第22話 趣味

(※この話は、己が毎日泣きながら浮かべる程度の話になっており、実際の人物やモノ等が登場したとしても、話自体は嘘が織り混ぜられています。一部一部が実際にあった話をそのまま使っていますが、それが何処なのかは貴方のご想像にお任せします。己の趣味の一つとしてかかすことなく毎晩想像、或いは妄想している内容となっております。現実的に考えて有り得ない等の感想は受け付けておりません。以上の説明を読んで、自分には荷が重いと感じられた場合、即刻別の話へと移動する等をオススメ致します。この話に関しましては、他の話と違い、己の都合で中身が変化したり、続いたり、突然完結したりします。ここでお察し出来るでしょう、つまり、この話だけは他の話と違い何度も便新される可能性があり、一度貴方が読んだ時点ではまだ完結していない、中途半端だったりがあります。二度、三度と回数を踏むか、完結する頃だろうと予測して後々読むか等の工夫をお願い致します。勿論、面白いモノではないでしょうから、飽きてしまわれたのであれば、もう一度の目はなくとも構いません。それと、完結しない場合もあります。説明が長くなり、萎えたかもしれませんが、まだ話は始まっておりませんよ。さて、己の悪趣味、毎晩何処までのどの程度のモノなのか、読み進められる勇者様はどうぞ)




 今日も変わらずネタ収集の為に、クラスの皆と雑談に花を咲かせ、誰かの声を器用に拾って歩きながらメモ帳にペンを走らせた。

 親友と一緒に昼飯を頬張って、部活の話をする。

 サッカー部に所属する俺たちは、親友が尊敬する顧問の先生のぎっくり腰を過度に心配しつつそれを大丈夫だと宥めつつ本来の用途を無視して机に腰掛けていた。

 俺は校内上位の成績に収まっているが、親友はそうじゃなく補習が付きそうだとぼやいている。

 テスト期間に入ったら、部活は出来ないから今のうちに沢山やっておきたいってのはわかるけど、やらなくてはいけないただの課題すら危ういらしかった。

 テスト勉強期間は一週間で、その一週間真面目に勉強に当てる奴が俺に勝てないのは逆に申し訳ないけど、授業さえ真面目に受けてれば予習復習しなくても余裕だって俺は思ってる。

 苦手な科目でも赤点はありえない。

 俺は何故か授業をサボりそうだとかいう印象を持たれているけど、実際まったくサボらない。

 かといって、真面目に授業を受けてるかっていうと、体育の後はお約束で皆が疲れて寝ているのに便乗してスヤスヤと教科書を立てて寝ている。

 ネタ収集が趣味で隙さえあらば、陰口から何から教師のことまで何までこの耳と目で探ったり拾ったりする。

 この趣味が生きるのは部活の時。

 なんでサッカー部でそんなもんが役立つんだよって思うかもしれない。

 それもそうだ。

 俺はサッカー部の他にも別に一つ部活に入っている。

 それが何か、といえば新聞部。

 記事を書いて校内に掲示して、ついでにそれの感想アンケートも集めたりする。

 勿論、他の部活を取材したり依頼されて書いたりもするし、ポエムや占いを投稿する奴のを採用して記事の端とかに入れたり。

 掲示するタイプなわけだから、さほど量もなく大きくもなく。

 部室には今まで書いてきた記事、ネタ等が棚に綺麗に入れられていて、たまーに前の記事が見たいだとか、調べるのに参考にするだとかが来るから見せてやるくらい。

 部員はたったの二名。

 親友ではない。

 無口と俺の二名だ。

 昨日の記事が無造作に机に放置されているのに目をやってから、さて、何を書こうかと伸びをする。

 記事を書くのは部室か家のどちらかで、時間に余裕がなかったら取材したその場所で仕上げたり、家でさっさと書いてしまったりする。

 無口は他の部活に入っていないから、放課後は大体部室で記事を書いているし、俺はサッカー部に所属しているせいで部室で記事を仕上げることは少ない。

 サッカーの試合の休憩時間に手を伸ばすも、仕上げるまでにはいかない。

 ゴールキーパーをやってるし、親友には頼られてるしで、休めない。

 俺がゆっくりと休めるのは、体育後の授業一時限と、昼休憩のみ。

 朝は勿論、記事、ネタ収集!

