第19話:称号の真実
「とりあえず、これで完成かな」
フライパンにある炒めた熊肉を見ながら呟いた。
初めに作ったのは熊の解体中にギルさんから聞いた料理、熊肉の炒めもの。
熊肉に小麦粉をまぶして多めの油で焼いて、醤油、砂糖、酒、それにニンニクと生姜を使った調味液で煮詰めただけ。
なんでも熊肉はそのまま炒めると固くなってしまうようで、小麦粉をまぶして多めの油で炒めることで丁度良い固さにできるらしい。……全く知らなかった。
紙皿を用意しサニーレタスを添えて、フライパンからお皿に盛り付ける。
するとピコン! という効果音と共にログが流れた。
《【称号:私の友達は新米料理人!】が追加されました》
ああ、そういえば料理のスレッドで『新米料理人』っていう称号があるとかいう話を聞いた気がする。
取得条件は【料理】スキルをアクティブにした状態で料理を作る……とかだった気がする。
ってことはこの炒め物も【料理】で何かしらの効果が付いたんじゃないか?
ということで、試しに【鑑定】を使ってみると。
=================
NAME:熊肉の炒め物
Rank:2
Info:熊肉を炒めたもの。10秒間攻撃力UP(極小)
=================
この『10秒間攻撃力UP』っていうのが【料理】で付いた効果か? めちゃくちゃ低いな……。
ある程度はスキルレベルを上げないと使えるほど効果が上がらないんだろう。
「あと手に入れた称号も見ておくか」
掲示板で見た『新米料理人』の効果はたしか『食料カテゴリのドロップ率UP』だったと思う。もしそのままなら俺には全く得にならないわけだが……。
そう思いつつ見てみると。
【称号:私の友達は新米料理人!】
Lily-100の友達が新米料理人になった証
効果:……なんだと思います?
Lily-100のコメント
『……ノーコメントで』
メニュー画面から視線を外し天井を見上げる。
一瞬、書いてある内容を幻視してしまったようだ。さすがに効果欄が疑問形はありえない……ありえなくない?
もう一度見る。
[効果:……なんだと思います?]
いや、ちょっと待て。どうしてそうなった?
本人に確認するためフレンド欄の一番上にある『Lily-100』を選択し、フレンドチャットで都合を聞く。するととすぐに了承の返事がきたため、音声通話を開始を選択。
それと同時に向こう側から大きな声が聞こえてきた。
「やっと通話を掛けてくれましたかああああああ!」
「……えっ」
「もー、私の唯一のフレンドなのに全然かけてくれないんですもん。ルアくんはもう少し友達を大切にしてください」
「あ、ああ。気をつけるよ……ってそんなことより【称号:新米料理人】の効果なんだが」
「そんなことってなんですかそんなことって!」
「えっ」
「まったく、私がどれだけ暇してたと思ってるんですか」
「……やること無いのか? 新しいプレイヤーとかどんどん入ってきてるんだろ?」
「私の場合はルアくんのフレンドですからね。仕事の一つに『監視』が含まれてて、それ以外には特に仕事は割り振られていないんですよ。新規プレイヤーの案内は他の方々で足りているようですし」
「えっ、監視が仕事?」
まさかの新事実が発覚した。見られるってことはわかってたけど仕事ってどういうことだよ。
「はい。先生に言われたんです。私の『フレンド』の称号は『特別』だからちゃんと見ておくように、と」
「えっと、……先生?」
「あっ、えっと。うんえーさんって言えばわかりますか?」
うんえーさん……運営さんか!
