6.

 老婆に礼を言った後、最近気に入っている小さな広場へやってきた。苔むした石柱が並び、中心には一本の木と一台のオルガンがある。不思議な空間だ。時折吹き込む風はほのかに花の香りがする。


 「美しく、穏やかで、離れがたい。」オルガンの前に坐した少年が僕に微笑みかける。それから静かにオルガンに指をのせた。少年の思考はこの音楽だ。言葉の無い思考。空間すべてに溶け込んでいくような思考。心地良い。

 「あぁ、このまま溶けてしまいたい。」オルガンにもたれかかり少年は涙をこぼした。慈しむようにオルガンに指を滑らせ、その度に涙をこぼす。


 「僕は彼女を愛しているのです。」少年の涙が地面に触れるたびに若葉が萌え出で、答えるようにオルガンが鳴る。何とせつない音だろうか。何と美しい音だろうか。

 「ここは心地良すぎるのです。」だから素直に泣いてしまうと少年は微笑む。再び奏でられる音を感じながらまた歩き出す。心地良い世界は善だろうか悪だろうか。


僕はまた思考する。

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