 だが、親友と過ごす昼休憩に飛び込んでくる害虫もいる。

 野球部に所属していて、凄いバッターだとかいう話等をそこら辺でされているくらいの奴。

 親友のライバルらしくて、でも普通の友人みたいな感じにみえる。

 ソイツが俺は嫌いだし、ソイツも俺を嫌ってる。

「邪魔だ。帰れ」

「はぁ?邪魔なのはそっちじゃん」

「俺はコイツとこれから競争するんだよ。だからあっち行け」

「知らねぇよ。っつーか小学生か!」

「んだと!?」

 大体こんな低レベルな言い合いから喧嘩に発展する。

 いっつもだ。

 親友に絡んできては俺を邪魔者扱いして追っ払おうとする。

 俺は親友とゆっくり雑談したいから、それに突っ掛かって睨む。

 取っ組み合いの喧嘩になっても別に珍しいわけではない。

「あ、榊原サカキバラ!記事書いて欲しいんだけど!」

「はいよー」

 喧嘩よりも記事優先。

 振り向きながら返事して掴んでいた手を離し、俺を掴んでいる手を払いのける。

 今回はそこまでじゃなかった。

 ネタを受け取って、今日の空きに入れて欄を埋めてしまおうと、頷く。

 こうなればもう床に直に胡座をかいてすぐ、記事にする。

 それをまじまじと眺める生徒も少なくはない。

 別に、俺にとっては慣れたもの。

 それが他の生徒にとってはそうじゃないから、見世物にされるんだろうなって思う。

 立ったままでも書けるけど、座れるなら座って書く方がいい。

 チャイムがなる頃には、記事は出来上がり、さっきまでの不機嫌がこの瞬間に消え失せてしまい、鼻歌でも歌いたくなる。

 そして、テスト勉強期間に突入した。

 親友の勉強を助けるべく、放課後は記事を書くのと同時進行で親友に教える。

 赤点だけは避けたい親友は、毎回俺にすがりつき、それに便乗した他の奴等がついでに教えてくれと寄ってくる。

 ただ、親友がいれば俺がいるように、親友がいると知ればアイツも来る。

 何気にソイツも危ういくらいだから、鼻で笑ってやるけど。

「さっちゃん、ここどーやんの?」

「うん?あー、これね。この公式使うの。」

「あー!なるほど!」

「なぁなぁ、これ意味わかんねぇ」

「文章問題はよく読んで!答えは大体前後にヒントがあるもんなの。ほら、ここ。」

「お?」

「つまりは?」

「これ?」

「そう。他のやつもそうやってけば大丈夫。」

 左右前後で全て違う科目だから、その中心で呼ばれたら教える、そして記事を書く、聞かれたら教える、そして記事を、、、という繰り返しの作業を延々とやっていた。

「おい、ここ教えろよ」

「なんであんたもいんの?あんたは教えてくれる人いたじゃん」

「おっかねぇんだよ」

「知らねぇよ!俺既に三人抱えてんだから他当たってくれる!?」

「いいじゃねぇか別に。で、ここどうやんだよ」

「はぁ?ここ?それ前も言ったし。」

「覚えてねぇ」

「覚えろ!意味ないじゃん!帰れよ!」

「短気だな」

「あんたには教えてやんない。知ーらなーい」

「あ、おい!赤点とりたかねぇんだよ!」

「取りゃいいじゃん。ま、俺は余裕ですけどー?」

「ふん、教えねぇっていって実はわかんねぇんじゃねぇのかぁ?」

「は?なんでそうなるのか意味わかんないんですけど?これでも校内二位なんですけど?」

「だったらわかるよな?」

「あったり前じゃん!舐めてんの?ここはこの公式使ってやるんだよ!」

「それで?」

「この数字をここに代入!そしたらわかるでしょ!?」

「サンキュー。出来たわ」

「でしょ?」

 そんな喧嘩混じりをじっと見つめられて、首を傾げた。

「何」

「いや、本当は仲良いんじゃないかなぁって思ってさ」

「はぁ!?んなわけないでしょ!」

「だって、何気にちゃんと教えるじゃん。それにさっき凄い得意気に笑ってたし」

「ちょっと、止めてくれる!?俺もう帰るよ!?」

「えー!?待ってくれよ!」

 転がり落ちたペンを拾って、記事をまた書き始める。

 新聞部の特権だ。

 他の部活と違って、テストに関する内容であれば新聞を書いてもいい。

 そして、勿論それを掲示することも許されている。

