第34話:メインステージ

 半ドーナツ形をした観客席の方へ向かい、闘技場の中央に置かれた白いステージの上で挨拶をしたのは、ピンマイクを付けた3人の美少女。左から順にリーファさん、リリィ、ラズさんの順で並んで立っている。


 観客が返した「こんばんは」の反響が鳴りやんだ頃、リーファさんが進行の口火を切った。


「さてさて、二日前より始まりました『Never Dream Online』初めてのイベントもついに最終日。皆さん楽しんでいるでしょうか! 既に十分に楽しんだ人たちも、まだ楽しめていない人たちも、メインステージ、盛り上がっていきましょ~~~~~~!」


『『『『『うおおおおおおおおおお』』』』』


「司会進行は私、β版の案内役でお馴染み、Lihua-100リーファが務めさせて頂きます! こちらのメインステージはラジオ配信も行われておりますので、聞きながらお祭りを楽しむ!といったこともできるようです。お祭りを楽しみきれてないよ~という方は、ぜひ聞きながら楽しんでください! またこちらItubeアイチューブの方でも配信されていますので、イベント終了後もこのメインステージはアーカイブで何度でも視聴可能だそうです! それでは始めに自己紹介から参りますよ~!!」

「いえーい! どんどんぱふぱふー!」

「はい、元気な効果音ありがとう……ということで! 皆さまから向かって一番右側に立っている、今しがた素晴らしく可愛い効果音を付けてくれた彼女が現在の案内役! ラズちゃんです!」

Ras-100ラズです! ラズっちって呼んでください! 今日は精一杯楽しみたいと思いまーす!!」


 ラズさんは特徴的な桃色短めのツインテールを揺らしながら一歩前に出るとペコりと一礼してから両手で手を振った。それからもう一度口を開く。


「せーのっ!!」

『『『『ラズっち可愛いいいいい~~~~~~~~~!!』』』』

「ありがと~~~~~~!!」


 どうやら事前に一部の人には通達があったらしく、ラズさん自らによる合図のあとに観客の声が重なった。


「はい! 続きましてそのお隣、私たちの真ん中にいるのがサービス開始から一週間案内役を担当し、その後、色々なお仕事に駆り出されるようになったリリィちゃんです!」


 色々な仕事って何だろうという疑問をかき消すように、名前を呼ばれたリリィは艶のある長い金髪を紙になびかせながら大きく右手を観客の方へ振りながら自己紹介をした。


Lily-100リリィです! みんな~~~~~よろしく~~~~~~!!!! 気軽にリリィ様って呼んでね~~~~~~!」

『『『『リリィさまあああああああああああああ!!!!!!!』』』』

「あっ! 思ってたより様付け恥ずかしい! やっぱり様付けはな……」

「リリィがなんか言っていますが時間がないので割愛っ! そんなわけで早速はじめの企画から参りましょう『NDOインフォメーション!』」


 わあああああああああと歓声が広がる。


 そして歓声が鳴り止んでから、リーファさんが続けた。


「このコーナーではNever Dream Onlineの最新情報やアップデート情報、そしてなんとまさかの後夜祭についての情報などを盛り合わせてお送りいたします!」


 それから続いて行った最新情報やアプデ情報の内容は、武器種やスキル、ジョブが逐次追加予定であることや月末にはクエストの追加を予定していること、また早くも確認された細かなバグ修正のアプデを来週追加することなどなど……多岐に渡った。


 個人的には『靴紐が緩むことが無くなる』というアプデがかなり楽しみである。

 ……いや、走り回る人にとってはけっこうこれ重要なんだよな。


 あと開発中であるらしい『ステータスによる平衡感覚への影響追加』もまた心が躍るような内容だ。ステータス……おそらくDEXだと思うが……によって平衡感覚が強化できる、というのは【立体移動】スキルによる動きがスキルなしでできるようになるかもしれないし、それに足場が悪いところでの弓の扱いもそこそこ向上するだろう。DEXに振る俺にはかなり恩恵がありそうなものだ。


 そんな風に考えているうちに話は後夜祭の話へ移っていった。


「で、後夜祭ですよ後夜祭! リリィ様はどんなのだと思いますか?」

さまって! まだ引きずるのね!? まあ後夜祭というからには……そうですね、『NDO1のラブラブカップルを決める、性別問わず二人組参加のカップルコンテスト!』なーんてどうでしょう?」


