第24話:頼まれごと

 夜にすることを全て終えた後、再度NDOへダイブインしようとした時に、CIRCLEの通知が複数件入っていたことに気づいた。


 うち一つは実夜から一言。


『明日そっち行ってもいいですか?』


 ……話し始めると時間かかりそうだから、後回しだな。


 そう判断し、他の通知を見に行くことにする。


「ん、三月のいおりん……三木伊織さんからの個チャ?」


 なんだろうと不思議に思いつつもそれを開くと。


『ちょっと協力してほしいことがあるんだけど、今って大丈夫?』


 と、10分前に来ていた。


 ん、三木さんと殆ど接点無いから……あるとしたらNDOのことくらいか?


『NDO?』


 そう打ち込むと、すぐに既読がつき、その後返信がくる。


『うん。第三の街の南西の方に、山脈の登山道があるのは知ってる?』

『いや、知らないな。素材収集?』

『そうそう、そこのてっぺんにいるフィールドボスが落とすんだけど、遠距離物理の人がいなくてさ。この後時間空いてる?』


 この後……まあ実夜に返信返してからにはなるけど、問題ないかな。


『あと30分くらい……22時からなら大丈夫だと思うから、それでいいなら行くよ』

『ありがと! それじゃあお願いするね。名前は?』

『ああ、Luaって書いてルアだ。向こうではこの名前で頼む』

『りょ、私の名前はイオだからね。あっ、フレンドさんたちにも協力してもらうから、連絡はフレンドグルの方でしたいんだけど、大丈夫?』

『あー、リアルネームは出さないグループか?』

『うーん、私のリア友だけだから問題ないとは思うけど、そっちとは面識ないから、一応出さない方がいいかもね』


 まあその人達リアルで会うことも無いだろうしリアルネームは伏せておくのが安定だろう。


 それから間もなく《三月のいおりんから『フレンドの集い』に招待されました》という通知が来たため、『グループ内で名前を変更』に設定。名前を『ルア』に直して了承を押す。

 トーク画面を開き『よろしくお願いします』と一言打つと、三木さんがすぐに反応し、その後他のメンバーの人も反応した。



 三月のいおりん:いらっしゃーい

 サキ:いらっしゃーい

 かなかな:知らん人や。噂に聞きし助っ人くん?

 三月のいおりん:そうそう、弓使いだって聞いたから、つい頼んじゃった

 サキ:えっ、向こうで会ったことないの?

 三月のいおりん:全く無いね。だってNDOやってるってことを知ったのすら昨日だもん

 かなかな:えっルアくんって何レベル?


 レベル……洞窟の中とかで割と敵倒したからそこそこ上がったんだよな。今はたしか……


 ルア:24だったと思います

 三月のいおりん:普通に強い……よね?

 サキ:私より強い(確信)

 かなかな:レベルなら私の方が高いけど、これはええ戦力やで……

 サキ:っていうか後二人は今いないのかな?

 三月のいおりん:今日は大事な用があるってさ

 サキ:仕方ないか。……で、行くの今日なんでしょ? 何時から?

 三月のいおりん:22時からでよろしく!

 かなかな:どこ行けばいい?

 三月のいおりん:うーん、第三の街の南門でいい?

 サキ:り

 かなかな:りょー

 ルア:了解

 三月のいおりん:あっ、それからこの二人向こうだと口調変わるけど、気にしないでね!

 かなかな:別に気にしてくれてもええんやで?

 サキ:だってロールプレイしたいじゃない? 

