第26話 美味しい?
高校の売店で売られている肉をパンで挟んだ「肉パン」という名前もそのまんまな商品がある。
男子は面白がって試しに、罰ゲームに、と買っては口にしてみるがその口から次に出てくるのは、「不味い」か「ヤバイ」か、さっき食べたそれを戻すかの三択に限られた。
それがわかっていれば、普通誰も買わないので、まったく売れない。
値段は他のよりかは安くても、だからといってわざわざ不味いそれを買う馬鹿は少ない。
実際食べてみた味の感想は、「なんとも言えない味」だとか、「肉になんか入ってるのと、パンも変」だとか。
見た目はそうでもないのだから、ゲームである初心者殺しと同じ仕組みではないか?
また己と同じクラスだった男子が罰ゲームだといって買いに走った。
己は呆れて見ていたが、見る分には別に被害はあんまりないのだから、何も言うまい。
また、どうせ、全て食べきれずに捨てられるんだから、肉となった動物に謝ってはどうだろうか?
いや、どっちかっていうと、そんな不味いもんに変えたパンを作った奴が謝るべきか?
まぁ、せめての一口くらい吐かずに飲み込めれば上等だろう。
男子が肉パンを持って教室に戻ってきたのを皆が見ていた。
一種の見世物として、それを食う馬鹿は、気付かないかのように肉パンの袋を笑いながら開けた。
そして、それを口に入れれば、皆の予想はいつものように、なるはずだった。
「美味い!超美味い!」
そんな嘘が吐けるようになったのか、耐性でもつけたのか、なんて思っていたらどうやら違うらしい。
そんな話が学校中に広まるのには、一週間も要らなかった。
まずは男子らが試しに恐る恐る買ってみる。
それで食べてみれば美味しいと誰一人残らず言うのだから、ならば女子も挑戦だった。
皆が美味しいと言うのだから、皆が買いに行く。
それで完売も早いものだった。
他の商品よりも早いのだ。
己はやはり手に届かなかったから、美味しそうに食べるのを眺めながら、入手出来なかったことも考えて持ってきていた弁当をもぐもぐと1人で食べるのだった。
何か見た目も少し違うような、香りも少し違うような。
微妙に、何かが違う肉パン。
気にならないはずがない。
そこで、販売していた担当の人に聞いてみれば、肉パンを作っているパン屋じゃないとわからないのだとか。
けれど、やっぱり変わったのはその人にもわかっていたし、それでも売り物を食べるわけにはいかないので、気になるのは一緒だそうだ。
ある日、パタリと肉パンは売られなくなった。
またも、聞いてみてば、パン屋が持ってこなくなったなんて話をされる。
皆は酷くガッカリしていたが、己も食べることも叶わずか、と少しだけ悲しかった。
さて、そんな次の日のテレビには、ニュースが流れている。
その内容を見た時、己はつい、笑ってしまった。
もし、そうなら、食べなかった奴が正解で、でも、違うなら、関係ない。
あるパン屋から、女性の遺体が見つかった。
その遺体は、骨と皮だけで中身は全て抜き取られていたのだそうだ。
その女性はパン屋の奥さんで、どうもパン屋の主人は逮捕。
さて、肉パンを持ってきていたパン屋であったなら、その日付は重なる。
そして、美味しくなったタイミングも少し考えれば、違和感なんてないくらいにピッタリだ。
あぁ、これは、実際どうなのかわからないが、わからない方が幸せかもしれない。
だって、奥さんの肉を肉パンに使ったから美味しくなったなんてことがあったのなら、もう胃の中にも残ってやしないさ。
奥さんの肉は何処にもない。
見つかりはしない。
パン屋の主人は何も言わない。
売店にいた人が、肉パンを売っていた人が、真っ青になっていたのを知るのも、己だけ。
もしかすると、の話だ。
どうも似ている形をしていると、思ったら、どうも香りが妙だと、思ったら。
さぁて、どうなんだろうね?
美味しい?
それとも、不味い?
人肉パンのお味は
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