる。

 

  夕方前に、シャワー小屋で潮を落として、

 家に帰る。ペッコも放置プレイから戻って

 いて、何か興奮している。いい写真が

 たくさん撮れたようだ。

 

 そんなに好きなら、今度硬化苔を、表面に

 塗ってあげようと思う。好きな色に着色して。

 

 移動住居ラウニのテラスで、バーベキュー

 の準備をする。ノンアルコールの缶ビール

 を買ってきてあるので、それで乾杯する。

 

 さっきの男の子たちの話だ。年齢は、

 おそらく自分たちより二つ三つ下だろう、

 という話だ。南国の島の男の子たちは、

 精悍な体つきに、キラキラした目をしている。

 

 そして、地元の話になる。ディサが実家を

 出てからそんなに経っていないのもあって、

 それほど目新しいニュースはない。

 

 半年に一度ペースで帰れるので、地球にいて

 実家がそんなに遠いとは思わなかった。

 それに、やろうと思えば毎週末でも帰る

 ことは可能だ。費用が少しかかるぐらい。

 

 誰か地元に恋人でもいれば帰るのだが。

 

  ディサは、大きくなって、実家、あるいは

 その周辺で一生を暮らす、ということは

 まったく考えなかった。

 

 実家を出てみて、あらためてそんなに悪い

 場所でもなかったんだな、と気づいた。

 たぶん、飽きっぽい性格なのかもしれない。

 

 監視員の仕事も、今はアジアユーラシア

 地域を担当しているが、そのうち

 ヨーロッパアフリカ地域や、南北アメリカ

 大陸を担当したくなるのかもしれない。

 

 そして、それも飽きて、地球上に飽きて

 しまったら、次は木星あたりを目ざすの

 だろうか、それとも、火星や金星、水星

 だろうか。

 

 そして、太陽系に飽きてしまったら、次は

 中間都市を目ざすのか、それとも半獣半人座

 までいくのか。

 

 いや、今は最速でも中間都市まで二千年、

 半獣半人座まで四千年かかる。とても

 生きてたどり着けそうにない。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る