 だから、こうやって皆に教えながらも、どういう内容が一番難しく感じたりしてるのか知って、それについてテストが早い科目順に記事にして掲示する。

 この俺たち二人の記事を勉強に使う生徒も多くいて、教師も生徒のテストの点数が上がるだとか上機嫌だ。

 校内一位の成績を持つ生徒は生徒会の会長をしてて、生徒会とも色々話をして記事にしたりもする。

 俺は結構校内だったら何処とでも誰とでも繋がっているから、何でも知ってるみたいなことまで勝手に噂が流れてって、別名は情報屋に定着。

 聞かれたことには大体答えられるし、知らなかったら調べて報告なんかしたりすることもあったりしたり。

 テストが終われば、部活は再開。

 顧問の先生いつ帰ってくるかなぁー、なんて呟く。

 いつもながら、親友とアイツの運動場の取り合いが始まって、部活の大将がそんなんだからしょうがないっていってお互いの副部長の俺と向こうの奴とで曜日で交互にって話をしたりしてから、今日は室内で軽く運動しようかって親友を引きずっていく。

 なにかと競いたがったり、取り合ったりしたがるこれはまさしく小学生。

 馬鹿みたいだ。

 今日も昨日もアイツと喧嘩して、何度も邪魔だと言われて、言い返して。

 ただ、段々、邪魔だと言われる度に頭が痛い気がした。

 最近、徹夜もしくはオールしてるのがいけないのかもいれない。

 そうじゃなかったら、陰口が耳に入ったのが気を引っ掻けているのかもしれない。

 ただ、体が重いのが心まで重たくしてるかもしれない。

 そんなある夜のこと、誰もいない部屋の中で記事を練っていたら、ふと、ある記憶が浮かんだ。

 その瞬間、背後に気配があるような気がして振り返る。

 誰も居ないとわかっていても、怖かった。

 体に残る古い傷が痛むような気がした。

 親友に電話してみようかと思ったが、この時間帯だ。

 諦めてスマホを置き直した。

 さっさと記事を書いて課題を終わらせて、今日こそは寝てやろうとペンを急がせる。

 その晩は寝ることは叶わなかった。

 翌日、食欲が無かったのを理由に朝食をそこそこに、家を出た。

 俺に家族は居ないけど、いとこがいて、いとこが俺が学生を卒業するまでは金を送ってくれるからそれで生活は出来る。

 だから、独り暮らしだ。

 家に帰っても、ただいまを言う必要もなければ、家を出る時に行ってきますなんて言う必要だってない。

 っていうか、生まれてこのかた、一度も家族に向かってそういった類いの言葉は言ったことがない。

 両親がどんな顔をしていて、どんな人なのかも知らない。

 記憶にあるのはただ、トラウマとくだらない日常生活だけだった。

 小学校の参観日に、親は来ない。

 中学校の体育祭も、誰も見に来ない。

 それでも親友とずっといたから楽しかった。

 今は、親友のライバルなアイツが、そんな大切な時間を奪う。

 でも、仕方がないし親友だって俺の事情なんて知らないし、制限やルールも作れない。

 疲れているのだろうか

 こんなことを考えるなんて。

 どうかしてる。

 今だって、親友じゃなくても友人がいる。

 そのはずだ。

 いや、どうだろうか。

 あれは、友人なんだろうか?

 そうじゃないかもしれない。

 何処からかそんな否定が浮かび上がった。

 そうなれば止まらなかった。

 誰の声も疑わしくなって、何処かよそよそしく対応してしまう。

 溜め息が増えた。

 独り言も増えた気がする。

 親友の元へ行けば、既にアイツが来ていて、俺に気付くなりしっしっと虫を払うように手で俺に邪魔だと言う。

 それを見て、もうここにも俺の居場所はないんだと、感じてしまった。

 親友に来たことがバレる前に退散して、部室に入った。

 すると、無口が俺に振り返る。

 コイツは俺を受け入れも拒絶もしないだろうという、敵も味方も関係ないような空間がやけに安心した。

 書きかけの記事を机に置いて、椅子に座る。

 落ち着いたところで、さて、書こう。

 別の日、頭が酷く痛かった。

 体も怠く、食欲は皆無。

 朝食も食べないで、学校へ向かった。

 教室に入れば、心配そうな顔をしている友人がいる。

 何か、あったんだろうか?

