第37話 ラヴィの気持ち。そして、本当はーー。 ー2

「……そうだ。我は魔王軍の幹部にして序列26位のヴァーナム=ラヴィだ……。それにしても……勇者の一行に魔族を知っている者がいるとはな……」

 私はお兄ちゃんの問いに対してそう答える。ついつい序列を答えてしまったが……久々にお兄ちゃんに会えたことで褒めて欲しいアピールの癖でも出たのだろうか?

 私はそんなことを思っていると、ふと頭に一つの事が思い浮かぶ。

…………そう言えばまだ名前も聞いてなかった!!

 やばい。どうしよう……。お兄ちゃんじゃなかったら……。

 私の脳裏に一抹の不安がよぎる。だが、名前を聞かない事にはいつまで経ってもこのもやもやした気持ちは晴れないままだ。私は意を決してその青年に名前を尋ねる。

「……貴様、名は?」

 正体はもしも目の前の青年がお兄ちゃんだった場合に備え、出来るだけ悟られないように口調は少し高飛車たかびしゃ気味に。

 


ゴクリ。



 私は息を飲みながら青年の言葉を待つ。一拍置いて、その青年は訝しげな表情を向けながらも答える。

「…………柏沢蓮斗だ」

その瞬間、私は再び歓喜の渦に飲み込まれる。そして、私はそのままお兄ちゃんの所へ行こうとするが……。何とかグッと踏みとどまった。今は本来の柏沢怜奈の姿ではない。#醜い魔族の姿__・__#なのだ。この姿ではお兄ちゃんに申し訳ない……。そういう思いから蓮斗の元へ行くのを踏みとどまったのだ。

 蓮斗もまだラヴィに対して警戒を緩めてなかった。それを少し悲しく思うラヴィ怜奈だったが、まあそれも仕方ないと思いながらも少しでも蓮斗の警戒心を解かせるためにも言葉を紡ぐ。

「まあ待て。何も貴様を襲う気など無い」

「……いや、そう簡単に信じられるわけがないだろう」

即答!? ま、まあそうだよね……。普通襲ってきたオーガから突如現れた私なんか信じられないよね……。

 心の中では大分ネガティブ思考なのだが……。そんなことはおくびにも出さないラヴィ怜奈。学級委員長をやってたからかな……。

 学級委員長をやっていた頃は、先生にあれこれ仕事を頼まれて社畜とまでは言わないがさんざんやらされた。内心、お兄ちゃんと少しでも早く帰りたいと思っていたんだけど……。それをいつも邪魔してきた。心の中ではさんざん先生を毒づいたが……表面上は笑顔で取り繕い、「はい、わかりました。やっておきます」などと言っていた。今思い出しただけでもむかつくわ……。おっと、いけない私としたことが……。今はお兄ちゃんを何としてでも納得させないと。

「……我は人間の住まう国であるガルンを攻め滅ぼそうなどとは考えておらん。元より興味も無い。我は魔王様に命じられてガルンに偵察に来ただけだ。他意は無い。だが、貴様には結構興味が沸いてきたな……。見たことのない魔法もあったしな……」

 たまに当たり障りの無いことも言いながらもちゃんと真実を話す怜奈。照れ隠し(?)のようなものなのかもしれない。ま、魔法にはきちんと興味あるよ!? ただそれをお兄ちゃんへの愛が上回ってるだけで……。

「……俺が何故勇者一行だと分かった?」

え、いきなりそんなこと言われても……。お兄ちゃんだから? あの時は何となくで言っちゃったし……。本当に勇者一行だとは思わなかったよ……。

 怜奈はあの時、ノリで名前やら序列を名乗ったのだ。うーん……。ここは適当に誤魔化そう。

「……勇者一行には何か他の者には無い、特殊な気配を感じるのだ……。それで分かったのだ」

 我ながら適当過ぎる誤魔化し方である。その証拠に蓮斗の顔は何言ってんのこの人……みたいな事を物語っているかのような表情になっている。うぅ……。なんか悲しくなってくる。でも、兄の蓮斗と過ごすこの時間はラヴィ怜奈にとってたまらなく嬉しいものだった。この時間が終わればもう二度と会えないのだろうか……。もうわたしはお兄ちゃんの妹に戻れないし……。

 ラヴィ怜奈はそんなことを考えていると、ふと妙案?が頭に思い浮かんできた。



ーー妹に戻れないのなら友達になればいいじゃないかーーと。



 そしてあわよくばそのまま恋人に……。

 怜奈はそんな妄想みたいなことを心の中では呟く。

 蓮斗は怜奈の実の兄だ。決して義兄妹ではない。だが、それでも蓮斗の事を兄としてではなく異性として見ていた。蓮斗は怜奈の事をよくなついてくる妹としか見てなかったようだが……。

 まあ、それは一旦置いとくとしてまずは友達にならないと始まらないよね!

「……貴様に折り入って頼みがある」

 勇気を振り絞れ、私! ここで言わないとお兄ちゃんに二度と会えなくなっちゃう!

 私は緊張しながらも決心を固め、言葉を紡ぐ。

「……我と友達になってはくれまいか?」

 





 


 

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