 ルア:了解


 これでこっちはいいとして、22時半までに実夜の方に返信しておかないとな。

 時間はあるけど、さっきから既読をつけて放置してる感じに……まあアイツなら問題ないか。


 そして実夜との個チャへに行く。


『こっち来るって?』

『遅い! その一言打つのにどんだけ時間かかってるですかー』

『いや悪い。少し立て込んでたんだ』

『まさか……女ですか?』

『女って……』

『私との関係は遊びだったんですね…///』

『……遊ぶことしかしてなくないか?』

『……そういえばそうですね』

『それで、こっち来ていいかってどういうことだ?』

『そうそう、明日、用事無いなら、そっち行ってもいいですよね?』

『別に構わないけど、なんでだ?』

『うーん……先輩に会いたいから、とかどうですか?』

『いや、どうって何がだよ……』

『可愛い後輩が休日に会いたいという理由だけで先輩の家を訪ねてくる……嬉しくなりません?』

『……”可愛い後輩”って文字列、なんというか、強いな』

『つまりは嬉しいんですね?』

『……』

『で、本当はとある用事があるからなんですよ』

『用事?』

『はい。ちょっと引っ越す前に先輩に言っておかないといけないことを思い出しまして……』

『言っておきたいこと? ここで言うんじゃダメなことか?』

『はい。できれば直接言っておきたいかな……と』

『ただ私の処女を上げようかとかそういうことじゃ無いですから、そこまでは期待しないで下さいね?』

『そんな発想は初めから俺には無いから安心しろ……』

『そうでしたか、つまり発想が浮かんだ今、期待してしまう可能性はあると』

『無いわ!』

『まあ、いいです。じゃあ明日は明け方にそっち行きますね』

『ああ。しかしお前が明け方に来るのって珍しいな。なんかあるのか?』

『延期した引越しなんですけど、明日の午後発の飛行機で行こうかってことになってて、その前にってことです』

『わかった』

『あっ、それから、明日からNDOのイベントで、夜にお祭りがあるじゃないですか』

『それでなんですけど。明日の夜はわかんないですから、明後日と明々後日の夜! 一緒にお祭り見てまわりません?』

『ああ、俺もそのつもりだったんだ』

『嘘っ!? それなら先輩が誘ってくれるのを待つべきでしたね……』

『いや、別に変わらないだろ?』

『変わりますよ! 大違いです!』

『そうなのか?』

『そうです。『好きな人に誘われる』って女の子にとって一つの大きなイベントなんですからね?』

『あっ、好きって好きじゃありませんよ! いや好きじゃなくはないんですけど、あくまで例えですから!』

『いや、別にわかってるからそこまで否定しなくても……』

『とにかく! 先輩はもうすこし女心というか私の気持ちを理解してください!』

『あ、ああ。頑張るよ……』

『よろしい! ではまた明日、そっちに行くときに連絡しますね』

『おう。また明日な。待ってるよ』

『はい! ちゃんと待っててくださいね!』


 ……やっぱり実夜とチャットとはいえ話しているのは楽しい。心から言い合えるからだろうか。……でもコイツにならなにを言われても許せると、不思議とそんな気がする。


 それから俺はNDOへとダイブイン。俺が南門のところへ行くと、イオと頭上に表示されている女性プレイヤーを見つけた。闘技場で見た時とは違い、金属兜をつけておらず、桃色の短髪が見えることで印象をガラッと変化させていた。


 こちらが気づき声をかけると。


「イオさん?」

「えっ? って貴方は……なんの用でしょうか?」


 いきなりキリッとした表情になり、そう聞いてきた。


 ……いや、なんで?


「いや、なんのって南門で待ち合わせって……」


 そう言うと、一瞬イオさんがふっと俺の頭上の方へ目をやってから、しばしフリーズして。


「えっ……っええええええええええ!?」


 大声を上げて驚かれた。……いや、だからなんで?


「えっ、だって、その、えっ……えぇっ!?」

「……どうした?」

「……血染めの弓使いさん?」

「…………動画、見たのか?」

「やっぱりそう、だよね……じゃあルアくんがあの戦闘狂ってこと!?」

「違うわっ! あの動画ではそう思われても仕方ないかもしれないが、断じて違うからな!?」

「う、うん。わかった……けどそっか、そうなんだ……」


 絶対わかってねぇだろおい。


「はぁ」と思わずため息を吐いていると、イオに話しかけてくる人が。


「くっくっく……我が半身イオよ、この闇滾る混沌とした世でまた出会えたこと光栄に思うぞ」


 その人は黒いツインテールで、髪と同じ色の裾の短いドレスのような意匠の服を着ていて、左眼には眼帯。少し細めた右目と、その右目の上下を囲う、ピースのような決めポーズ。まさしく『中二心を刺激する』ようなコスプ……いや、ロールプレイと言えるだろう。