「さっちゃん、大丈夫かい?しんどそうだけど」

「え?」

 俺?

「顔色も凄い悪いし」

「そう?気のせいじゃない?全然しんどくないし」

 咄嗟にそう嘘をついた。

 そんなにしんどそうに見えるだろうか?

 取り敢えず席について、記事を、、、と思ったのに頭が回らなかった。

 書きたいのに、書けない。

「さっちゃん、無理してない?休んだ方がいいよ」

「大丈夫だって。」

 出来るだけ笑顔でそう返答した。

 記事は一切書けなかった。

 誰の声も遠く聞こえて、理解するどころか、耳に入らない。

 ぼーっと授業中も上の空で教室の一角を凝視していたら、教師に心配され、それにも同じ返答をしておいた。

 昼休憩も、食欲が起きず、腹も減らず、何も食べなかった。

 吐き気がするほど、周りの声が雑音としか感じられなくなって、それが夏の蝉のように延々と鳴り響くから、いつの間にか耳を塞いで教室ではない床の上で座っている俺がいた。

 授業中のはずなのに、なんで自分がここに居るのかも理解出来ないで、残りもしなかった記憶を探そうとすれば、それを頭痛が邪魔をしてこの片手は頭でズキズキと一定のスピードで強く波打つ痛みを抑えたがった。

 横になれば少し楽な気がして、それからは起き上がることは出来なくなってしまっていた。

 声を荒らげて足音を跳ね返し、振動さえ届きそうな勢いで廊下を走って行くのが背中でわかる。

 名前を呼ばれていたような気がしないでもないけど、俺にとってはそれは何処かで、必死に鳴き叫ぶ蝉と同類の扱いとなって、脳内ではそれ以上の事は浮かばない。

 誰の声だとか、そういうのはどうやらどうでもよかったらしい脳ミソが、悲鳴を上げたがっていよいよ意識が遠のく。

 この部屋が学校のどの辺にあって、何の部屋かも、それどころかそもそもここは学校であってるのかさえ、わかっていない。

 それでも、俺以外の人間が居ない空間はやけに静かで寂しく、遠くから聞こえる声がいやに目立って、耳に痛い。

 ワガママな感覚が、そのまま保たれていくのではなく、そのまま一緒に沈んで大人しくなった。

 目が覚めた時には、俺は木の床ではなくベッドの上で横たわっている。

 あれは夢だったのか、今が夢なのか、それとも両方にも当てはまらないのかは未だにわからない。

 何処なのか、首を回して風景を確かめた。

 そこには友人と親友、そしてアイツが立っていた。

「よかった!さっちゃん、大丈夫かい?」

「心配したんだぞ!」

 その二つの声に、遅れて理解をしながらも、何かしら返答しようという声は口から出ず、言葉も思いつけなかった。

「さっちゃん、やっぱり大丈夫じゃなかったんだよ!熱!」

 ぼんやりとそれを聞いて、それでもしっかりと疑った。

 熱なわけがない。

「ほら、熱計ろう?」

 差し出される体温計を眺めたあと、顔を反らして天井を見た。

 ここは何処のどういった部屋なんだろう?

