第51話 川崎春香の憂い。そして、不安。

 時刻は朝。


「う~ん……」


 川崎は眠い目を擦りながら、目を覚ます。


「……あ、そうだ。蓮斗くんを起こしに行かなきゃ」


 蓮斗くんは結構寝坊助さんだから私が起こして上げないとね。そうでもしないと蓮斗くんは起きないから。


 私は、寝る用の服から普段着に着替え、顔を洗い、歯を磨き、身支度を済ませてから蓮斗くんの部屋へと向かった。



☆★☆★☆



 私はいつも通り蓮斗くんの部屋を開け、中に入る。こういうところが無防備過ぎると言うかなんと言うか……まあ、そのお陰でこうして私も部屋に入れているわけだから、そこはなにも言えないな。


 私は明かりを着けずに蓮斗くんの寝ているベッドに向かう。勿論、音は立てずに抜き足差し足。蓮斗くんはこういうところに敏感で、少しでも音を立てるとすぐに気づく。


「さてさて、蓮斗くんは……」


 私は遂に蓮斗くんのベッドに近づくことに成功し、私はそのまま蓮斗くんの寝顔を覗こうとしたーーー。


「……あれ? 蓮斗くんがいない……? もう起きてるのかな」


 いつもなら蓮斗くんはまだ起きてない筈なのに。今日は珍しい。……はあ……起こしかったなぁ。


 私は蓮斗くんの部屋を出る。今度は一階の食堂に行ってみる。しかし、どの席にも蓮斗くんの姿はない。


(……何処にいったのかな……? これ以上宛もなく探し続けても見つからないよね……)


 少し心配になる川崎。ついでに朝食でもとっていこうと思い適当な席を探していると。


「よ、よう川崎。お、おはよう」


 声の主の方を向くと、やはり高峰だった。


「おはよう、高峰くん」


 私はぎこちない高峰くんの挨拶に普通に挨拶を返す。


「ねえ、蓮斗くん知らない?」


「……知らないな。今朝は見てない」


 高峰は少し不機嫌そうにそう答える。……私、何か悪いことしたかな?


「もし見つけたら教えてね」


 私はそう言いながら高峰くんに軽く会釈すると、再び朝食をとるために適当な席を探し始める。


「か、川崎! もし朝食食べるなら、一緒に食べないか?」


 やはり依然としてどぎまぎしている高峰。


「別にいいけど……私直ぐに行っちゃうよ? 蓮斗くん探さなきゃいけないし」


 そう。一刻でも早く蓮斗くんを探さなきゃいけない。でも、その為にはまず朝食。腹が減ってはとか言うやつね。


「……ああ。構わないよ」


 心無しか落ち込んでいるように見える高峰くん。本当に感情の起伏が激しい。


「じゃあ、あそこに座ろうか」


 丁度空いている席を見つけ、そこに座ろうと促す川崎。川崎が座った向かい側に高峰も座る。


「すいません。注文良いですか」


 丁度近くを通った女性の店員さんに声を掛ける。


「はいは~い」


「日替わり朝食を一つ下さい」


「わかりました。そちらのお客さんは?」


「俺も同じで」


「わかりました。こちらのお客さんに日替わり朝食2つね~!」


 女性が厨房の方にそう言うとは~い、と何人かの返事が返ってきた。女性はそれを聞くと、どうぞごゆっくり~、と言ってその場を立ち去った。まあ、ゆっくりする暇もないんだけどね。


 暫く沈黙が続く二人。私としては今すぐにでもこの席から立ち去りたい。だけど、そうしたらきっと高峰くんに失礼だろう。我慢って大事だよね。


 私はそんなことを思いながら料理が出来るのを待つ。


「な、なあ川崎」


「ん?」


「な、何で蓮斗を探しているんだ?」


 唐突にそんな話題を振る高峰。


「うーん……。心配だからかな?」


「心配?」


 高峰は怪訝そうな顔で川崎の言葉を反芻する。


「う~ん……。何て言うんだろう……。何か無茶しそうなんだよね……。危なっかしいって言うか……」


 川崎自身もよく分かっていないようで、曖昧な返答をしてしまう。要するにそれだけ蓮斗が心配だということなんだろう。


「そ、そうか……」


 高峰はそう返事をすると顔を俯かせ、再び黙りこくってしまう。と、丁度そこに。


「お待たせしました~。こちらが日替わり朝食で~す」


 さっきとは違う女性が両手に大量の料理を抱えてやって来た。私は、何でこんなに持てるんだろう……と少しびっくりした。その女性が両手に抱えた料理をテーブルに置く。今日のメニューは、パンにコーンスープもどきに、肉じゃがもどきだ。……少々味気ないけど、異世界の料理はこんなもんか。


「いただきます」


「い、いただきます」


 二人はそう言うと、それぞれ料理に手をつけ始める。


 私はコーンスープもどきから手をつけ始める。



ズズズ……。



 うん。思ってたより美味しい。仄かな甘味が口に広がって……。はあ……ほっこりする。


 次は肉じゃがもどき。



モグモグ……。



 ……これは思ってた味とちょっと違う……? 確かに美味しいけど……結構辛い!


 私は慌ててテーブルの上に水があるか探したが……なかった。


「す、すいません! 水下さい!」


 私は近くの女性店員さんに声をかけ、水を持ってきてもらい、窮地を脱したのだった。



☆★☆★☆



「ごちそうさまでした」


「か、川崎食べるのが早いな」


 高峰が驚いたようにそう言う。


「だって、一刻でも早く蓮斗くんを見つけたいから」


 私は笑顔でそう答えた。


「……そ、そうか……」


 またしても落ち込む高峰。


「じゃあ、私はこれで」


 しかし川崎はそれも気に止めず、宿のドアを開けて急いで外へと出ていった。


(……蓮斗くん、無事だといいな……)


 私はそんなことを思いながら、蓮斗くんの探索を開始した。






 

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世界にたった一人だけの職業 Mei @reifolen

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