第37話 響side



―東皇寺学園・三年教室


昼休み。学生食堂での昼食を済ませた響は、教室に戻り宇都宮夕妬や東皇寺生徒会の件で考え事をしていると、いつの間にか席の近くに黒髪の女子生徒が立っており、響に声を掛けて来た。


「逢前君…」


真っ直ぐに切り揃えた前髪と、腰近くまで伸ばした黒髪の女子生徒の名は友江継美(ともえ つぐみ)。東皇寺学園生徒会副会長を務める才女。継美は素行に問題の多い学園生達の中でも、かなり珍しく典型的な模範生であり、その生真面目さも相まって教諭達からの信頼も厚い。

学園教師の信頼が厚い反面。宇都宮夕妬や生徒会に反発する、反生徒会派の生徒達からは、徹底して東皇寺学園の規律に準じ、模範的かつ厳しすぎる行動も相まって、彼女の真面目過ぎる態度が気に入らない女子を中心に、継美は完全に目の敵にされている。


「珍しいですね。友江副会長が特に話もした事ない、一生徒の僕に話しかけて来るなんて…」


表だっては絶対にださないが、内心ガチガチの反生徒会派である響も継美の事が苦手だった。彼女が生徒会に所属しているのもあるが、クラスメイトの話だと継美は美人だが近寄り難い雰囲気を持っていて、周りに自分の敵が多いのが災いして親しい友人もいないし、常に一人でいる。更に継美は元から身体が弱いのか、一年の頃から保健室で休んでいる所を何度か目撃している。


「……その」

「用件は何ですか? 手短にお願いします」


継美もまた東皇寺付属校内ではなく、響同様付属外から進学してきた生徒の一人。だが所詮宇都宮の息が掛かった生徒会に所属する相手だ、話は手短に済ませた方が良い。


「あ…逢前君に聞きたい事があって……。その、芙海の事…」


東皇寺一年生の友江芙海(ともえ ふみ)。先日響に相談を持ちかけてきた後輩・館花二羽の友人でもあり、入学当初から何かと学園内で、様々な問題を起こしている。妹の責任は姉の責任でもあるとでも言うのか、芙海が問題を起こす度に、継美は毎回職員室へ呼び出されているらしい。そんな問題児の妹の事を持ち出すとはまた珍しい。一つ上の姉を持つ響の目から見ても、彼女の妹への執着心は異常とも思う。


「妹さん。また問題起こしたんですか?」


響がはっきり事実を指摘しても継美は黙って俯くまま。毎回職員室で担任や教諭達と一緒に、妹の問題行動の相談をしている姉の心配を無視してまで、様々な問題を起こしているのだ、あの妹は。


「宝條の人達が…。芙海が問題を起こすのと関係してるって、先生方が話をしてたので…それに、宝條は何かと悪い噂があって問題のある学校だって。先生方は言ってました」


宝條の生徒と交流している響は内心舌打ちをした。継美の話し方だと継美は宝條の生徒を疑っている。自分に芙海の変貌の相談を持ちかけて来た、後輩の二羽の方が余程芙海を心配している。むしろ疑うべきは宇都宮夕妬と深く繋がり、学園の方針そのものを宇都宮一族に汚染されているこの学園。逆に宝條とは積極的に接触し、東皇寺の膿を叩き出す絶好の機会なのだ。


「妹さんの友人にはそれを話したんですか?」

「ふ、芙海は…駄目なんです。芙海は私が面倒見ないと……本当に。駄目、なんです。あの娘は……あの娘は私が居ないと、本当に、駄目、だから」


やはり継美の妹に対する依存は異常過ぎる。もしかして友江芙海は、姉の異常な束縛とも言える執着が嫌で、これまで騒ぎを起こしてるのではないのだろうか。


「そんなの…。それなら逢前君はどうなの…逢前君のお姉さんだって」

「あんたに姉さんの何が分かる? 姉さんの事を『他人』に指摘されたくない」


継美の一方的な言いがかりに近い反論を、遮るように響ははっきり言い放つ。継美は機械のような無表情で響を見た後、表情を変えずに教室から出ていった。


「……」


本人の前では言わなかったがやはり継美はおかしい。あそこまで家族に、妹に執着するとは。そして常に一人でいる以上、継美自身が内に何かを抱えているのではないのだろうか。


それでも無関係の自分が干渉してもなにも意味はないと思い、響は軽く溜め息を吐いた。


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