 保健室でもない。

 病院でもない。

 でも、俺の知ってる部屋でもない。

「授業中にいきなり走って出ていくから驚いたよ。探したら、空きの教室で倒れてるんだもん。ほら、計って」

 体温計を受け取る気はなかった。

 計る必要は無い。

 熱は無いはずだから。

 授業中に走って出ていった記憶もやっぱりなくて、ただ、あの部屋が空きの教室だってことには頷けた。

 道理で机やら椅子やらが適当なわけだ。

「こら、達哉タツヤ!熱を計れ!」

 そう言って親友が体温計を、俺の目の前に持ってきた。

「要らない」

「要らない、じゃない!いいから計れ!」

 強引な親友の強めの声に、なんとなく従わなければならない気がして、震える手で受け取った。

 ピピピッという音が聞こえて、何度なのか見ようとする前に取り上げられる。

「39度6分。はい、高熱!」

「うわ、高ぇ」

「昼ご飯も食べてなかったじゃん。薬となんか食べれそうなの買ってこようか」

「薬はそこの棚の中にあるぜ」

 トントンと進む会話を、うとうととしながらも聞いていた。

 ただ、わかったのは、、、この部屋もベッドも大嫌いなアイツものだってことで、恐らく、俺はアイツの部屋に運び込まれたんだろう。

 睡魔には勝てないで、ユラユラと意識を持っていかれていく。

 そのまま、俺は再び目を閉じて、眠りに入った。


戻ってくると、さっちゃんは既に寝てしまっていた。

苦しそうに眉間にしわを寄せている。

朝から顔色が悪かったし、何処か様子も可笑しかったから、案の定、で間違ってはいないんだろう。

きっと、頑張り過ぎたんだ。

俺の知ってるさっちゃんは、暇さえあれば記事を書いてる感じ。

目に隈を作ってまで、記事を書いてるってことは、それだけいつもの面白い記事には熱が掛かってるんだろうなって、思ってた。

いつも笑顔で誰とでも話せるさっちゃんに、喧嘩相手が出来たのは、凄いびっくりしたんだ。

取っ組み合いの喧嘩なんて、さっちゃんがするなんて思えなかったから。

ゆっきーと一緒にいる時が一番楽しそうなさっちゃんは、きっとゆっきーがただの親友とかじゃないと思う。

マー君も、さっちゃんに邪魔だとか言わなかったら、さっちゃんだって突っかかって行かないと思うんだ。

だって、優しいから。

さっちゃんと俺とゆっきーは、小学校から同じなんだ。

だから、わかるんだ。

さっちゃんに、お母さんお父さんはいない。

さっちゃんに、家族はいない。

初めて会った時は、まったく喋らなくて、まるで表情がなくて、皆のことを避けていた。

けど、ゆっきーがさっちゃんに沢山話しかけて、沢山一緒に遊んで、俺もそれに加わって、やっと笑うようになったんだ。

だから、さっちゃんには、またあんな冷たい頃には戻って欲しくない。

俺は、さっちゃんの冷たい顔が怖くて、嫌いだったから。

「起こすか?」

「ううん。寝かせてあげよう?さっちゃん、多分寝不足だよ」

「そうだな。目の下が黒い」

「ごめんね、マー君。近かったから」

「別に」

ぶっきらぼうにそういった。

マー君にも、お母さんはいないらしい。

でも、家族はいる。

マー君と違って、さっちゃんは自分のことを隠して全然教えてくれないから、わからないけど、多分、さっちゃんはマー君をゆっきーから無理矢理引き剥がそうとか出来ないと思う。

だって、マー君としてきた喧嘩はいっつも、さっちゃんが先に離れていくから。

記事とかの用事がなくっても、さっちゃんは途中でマー君とゆっきーから離れる。

喧嘩が弱いんじゃなくて、諦めた感じ。

最近はそれがよくわかるんだ。

見てると、さっちゃんが途中で一瞬だけ死んだ目をする。

あの後、喧嘩を止めて記事を持って出ていくんだ。

その死んだ目が、冷たくて、あの頃みたいで、俺は嫌いだし、悲しい。

溜め息も増えたみたいだし、よく、独り言を言うようになった。

さっちゃんが心配なんだ。

俺のトラウマみたいなもんなんだろうなぁ。

「許して」

さっちゃんが、そう呟いた。

びっくりして、魘されているさっちゃんを見る。

苦しそうだ。

きっと、辛い夢だ。

止めてあげたい。

楽にしてあげたいのに、なんにも出来ないんだ。

「許して」

さっちゃんは、もう一度いった。

どんな夢なんだろう?

起こしてあげた方がいいんだろうか?

