第38話 泪side



「…その館花さんの友人が。宇都宮夕妬と付き合い出してから、人が変わったようになり始めたと」


「はい…芙海が」


泪と瑠奈は学校の授業が終わると廊下で合流し、館花二羽と駅前でコンタクトを取り、泪の事務所で二羽の話を聞いていた。今回は彩佳にも来てもらう様に連絡し、二羽と一緒に待ち合わせていた彩佳も同伴している。ちなみに琳の方は茉莉と一緒に、家族の見舞いも兼ねて奏の話を再度聞きに、神在総合病院へ向かった。


「同じ学校の先輩にも相談したんですが、今だにそのグループの手掛かりが掴めないって」

「ウチの学校。これからどうなるんでしょうか…」


相談した先輩とは、勇羅達と何度か面識のある逢前響の事だろう。隣で二羽の話を頷きながら聞いていた彩佳も、不安そうな顔をしている。


「その友達の事で芽衣子にも、何度か相談したんだよね」

「うん、芙海の事で。その彼女、宇都宮君のグループと付き合い出してから人が変わった様になって」


二羽の口から宇都宮夕妬の話が出てきた事で、泪達の顔に緊張が走る。何か引っ掛かりを感じたのか瑠奈が二羽に質問する。


「宇都宮夕妬のグループって、東皇寺学園の生徒会じゃないの?」

「私も最初は生徒会の人達だと思ってた。でも宇都宮君生徒会以外の、学校の外でも付き合ってる友達が居るみたいで…」


どうも泪達が思っていた以上に、宇都宮夕妬の行動範囲は相当に広い。現状話を聞けば聞く程、こちらは後手に回ってばかりだ。


「館花さんの話を聞く限りでは、東皇寺の異能力者狩りは生徒会だけでなく、学園外の人間も関わってる可能性が高まって来ましたね」


学園外の人間が関わっているとなると、こちらも動きやすくなる。その分彼らを追いつめやすくもなるが、逆に周りにも危険を招きかねない諸刃の剣にもなりうる。


「私も芽衣子も瑠奈や琳の事知ってるし、異能力者の事や異能力を間近で見てるから問題ない。東皇寺進学も私は先願で受けてた」

「その娘の名前は」


「さっきも話しましたが、友達の名前は友江芙海です。同じ学校の三年に継美ってお姉さんがいるんだけど、継美さんは東皇寺生徒会役員で副会長も兼任してます。ただ、最近継美さんが宇都宮君と関わってるからって、芙海の方はかなり継美さんに反発してる」


姉が宇都宮夕妬率いる生徒会の役員で、妹は宇都宮管轄の学園外グループと付き合ってる。姉妹揃って宇都宮に関係している所で話がややこしくなって来た。


「それ、なんか…怪しくない?」

「私もそう思います。姉妹が揃って、宇都宮君のグループと関わってるなんて」


瑠奈の意見に彩佳も同意する。彩佳の方は既に生徒会の圧力によって、無関係のクラスメイトが犠牲になっているのだ。


「確かに芙海も継美さんも姉妹の仲は良いと…思う」

「思う?」


二羽は周りをキョロキョロと見た後、向かいに座っている瑠奈達の方を向き、言いづらそうにポツポツと答え始める。


「でも…その、なんて言ったら、良いのかな。継美さんは芙海のワガママに我慢して、芙海も継美さんが自分の為に我慢してるのを良い事に、やりたい放題して継美さんの事を試してる感じがするんです」


姉が妹に自分の主張や自分の思いを何も言わない故に、姉への不信感と依存が増長した妹は、どこまで傲慢に振る舞えば許してくれるのかと主張を示さない姉を試す。あまりにも歪な姉妹の関係。二羽の話を三人は黙って聞いていたが、瑠奈は一つの疑問を口に出す。


「あ、あの。友江さんの家族は」

「両親と継美さんとの四人家族。芙海が言ってたから間違いない。ただ…」


「ただ?」


「父親も母親も芙海の方ばかりを構って見てる感じ。継美さんの様子には。ほとんど気を向けてないようだったし…。二人の両親が毎回口に出すのも、芙海がどれだけウチの自慢の娘なのか、芙海の今日学園で何をしたのか、芙海が毎日どんな事をしたのかを聞いてくるばかりで…」


「……」


友江家の歪な家族関係を聞き、瑠奈と彩佳は顔を見合せ複雑げな表情を見せ沈黙し、泪も話を聞いたまま黙っている。顔を俯いて少し沈黙した後、二羽は弱々しく呟く。


「芙海は…自分の家族からの干渉、嫌がってたのかもしれない」


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