偲ぶ会

吉行イナ

僕を僕とたらしめんものごと

四月の初旬、僕のホームグラウンドである田んぼにつながっている農業用水路前バス停のあたり一帯では桜どもが我こそは我こそはと仰々しく咲き乱れていた。

まぁ この方たちも今日という大事な式を執り行う空気の前だから、葬式の前にはしゃぐ子供たちのような感覚なのだろう。不謹慎だけど僕もこの日が来るのを3か月も前から待ちわびていたし三日ほど前からはどのようにして偲ぼうかワクワクしていたのだから。

僕はまずバス停の時間表の横に生えている銀杏の木の切り株に腰を掛け三日前に食べたメンマのことを思い醤油スープの余韻の中の潜在イメージ的なほうれん草の香りを思った。

それから1週間前に使い終えたと決定づけたメモ帳のちょっとだけなにやら文字を書いてほとんどは白紙の1ページに追悼の言葉を述べた。

そのページに書いてあるのは「プライヴェート」の一言だった。

僕はそのプライヴェートにもねぎらいの言葉をかけ慰めた。

慰めの言葉をかけている最中にいつの間にかどこからか誕生したのかわからない

泥にまみれた野良犬が僕の足元にあるタンポポの花をたまに来る紙芝居のお話を理解できない幼児のような瞳で見つめていた。

お前もか、と僕は思った。

彼もおそらく偲んでいるのだ。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

偲ぶ会 吉行イナ @koji7129

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る