「」

聞き取れない言葉がかすれた声で、こぼれ落ちていった。

寝返りを打って、壁側へ向く。

その時に見えた首には、何かの痕が残っていた。

まるで、縄かなにかで首を強く締め付けた時に出来るような、痕。

実際には見たことはないけど、画像で見た事のある痕と一致してしまった。

なんだか、自分まで息苦しい。

「これからどうすんだ?コイツ」

「そうだよね。このままここで看病なんて出来ないもんね」

「俺が達哉の家連れてく。知ってるから」

「え!?知ってるの!?」

「だって、俺、前に達哉の家で雨宿りさせてもらったから。」

「傘持っていかなかったんだね、、、」

「おう!」

ゆっきーは元気よくそう答えて、さっちゃんの方を見た。

やっぱり、心配だよな。

だって、ゆっきーはさっちゃんの親友だもん。

「さっちゃん起きそうにないし、そっと運んじゃおうか」

「そうだな。ケン、達哉のカバン持ってくれ」

「わかった」

マー君は黙ってさっちゃんを見たあと、ドアを開けてくれて、俺達はそのままお礼を言ってさっちゃんの家にいった。

「あ、カギしまってる。カバンにカギはいってないか?」

「待って。んーと、、、ない」

探してみたけど、家の鍵が見当たらない。

どうしよう。

「何、、、してんの」

「さっちゃん!」

さっちゃんがストン、とゆっきーの背中から降りて、顔を伏せたままそういった。

「達哉を家に運ぼうと思って。家がカギかけてて入れないから探してた」

「ないよ」

「え?」

「ない」

さっちゃんは、ドアに寄りかかる。

しんどそうだ。

でも、カギがないってどういうこと?

「俺ね、、、鍵、、、植木鉢の下、、、置いてる、から、、、カバン、、、に、ないよ」

指さしながら、そうゆっくりと言ってくれた。

「わかった!取ってくる!」

俺は指さされた植木鉢を動かして、下にある鍵をとった。

そして、戻ってくると、さっちゃんは座り込んでいた

中に入って、座らせて、カバンを置くと、机に伏せて唸ったさっちゃんは、少ししてから顔をあげた。

「あんがと。も、いいよ」

「でも」

「いい。自分で、、、どうにか、できる、、、から」

そういったあとに、顔を伏せた。

全然そういう風には見えない。

「にゃぁ」

「あれ?猫?」

「にゃぁ」

黒猫が、机に登って、さっちゃんを心配そうに眺めている。

黒猫を飼ってたんだ。

知らなかった。

「さっちゃん、猫ちゃんの世話とかもあるし、看病させてよ。心配なんだ」

「俺の猫、じゃない。、、、野良。」

「そうなのかい?」

「勝手に、入ってくる、だけ。ねぇ、、、何、してんの?」

さっちゃんはダルそうに起き上がって振り向いた。

ゆっきーが勝手に棚を探っている。

「言っとくけど、、、薬は、ないよ」

「なんで?」

「買わない。要らないし」

「そうなのかい?ゆっきー、ないんだってー」

「話、聞いてないし、、、」

ゆっきーは相変わらずガサゴソと棚を漁っている。

「左の棚だし、、、」

「お、そうか!」

「え?」

なんで?

ゆっきーの探してるものがわかったの?