「あーうん、こんばんは。ルアくん、この痛い子が『かなかな』ね」

「あ、ああ。かなかなさん。よろしく」

「ふっ、貴様が我と行動を共にする……も……の……?」


 そう言いながらこちらを向いた彼女は、細めていた右目をパチクリさせて。


「えっ、あの……えっとその、えぇっ!?」


 さっきのイオさんみたいな反応をありがとう。でも割と傷つくぞ。


「えっと、その……よろしく、お願いします……」

「かなかな、気持ちはわかるけどキャラ振れてるよ……?」

「なっ……!? ふふっ、わ、私を動揺させるとは大したモノよ。それでこそ行動を共にするにあ、値するというもの……!!」


 そう口で言っているが視線は完全にこっちから目を逸らしている。なに? どうしてそんなに避けられてるの?


 そうしているうちに最後の一人も来たようだ。


「イオ殿。遅れてすまぬ」


 そう言いつつ来たのは、りっかと同じような和装を着た人だ。しかしこちらはりっかと違い、全身和装だ。

 下駄はりっかも履いていたが、この人はそれだけではない。頭は黒髪を簪で結わえてあり、便利なアイテム入れは鞄ではなく巾着袋。そして動作が一つ一つ丁寧だ。


 そして腰に付いているのは……細い短刀?


「あっ、全然大丈夫だよ。で、ルアくん。この人が残りの一人、こっちでの名前はルキアちゃん」

「よろしく頼む、ルア殿」

「あ、ああ。よろしくルキアさん」


 ルキアさんは特に過剰な反応はしない……と思ったのだが。


「あの……なんでそんなに距離を……?」

「むっ、気を悪くしたならすまない。ただ、少し怖……いや、そういう気分だったのだ」


 うん。俺は涙を流しても許されると思う。 いや泣かないけどさ。


「……そんなに有名ってわけでもないと思ってたんだけど?」

「いやぁ、なんかゴメンね……? 例の動画さ。私が掲示板で見つけて、グループに貼っちゃったんだよね」


 ……あーそりゃあ全員知ってるわけだ。まあ、仕方ないと思うしかないさ……。


「……まあいいか。あっ、でも一つ言わせてくれ。俺は断じて戦闘狂ってわけじゃないからな? だから、そこまで怯えないでくれると助かるんだが……」


 二人ともなぜかイオさんの後ろに隠れるようにして立っているのが凄く気になったためそう言うと。


「くっ、こ、この我ともあろう者が其方如きにお、怯えるなどあるものか……!!」

「私は用心棒。そう簡単には屈さぬよ……」


 二人とも、心なしかイオさんの方へ近づいた気がする。……なに? 俺、そんな悪いことした覚えないんですが?


「ま、まぁ、いいじゃん。とりあえず登山道に行こうよ」


 イオのその一言で、さっさと目的を達成して解散という方針に決まった。


 登山道を歩きつつ、イオさんに尋ねる。


「それで、この先にいるフィールドボスってどんなやつなんだ?」

「うん。『ハイホーンバード』っていう鳥だね。ある程度HPを削らないと地面に降りてこないんだけど、魔法もかなかなが少し使えるだけだから、遠距離攻撃が足りなくてね……」

「えっ、かなかなさんって魔法主体なんじゃないのか?」

「ううん、かなかなは闇魔法も使える中距離物理職。たぶんかなり珍しい型だと思う」


 中距離物理? うーん、ダガー投げたりとかは違う気がするし……鞭とかそういう系か?