 後夜祭関係なくない!? そういえばリリィはこの前『素直になれない女の子が好き』みたいなこと言ってたきがしなくもないし、この予想は完全に趣味か。


「……はい! ラズちゃんはどう思いますか?」

「えっ、私の予想はノーコメントですか!?」

「いやあ、だってねえ? リリィちゃんはなんでそう……ツッコミづらい名前を言うのかなぁ?」

「いや実際にはまず無さそうでツッコミしやすいボケだと思いま……」

「はい! 次行きましょう」

「えっ? あるの!? 私の言ったイベントある可能性あるの!?」

「ノーコメントです。ラズちゃんはどう思いますか?」

「んー、やっぱり今回のイベントって夏祭りだったわけじゃないですかぁ。それで今回のイベントでは色情報付きアイテムが出てきていたわけですよ。そうなると……」

「そうなると?」


 リーファさんの合いの手にラズさんがピンと指を立てて答える。


「浴衣コンテスト! なんてどうでしょう?」

「おおっ!?」

「「おっ?」」

「それ、凄く惜しい! 正解はなんと…………『浴衣ミスコン』です!」

「「おおー」」


 浴衣ミスコン、要するに浴衣に限定したミスコンってことだろう。

 そう思っているとリリィが唯一内容を把握しているリーファさんに尋ねた。


「浴衣ミスコンってことは女性にしか参加権は無いってこと?」

「違うよ?」

「「えっ?」」


 えっ、違うのか? でもそれならミスコンじゃないのでは……。


「はーいそれでは説明させて頂きます! 後夜祭で行うのは『女性の美』を競うコンテスト、『ミスコン』です!」

「でも今回は女性だけじゃないと?」

「その通り! 私は思うんです。そしてきっと運営さんにも思う方がいたのでしょう……何も可愛いのは女の子だけじゃないんだって。『男の娘だっていいじゃない!』と……!!」

「「わぁお」」

「つまり、美を追求するのに性別は関係ない! ってことです。女性、女装問いませんので、皆様方ふるってご参加下さい!!」


 なるほど。要するに美少女みたいな見た目のニアさんとかのための処置か。いや、出るかはしらないけど。……その他にも結構笑い狙いで参加する人が居そうだな。


「後夜祭ってことは開催は明日の夜ってことですか?」

「ラズちゃんいい質問だね。なんと! 後夜祭と言いつつ開催は4日後の日曜日、夜8時から! そして、浴衣は貸し出しのものでも、自作のものでも構いません!」

「ちなみにそれは私たちにも参加権はあるんですか?」

「リリィちゃん。残念ながら私たち3人は審査員兼集計係の方になります。まあその分特等席で見れるからーっと、けっこういい時間が経ってきましたので後夜祭のことは以上になりまーす。さて続いての企画は————」


 そうして次の企画に移るのを見ていると、隣で見ていた実夜がニヤリと渡って「せーんぱい?」と話しかけてきた。


「なんだよ……?」

「今の話、聞きましたよね?」

「ああ……ってちょっと待て!! 凄く嫌な予感がするんだが?」

「先輩。勝負、しましょうか」

「一応聞くが、勝負ってなにで?」

「決まっているでしょう? ミスコンで、ですよ!」


 おかしいだろっ!


「なんでだよ! 俺は男だしお前は女子で、しかも可愛いし浴衣も似合う。勝ち目がない勝負なんてやらないからな!?」

「か、可愛いですか。そうですか……むぅ、可愛いって言われるのは嬉しいんですけど。……やっぱり先輩の女装姿、見てみたいなって」

「なんだその悪魔みたいな願望は!? 絶対嫌だからな!?」

「お願いします! 勝負じゃなくてもいいですから!」

「絶対にやらないからな!!」

「まったく、先輩も強情ですねぇ」

「何とでも言え」


 さすがに女装だけは嫌だからな、全力で拒否させてもらおう。

 そう思っていると、実夜がひとつため息を吐いた。


「はあ……。なら、仕方ないですね。本当はもっと大事なことに使いたかったんですけど…………先輩の女装見たさには敵いませんでした」

「……おい、それって」

「はい! 先輩からこの前貰った『なんでも一つ頼みごとができる権利』、ここで使わせて頂きますね?」


 その笑顔は可愛かったが、俺には悪魔のように見えたのだった……。

 ……そして同時に、どうせなら嶺二も道ずれにしてやろうと心に決めた。



「さて! 時間が経つのは早いもので、メインステージも次がラストとなります! 気合い入れていきますよ~? それでは最後の企画はこちら『NDOストーリー!』」

「いえーい! ドンドンパフパフ~!!」

「やんややんや~!!」

「はーい! こちら『NDOストーリー』では毎回でNDOの世界に起きた進展をお伝えする企画です」

「「世界の進展?」」

「その通り! この『世界の進展』というのはNDOの目的にもなっている二つ。『世界の発展』と『世界の安寧の維持』です。前者は例えば『この世界に無かった文化が発達した』とか『機関車ができた』とか。大きく発展したものを抽出し紹介します!」


 するとラズさんとリリィがリーファさんの言葉を受けて呟いた。


「機関車はそうそうできるもんじゃありませんよね……」

「この世界には石炭とか石油がないもんね……」


 ……たしかに石炭や原油は長い年月掛からないとできないはずだし、世界を作った過程で意図的に入れていないならば無いのだろう。


「つ、次に後者の『世界の安寧』の方ですが……。皆さん、EXエクストラクエストはもう見つけられたでしょうか?」


 EXクエスト、以前にりっかと実夜と一緒に進めたあれだろう。たしか次の目標が『水晶を魔王に渡す』だった気がするが……ああいうのが結構あるのかもしれない。


「この世界の行く末、世界の安寧には『EXクエスト』が深く関わってきます」

「えっ、それじゃあEXクエストを受注した人は責任重大なのでは?」

「いえ、EXクエストは随時更新されるものですから、一人が失敗したら次のクエストとなってどこかしらに現れると思います。そしてこのクエスト、クリアすることで特別なアイテムが手に入ることが多いんです」

