How to say goodbye

I don't know how to say goodbye

[BAM!!!]


M14の重く、乾いた銃声で意識を取り戻す。気付けば私は、よく整えられた芝生の上にいる。私は何をしていたのだろう。目には涙が溜まり、鼻が詰まっている。息苦しい。最悪な気分だ。


[BAM!!!]


二発目、七名の隊員が、M14の槓桿を素早く操作する音が聞こえる。銃声で段々と意識が冴え渡ってくる。


狭窄した視野が、少しずつ弛緩していく。


広く、明るくなった視界から様々な情報が飛び込んでくる。ずらりと並べられた椅子に座り、咽び泣く人々。直立不動の制服の人々。沈痛な面持ちの同僚たち。赤ん坊と、綺麗に折り畳まれた国旗を抱えた女性。そして、


呆然と立ち尽くす私と、棺。


皆暗い顔を浮かべる中、赤ん坊だけは無邪気に母親の指を咥え、はにかんでいる。


「そうだった。」


思わず、気の抜けた言葉が漏れる。

どれだけの時間、心を放り出していたのだろうか。既に、葬儀は佳境に差し掛かっていた。


[BAM!!!]


嗚呼、三回音が聞こえてしまった。行かなければ。


滑らかで、優しい、しかし荘厳なラッパの音色が響き渡る。


同僚たちが棺に別れを告げていく。


さあ、次は私の番だ。

ゆっくりと棺の元に歩み寄り、左胸に輝く徽章を手に取って、棺に打ち付ける。叩き付けた拳がジンと痛んだ。


葬送曲の終わりが、終わりを告げる。


牧師や、彼の縁者のスピーチも終わり、遺族には上官から、申し訳程度の弔いの言葉が送られた。


私の出番は無かった。




[ポツリ]


手の甲に水滴が当たる。

たっぷりと水分を蓄え、肥太った灰色の雲は、重さに耐えきれず、遂に弱音を吐き出したようだ。


雨音は止まらない。次々と落ちてきては、誰もいなくなった地面を打ち付け、独特のリズムを刻む。


雨粒を吸い込んだ服が、私の肌にまとわりつく。


寒い、身も心も固く凍りついてしまいそうだ。


タバコを吸いたい。

あの焦げ臭い香りが恋しい、あのヤニ臭い味が恋しい、あなたの匂いが、恋しい。


あなたがタバコをやめてからも、私はタバコを吸い続けた。


あなたが欲しかった。振り向いて貰えないということは解っていた。幸せそうなあなたの横顔を見ると、罪悪感で胸がグチャグチャになった。だけど、せめてあなたの味、あなたの匂いだけでも感じていたかった。


だから、私はタバコを吸い続ける。


この匂いと、さよならなんてしたくない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る