第49話 蓮斗・秀治 VS ザティック盗賊団 ー5

「ふぅ……。ここもこれで全部か……」


 蓮斗は一息ついてそう呟いた。


(う~ん……。どうやってこの子達を運べばいいか……)


 小さな子供達をここに放置して先に進むのはまずいだろう。かといって、こんな大人数で移動していれば何かと目立つ。何か良い案はないのだろうか。


「蓮斗、どうしたんだ? そんな顔をして」


「ん~とな……。この子達をどうやったら目立たず連れていけるのかと思ってな……」


「……それなら、"万能収納インベントリ"なんてどうだ? 蓮斗なら使える気がするが」


 そうか! その手があったか。今までどうやって「隠す」かしか考えてなかったからな……。「しまう」という発想は無かった。さすが秀治。やっぱり頭が柔らかいな。


「そうだな、試してみるか」


 蓮斗はそう言うと魔法を発動するために頭の中で"万能収納インベントリ"を想像する。


(……う~ん……。個別に入れられるように分離の魔法陣と……要領は……その時にサイズが変えられるような魔法陣にして……)


「……よし、"万能収納インベントリ"」


 蓮斗がそう唱えると、突如空間にブラックホールのようなものが出現した。


「おい、お前達。一旦これに入ってくれないか?」


 秀治はおよそ子供に話し掛けるような口調とはかけ離れた言葉でそう言う。蓮斗はそんな秀治を見て、もうちょっと優しく話しかけろよ……とは思ったが口には出さなかった。秀治が変なところで不器用なのは蓮斗も承知の上だ。それにこんな状況であーだこーだ言っても仕方がないだろう。取り敢えず優先すべき事はこの子達をここから脱出させることだ。


 案の定、秀治に話しかけられた人間族の少年は顔を青ざめさせ、身震いしていた。俺達を盗賊の仲間と勘違いでもしたのだろうか。


「あ、あの……あなた達は一体……!?」


 先程、盗賊の男に体を触られそうになったエルフの少女がそう尋ねてくる。


「俺達は君達を助けに来たんだ」


 蓮斗が秀治に代わってそう答える。


「……そうですか。あなた達もそうやって嘘を吐いて私たちを……!!」


 エルフの少女はそう言いながら俺達を睨み付ける。というか最初から本当のことしか言っていないのに何故ここまで睨みつけられるんだ……? 何か会話がいまいち噛み合ってないし……。……そう言えば、腕輪と足枷外すの忘れてたな……。


 蓮斗は一旦万能収納インベントリを解除する。そして、そのまま子供達の方へ歩みを進める。


「……? 蓮斗、どうしたんだ?」


「い、いやぁ! 来ないで!!」


 ここまで拒絶されるとはね……。ちょっと傷付くな。


 蓮斗はそんなことを思いながらため息をつく。暫く歩き、子供達の前まで来ると蓮斗はひざまずいた。相変わらず子供達は震えていた。


「くっ……! 覚えてなさいよ! あんたなんかギッタンギッタンにしてやるんだから!!」


 やはり会話が噛み合わないエルフの少女。蓮斗は再度溜め息をつく。


「"通眼アセスメント"」


 蓮斗がそう唱えると、蓮斗の前に何やら画面らしきものが浮かび上がった。





魔力封じの腕輪


魔力を封じることの出来る腕輪。抗魔の術式が埋め込まれている。一度対象につければ解除するまで外れない固定の術式も組み込まれている。



筋力低下の足枷


筋力が低下する足枷。対象の筋肉量を三割程度減少させる、弱体化の術式が埋め込まれている。一度対象につければ解除するまで外れない固定の術式が組み込まれている。





「……秀治。魔力はあとどれくらい残ってる?」


「……ちょっと待ってくれ。確認してみる」


 そう言って秀治は何やら指を動かし始めた。多分、ステータスを確認しているのだろう。


「……あと半分くらいだ」



「そうか……。因みに術式の分解ってお願いできる? 腕輪と足枷に魔法がかけられてて……」


 蓮斗は秀治に"通眼アセスメント"で得た情報を秀治に伝える。秀治も時々相槌を打ちながら蓮斗の話を聞いた。


「……ということは固定の術式が外れれば腕輪と足枷は解除されるということか……」


 秀治は蓮斗から聞いた情報を総合して、抗魔法の術式と弱体化の術式は解除する必要がないと判断した。


「オーケーだ。俺が術式分解をしよう」


「ありがとう、秀治。俺、こういうの苦手でさ……」


 蓮斗は苦笑しながらそう言った。


「まあ、蓮斗が緻密な作業が苦手っていうのは今に始まった事じゃないから気にするな」


 秀治は冗談めかしたように蓮斗にそう言った。


「……汝に降りかかりし呪いよ……今我の手にて霧散したまえ……"術式無効化ディスマントル"」


 秀治がそう唱えると、腕輪と足枷がそれに反応したように淡い光を放ち始める。暫くすると、エルフの少女につけられていた腕輪や足枷がガチャリと音をたてながら外れ、地面に落ちる。エルフの少女はその光景に目を見開いた。


「……よし、この調子なら全員解除出来そうだ」


 秀治はそう言いながら、他の子供達の腕輪と足枷の解除にかかった。



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