拝啓、猫先生
snowdrop
招き猫の日
拝啓 猫先生、お元気ですか。
日増しに近づく台風を前に書いています。この手紙が届く頃には、遠くに過ぎ去り、晴れやかな秋の空を眺められることでしょう。
落ち込んでいるのはもったいないので、昔を振り返ることなどなかったのですが、この夏からの出来事を振り返ると、私は行き詰まっていたのだと思います。
すでにやるべきことを終え、すべての関係を絶ち、もはや余生、というより幕引きばかり願っていたやもしれません。
きっかけは、今夏の、小さな再会でした。
そのとき、やり残したことがあった、と思ったのです。
実際は、すでに彼の人たちに恩返しはしたつもりでした。
なのに、心の何処かでは満足していなかったのでしょう。
そのあとの私は、謝ったり礼を述べたり、あがいてもがいて、過ぎた時間を悔いたのでした。
時は戻らず、流れ去るばかりなり。
そんな当たり前のことを、忘れていたのです。
手紙を書いては送り、落ち込んでは泣き、どうしていいのかもわからず、幼馴染に会いにも出かけました。
思わず吐露したのは、自分のこと。
不快に思わせたと後悔しましたが、幼馴染は気にしていませんでした。
むしろ、やさしく、理解してくれました。
この埋め合わせはするからというと、そんなことはしなくていいからと叱られてしまいました。
私は、ひとを大切に思うあまり、あまりに考えすぎて過剰になってしまうきらいがあるようです。
もっと楽に会えばよかったのです。
おそらくこれまでにも、たくさんの人たちがそのことを教えてくれていたのに、わたしは今まで気づきもしませんでした。
私は変わらねばなりません。
私がよろこぶ生き方を、私がしていかなくてはいけないんだと、思えるようになりました。
いつも黙ってみているだけの猫先生は、ご存知だったのですね。
私がそのことに自分で気づくことを。
猫先生にはかないません。
ありがとうございました。
今度、堤防でお目にかけたときは、お礼になでなでしてあげますから逃げないでください。
秋めいて朝夕寒くなりましたので、お体には気をつけてください。
敬具
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