「一番上、、、の、、、」

そこでさっちゃんはいきなり倒れた。

「さっちゃん!さっちゃん!!」

呼んでもダメで、意識がなかった。

無理させちゃったかも。

「達哉!?」

「ゆっきー、何を探してたの?」

「達哉が解熱に良いって言ってたやつ!あるって言ってたから!」

「なにそれ?あ、一番上の、って言ってたから多分、」

「この瓶か?」

「かも」


コソコソと周りが陰口を飛び交わせていることも、この学校の情報屋と呼ばれるくらいなんだから知っている。

自分がどう言われているか、どんな噂を立てられているかも。

最近、親友と喧嘩した。

サッカーについてだったし、親友にとっては凄い大事なことだった。

けど、俺はそればっかりにはなれないから。

わかっていて、いつもは我慢してたのに、つい、一言いってしまった。

別に、悪気はなかったんだけど、その一言が駄目だった。

親友は俺に「邪魔だ」と、言ったんだ。

言ったんだよ。

初めてだった。

親友に、言われるのが。

喧嘩するのも、初めてだった。

俺が悪いってわかってる。

俺が悪いんだよ。

わかってんだ。

でも、そんな、言わなくてもいいじゃんか。

邪魔だって。

邪魔なんだって。

聞いた瞬間、俺は目眩がして、思い出したくない記憶に絡みつけられた。

あぁ、駄目だって思って、俺はその場から逃げ出した。

いいんだ。

邪魔なら、、、邪魔なら居なくなればいいんだ。

それがあって、今、独りで弁当も後回しに先生の手伝いだけに没頭している。

書類整理、プリント作成。

気が付けば弁当を食べないままにチャイムが鳴って、昼休憩の終わりを告げた。

「悪いな。榊原」

「あぁ、いえ、いいですよ」

先生には一切、昼食を食べていないことを言ってない。

最初から食欲もなかったし、朝食も抜いている。

食欲の無さが異常であるとは自分でも自覚がある。

昨日の夕飯も、確か一口で食べるのを止めた。

溜め息を隠しながら職員室を出た。

教室に向かって走って、号令には間に合った。

椅子に座る前に、軽く確認をしてから座る。

イジメにありがちな事を確認してから座るんだ。

授業が終わると真っ先に呼び出しをくらう。

生徒の集団と、先生の手伝い。

もう、経験済みで、生徒の集団に行けば暴力の雨。

だから、先生の手伝いが1番だ。

振り返る必要は無い。

貼り付けた笑顔が途切れることはない。

「失礼しまーす。榊原でっす」

「おぉ、手伝ってくれるか?」

「はいはーい」

気付かれてもいけないし、少しのことも知られちゃいけない。

俺から先生に手伝うと申し出てからは、先生たちは喜んで俺を呼ぶようになった。

なんていったって、成績は良い、記事が書けるんだからものをまとめるのもお手の物、そして嫌な顔もしないで働いてくれる。

そんな俺を使わない先生は、いないんだ。

必要だから、邪魔じゃない。

邪魔だって言われない。

俺はここにいるのが、正解で、俺はここしかないんだ。

邪魔じゃない。

邪魔じゃないんだ。

それでいいんだ。

今日は手伝いが早く終わったので、職員室から出て警戒しながら、それでも笑顔を忘れずに部室へ向かった。

そっと、ドアを開けると、無口が黙々と作業をしている。

一瞬、ここに入ってきていいのか?と疑問が浮かんだ。

でも、部員なわけだし、いけないわけが、、、ない、、、よな?

「先生の手伝い終わったから、、、」

そこで、この声は途切れた。

その記事は、俺のイジメに関する新聞。

あぁ、あぁ、、、なるほど。

「悪いけど、今日はもう帰るわ。最近手伝えなくてゴメンな」

相手の反応なんて見ずに部室から逃げるように出た。

別にいいんだ。

別に。

記事を多くの生徒や教師に見てもらって、高い評価を得る必要がある。

そうだ、、、だから、、、どんなに酷くても、ネタにされても、いい。

じゃなきゃ、この部活が廃部になりかねない。

誰かとぶつかる。

「っと、ゴメンゴメン」

謝りながら顔を上げると、神崎だった。

「榊原」

「ほんとゴメンねー、そんじゃ」

それ以上は聞きたくない。

だから走って玄関に逃げた。

次はぶつからないように気を付けよう。

ただでさえ、あの顔は怖い。

玄関に行くと、俺の靴は消えていた。

少し考えてから、俺はそのまま家へ帰ることにした。

足が痛くても、どうでもよかった。

だって、ないんだから。

探そうとも思えない。

だって、きっと、ないんだ。

捨てられてる可能性のが、高いんだ。

だったら、探さなくたっていい。

いいんだ。

頭が痛かった。

あぁ、、、痛かった、、、?

痛い、、、。

視界が地面へと落ちる。

なんだ?