「おおっ! つまり受注できるならするべきと?」

「そうなんです! 一度見逃せば同じクエストは二度と現れませんからね。ちなみにEXクエストを1つ受けている間は二つ目はその人には現れません」


 そうだったのか……。なら今途中で止まってるエクストラクエストもできれば早くクリアしたいな。


「でもクエストを受けている間は『スキルの獲得が無い』とか『ジョブが変えられない』とかありませんでしたか?」

「それは通常クエストだけなんです! ユニーククエストやEXクエストではその限りではありませんから心配無用です。……と、説明はこんな感じで大体わかって頂けたと思います! そんなわけで今度こそ参りましょう。第一回! NDOストーリー!!!!」

「ドンドンパフパフ~~~~~~!!!!」

「やんややんや~~~~~~!!!!」

「今回はまだサービス開始直後ということもあって、とっっても紹介する方が少ない、というかおひとりだけです!」

「おおっ! というかもういるんですね」

「いるんです。成した内容は……なんと『討伐タイムアタックという新たな文化の出現』だそうです!」

「討伐タイムアタック!? うーん、割と誰もがやりそうという感じがしますが?」

「この方はタイムアタックの大会を開いたようです。とても小規模でしたが、なんと住民も参加し、優勝者には賞金授与。これによって住民の中に「有志を募ってまたやろう」という動きが現れたため『新しい文化』に認定されたのだとか」


 まさかタイムアタックが住民にまで広がるとは……。ってかその前に大会なんてやってたのか。少し出たかったな……。


「ではその方の名は?」

「世界の進展、第一歩目を踏み出したのは…………ニアさんです! 進展に貢献した彼……彼女?には記念称号が送られます。そして————」


 ニアさん……ニア……? ニアさんなの!?

 と、俺が驚きで目を見開いていると、実夜がクイクイと俺の服の裾を引っ張った。


「ニアさんってこの前プラチナムさんと一緒にいた人ですよね? 何者なんですか?」

「ああ……なんか他のVRゲームでアイツと同じRTAしてて、ランカーだとか言ってたから、たぶんその関係じゃないか?」

「……あー、RTAって身内大会とか結構してるらしいですもんねぇ」


 良く知らないが、まあ普段から身内同士で割と頻繁に大会とか開いているなら、TAの大会を主催しても不思議じゃない気はする。参加者とかは住民も見られる掲示板の方に載せればそこそこ集まるだろうしなぁ……。

 そんな風に考えながら闘技場の真ん中に視線を戻せばもう締めに入っていた。


「それではこれにて第一回ステージイベント終了です! 最後までありがとうございました! 先ほどのコーナーで当選した方は後程ステージの方へどうぞ。それから————」


「では先輩。これからどうしましょうか?」


 今の時刻は22時半。イベントが終わるまではまだあと一時間半ほどある。


「んー、お祭りはもう十分見て回った、よな?」

「まあ、そうですねー……レインちゃんの喫茶店でも行って休みます?」

「もう夜でイベント中だし、やってないんじゃないか?」

「まあ、そうですよねー……。んー先輩、暇ですしイチャイチャしましょうか」

「い……っ!? 突然何を言い出すんだ」

「1つのカップルが隣同士の椅子に座って、周りにはあんまり人がいないんですよ? 例えば……ちょっとだけ、肩を貸してもらえますか?」

「肩?」

「そう、です」

「っ……!!」


 実夜が俺の方へと寄りかかるようにして、俺の肩へと頭を乗せた。微かに暖かい実夜の体温が、肩からじんわりと伝わる。


「先輩」

「……なんだ?」

「身体、こわばってますよ。緊張、しているんですか?」

「まだ、慣れてないんだよ」

「なら、慣れるまで一緒にいなくちゃですね……」

「あ、ああ。そうだな。……お前は、もう慣れたのか?」


 そう聞きながら寄りかかる実夜の方を見てみれば、目を瞑り顔を真っ赤に染めているのがわかった。

 実夜の顔を覗き見たことは目を瞑ったままの実夜にもわかったらしく、俺の肩に頭を乗せたまま少し俯いてくちを開いた。


「……慣れるわけ、ないじゃないですか。まだ、鼓動が鳴りやみません。……VRなのに、不思議ですよね」

「そうか?」

「そうですよ……だから、私が慣れるまで一緒にいてくださいね」

「……慣れてからも、だろ」

「……ふふっ、先輩、恥ずかしくないんですか?」

「恥ずかしいに決まってるだろ……」

「ですよね。でも、嬉しいですから、これ以上は弄りません」

「……そうかよ」


「ねえ……先輩」

「なんだ?」

「来年の夏祭りは、リアルでもゲームでも、一緒にいましょうね」

「ああ、もちろん……」


 ずっと一緒にいられたら、幸せだろう。

 そんな風に、イベントが終わり他に人もいなくなった観客席で、2人の時間を暫く過ごした。

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