「まあ見てもらった方が早いし、次に雑魚敵が出てきたらかなかなにやってもらおっか……ってことでかなかな次の敵はよろしくね~」

「ふふっ、そうかそうか。ならばお望み通り、我が力をその目にたっぷりと焼き付け、跪くがよいっ!!」

「出てきたらだから、まだだよ?」

「うっ、わかっておるわ」


 それから数分としないうちに一体のワニのような姿の小型の竜種、コモドドラゴンを見つけた。


「くっくっく……其方が我が力の糧とならんことを欲するものか。よかろう、大いなる力を込めし我が鉄槌は岩をも砕くっ!! その威力その身をもって知るが良いっ!」


 まだこちらに気づいた様子のないコモドドラゴンにそう言い放ち、右手を横に伸ばしながらさらにこう続ける。


「来いっ! 我が最遠の郷より呼び来たりてその姿を見せよ! 血に塗れし鉄球ブラッドクラッシャーッ!!」


 そう言いながら呼び出したのは一つの、トゲトゲがついた鉄球。繋がれた長い鎖の先を右手で持っている。

 そして今の声でコモドドラゴンも気づいたようでこちらに向かってくる。


「恐れおののけっ!! 血滾る鎮魂歌ブラッドレクイエムッ!!」


 かなかなさんがそう言いながら鉄球のついた鎖を片手で振り回し、コモドドラゴンに思い切り叩きつけた。

 するとそれは当たった瞬間にドカンと爆発を起こし、コモドドラゴンが白いエフェクトだけを残してチリとなった。


「えっ……めっちゃやばくない?」

「うん、かなかなってね、めちゃくちゃ強いのよ。闘技場ランキングTOP70は伊達じゃないって感じだね」

「えっ……ランキングTOP70ってマジか?」

「ふっふっふ……どうぞ、恐れてください。敬いなさい。……まあ、我が力を前にして恐れを抱かない者など、そうそう居るはずはありませんからね」

「でもこの前一瞬で負けたって嘆いてなかったっけ?」

「あっ、あれは……そう、我が漆黒に染まった力の渦が我の制御下から解き放たれ、真価を発揮できなかったのです。要するに間が悪かったのです」

「ふーん……?」

「なっ、なんですかその目は! 我が半身、イオともあろうものが、この私を疑うのですか?」

「まあ、いいけどね。じゃあこちらの最高戦力を見せたところで、さっさとフィールドボスに挑んでいこうか!」


 ということで、そこから10分ほどかけて雑魚を処理しつつ山を登っていくと大きく開けた平地のフィールドの出た。反対側まで行くと第一、第二の街がある方まで一望できるらしい。


「でも、そんなことは一人の時にやってね。今日は一刻も早くヤツをとっちめないといけないんだから!」

「そういえば聞き忘れてたんだが、なんのドロップを狙ってるんだ?」

「おっと、そういえば肝心なことを言い忘れてたね」

「ん、なんだ?」

「とどめは私が刺さないと、ドロップしないの。狙っているのは極上の鶏肉だからね!」

「極上の肉か……ってことは解体スキル持ちか?」

「うん、そゆこと!」

「……なら、俺がとどめさしても、多分大丈夫だぞ? 俺が持ってるのは解体とは……まあ少し違うけど、肉もドロップするからな」

「えっ? どゆこと? 詳しく」

「いや、本当は初めに言っとくべきだったんだが……」


 それから【解体EX】のスキルのことやちょっと変わった称号のことなど、ところどころ端折りながら話した。


「それは何というか……大変そうだね。頑張って! でそれはそうとして、つまり死体になった場合はルア君が解体してくれるってことでいいの?」

「ああ、でかい鳥なら肉もそこそこ手に入るだろうし、少し肉を分けてもらえればそれで十分だ。ただ、戦闘した時の傷がそのまま品質につながるから、苦戦するようなら普通にイオさんが倒した方がいいと思う」

「了解っ! じゃあさっさと始めよっか!」

「そういえば、その鳥ってどこにいるんだ?」

「あそこだよっ!」

「えっ?」


 イオさんが指を指して示したのは、俺たちの真上で。その先を追うように上を向いたとき、大きな影が俺たちを覆った。


「……でっけぇ」


 その影の持ち主は言うまでもなく、でかい鳥、ハイホーンバード。


「あれの肉が食べたいんだよ-。で、あの高さだと残念ながら、かなかなの鉄球は届かないし、同じくかなかなの魔法も闇魔法だけだから昼間は効果が薄いってわけ」

「で、あいつを射抜いて落とせばいいわけか」

「いやまあ、それでもいいんだけど、HP減らせば自分から降りてくるらしいよ?」

「まあ、物は試しっていうだろ? ちょっとやってみるわ。無理そうなら数打ってダメージ蓄積するのを待つってことで!」

「えっ、じゃあ頑張って!」

「おう」


 さてとまず射抜くのは……羽だな。熊の部位に比べればまだ、分厚くても羽の方がまだ柔らかそうではある。……でも下からだからな。射抜けるほどの威力は出そうにない。

 そうなると狙うべきは……。


 そう考えつつ、弓の弦を引き絞った。

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