意識が遠のいていく気がする。

痛い。

後頭部が痛い。

声がしたが、誰なのか、わからなかった。

何かを言っているのに、それも聞き取れないで。

目が覚めれば、俺は知らない場所で縛られていた。

頭はまだ、ズキズキと傷んだ。

誰もいない。

それでも、焦ることはなかった。

俺は知ってる。

縛られた時、どうやったら解けるか。

それから、外へ出ると、バッタリと鉢合わせしてしまう。

バットを持った、大嫌いなアイツと。

そのバットは凹んでいる。

それでなんとなく、それでさっき俺を殴ったんだってわかった。

少しの間だけ、時間が止まった。

俺は、逃げた。

案の定、アイツは追いかけてくる。

でも、俺のが足は速い。

俺の行く先に、神崎が歩いているのが見えた。

どうしよう。

引き返せない。

俺は迷うことなく、道路へと走り出た。

神崎の叫び声が聞こえてから数秒後、俺の体は吹っ飛ばされて、地面に叩きつけられていた。

身体中が痛くても、起き上がろうと思った。

逃げなきゃいけない。

俺を轢いた車は、そのまま走り去る。

周りの車は止まっていて、周りの人は何かを叫んでいて。

だからなんだ。

なんなんだ。

俺は無理矢理体を起こしてから、動かない足を引きずって、逃げた。

暗い方へ。

誰もいない方へ。

「待て!」

その声も怖くなって。

許して。

ごめんなさい。

お願い。

許して。

逃げたいのに、体が前へ中々進まない。

もっと、暗い方へ。

何も見えなくなるほどに、暗い方へ。

許して。

許して。

許して。

許して。

許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して許して。

影がかかった。

目を後ろへ向けなくても、何かを振りかぶる影が、俺に殺意を持っていることがわかる。

痛覚さえ麻痺して、俺はただ、動けなくなっていた。

もう、何も、わからなかった。

水の音が聞こえる。

体が浮いた。

水の冷たさに触れる。

体が沈む。

そこで、ハッと我に帰った。

死ぬ、、、!

焦りが込み上げる。

でも、体は動かない。

視界には神崎が見えた。

助けて、なんて声はこの口から出なかった。

言えなかった。

ただ、この顔は泣きながら、笑っていた。

そのまま、沈む。

底が見えない真っ暗闇に、だんだんと、落ち着く。

もう、、、いいや。

意識なんて保てなかった。

楽に、、、なれるんだ。

そう、思うのが、やっとだった。


前を歩く榊原に、バットを振り上げる。

コイツさえ居なくなれば、俺は邪魔されなくなる。

邪魔なんだ。

コイツがユキと喧嘩したのをいいことに、イジメを広めてやった。

それでも、コイツは学校に来た。

平気そうな顔で笑いやがる。

腹が立った。

病院送りにしてやれば、暫くは邪魔されない。

俺の居場所。

俺に母さんはいない。

離婚したから。

俺は父さんのとこに残った。

お金持ちだから、困らなかった。

けど、父さんは相手してくれないし、寂しかった。

だから学校でもつまんなかった。

それでも、ユキが話しかけてくれて、良い奴なんだってわかった。

楽しかった。

それなのに、それを邪魔する奴がいる。

榊原だ。

コイツさえ居なくなればいい。

いっつもユキと一緒にいて、俺とユキが遊ぼうとしてんのに、ユキと喋る。

だから、邪魔だ。

喧嘩してやっとどっかいくし。

殴って、倒せば、そのまま榊原は意識を失った。

縛ってやって、倉庫に投げ入れておいたら、脱走しやがる。

縛ったのに!

許さねぇからな。

俺を見るなり逃げるから、追いかけたら榊原は、自分から道路に走っていって、大型トラックにぶつかった。

その瞬間、死んだかと思った。

神崎が、「榊原!」って叫んでいたのに、榊原は突っ込んでいったから、俺のせいじゃない。

自業自得なんだ。

なのに、榊原は這うように逃げた。

死んでない。

だから、俺は追いかけて、路地裏に逃げ込む榊原にバットを振り下ろした。

動かなくなった榊原は、今度こそ死んだと思った。

なのに、よく見るとまだ死んでなかった。

死ねばいい。

ひこずっていって、橋までいって、榊原を落とす。

これでいい。

そう思ってたら、神崎が走ってきて俺を突き飛ばして橋に足をかけた。

びっくりしてる内に、神崎は榊原目掛けて飛び込んだ。

ザブン、と水に飛び込んだ神崎は少ししてから榊原を掴んで水面から顔を出した。

でも、もう、流石に死んでると思った。

神崎が俺を睨み上げる。

俺は、走って逃げた。

もう、終わりだ。

やっと、邪魔なやつは消える。

その喜びがだんだん、俺は重たくなってきた。

人殺し。

そんな文字が浮かんだ。

でも、でも、もしかしたら死んでないかもしれない。

榊原が悪いんだ。

俺の邪魔をするから。

ユキを取るから

俺は、、、。


病室のベッドで、俺は横たわっていた。

なんで?

死んだんじゃないの?

「榊原!」

神崎の声がした。

嘘だ。

声の方を見れば、神崎はちょうど、医者を呼ぶとこだった。

俺は何を聞かれても答えなかった。

答えられなかった。

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