「で、監視してるんですけど。一人で監視してるだけじゃ暇なのでルアくんにはもっと積極的に連絡してほしいんですよ。だから称号も少しツッコミ所を作ったりしてるんですよ?」
「今回のあれはツッコミ所というかもう何も教えてくれなかっただろ……」
「それは……前回の『縛りプレイヤー』の称号のときに見事にスルーされたからですね」
「縛りプレイヤーの称号っていうと、『アーツが一切使えなくなるみたいですよ?』ってやつか?」
「それです」
「……実際は違かったのか? でも使用権限が無くなってるみたいな表示が出てたから、そうなのかと思ってたが」
「そこでなんで私に聞いてくれないんですかぁ。まったく分かってませんね……。あの称号の効果って、あってないようなものなんですよ」
「……どういうことだ?」
「……ヒントは『長押し』ですよ」
えっ、それって……。
急いで称号一覧から『私の友達は縛りプレイヤー』の称号の詳細へ行って、さらにその称号名を長押し。すると……。
《称号の設定を変更しますか?》
……《はい》を選択。
《どれに設定しますか?》
▶︎ アーツ制限(現在の設定)
装備制限
持ち物制限
制限なし
……ああ、なるほどなぁ。
少しだけおかしいとは思っていたんだ。スキルは『アーツ縛り』なのに称号名には『アーツ』と入っておらず、それなのにアーツ
それに加えて、実夜は『装備縛り』というスキルを知っていた。となればその称号は何になるんだろう、という疑問は持って然るべきだ。
たぶん、縛りに関する称号はアーツ、装備、持ち物の計3種類あって、どれを取っても同じ称号なんだろうと思う。それで、β版ではうち一種類しか見つからなかったと。つけ加えて言えば、その称号の効果が空欄だったから他にあるということもわからなかった……みたいな。
……それで一通りの辻褄は合うか。
「……つまり、制限なしにすれば何も問題無いわけか?」
「そのはずですよ? ちなみに元々の効果欄は『三種類の縛りを自分に課すことができる』でしたね。我ながらよくこれを『アーツが使えなくなるみたいですよ?』に直したものだと過去の自分を褒めたいですね」
……いや、そんなドヤ顔されましても。
とりあえず、制限なしにしておく。
「ふっふっふ、こういったことをされたくなかったら定期的に私とフレンド通信をするのです!」
「あ、ああ。わかったよ……ってそれならリリィがこっちに掛けてくればいいんじゃないか? こっちの様子わかるんだから都合もわかるだろうし……」
「えっ、いいんですか?」
「……? 何がだ?」
「だから、その。私から特に用事も無く通話をかけても、怒りませんか?」
「さすがにそんな器小さくないからな? そもそも、急ぎの用でもなければ問題無いし」
するとパアァっという効果音がどこからか聞こえてきそうなほど、若干の怯えを含んでいた表情がみるみるうちに満面の笑みへ変わっていって。
「ありがとうございます! そう言って頂けて嬉しいです!」
そう言ってリリィは可愛く微笑んだ。
「……っと、それはそうと『私の友達は新米料理人!』の称号の効果を教えてもらうためにフレンド通信にかけたんだよな。教えてくれないか?」
「ふっふっふ。では教えて差し上げましょう」
「……なんか上からだな」
「別にいいでしょう? 効果はですね。えっと、『食材系ドロップの品質向上』ですね」
「ドロップかぁ……ってことは俺には関係ないか……」
「え? そんなことないと思いますよ?」
キョトンとした顔でそう言った。
「えっ、どういうことだ?」
「システム的な話をするとですね。【解体EX】でしたっけ? あれで残るのって厳密には死体が残っているんじゃないんですよ」
「……え?」
「あれはあくまで『倒した時点の状態』を元にされたドロップアイテムです。だからインベントリにも入れられるんです。それに、血抜きとか無駄な水分を抜いたりとか。色々と必要な筈の工程がなかったでしょう? アレも同じ理由ですね。そうやって考えてみればわかると思いますけど」
「えっと、つまり……?」
「要するに、【解体EX】の効果によって『魔物の死体』というのが確定ドロップするわけで、それ自体が肉系のドロップ品というわけです。……たぶん」
最後に小さく聞こえた一言で信憑性が一気に薄れた気がしたが、有用な情報であることには変わりない。
「なら、品質が良くなるってのも調べる価値があるな……! ありがとう。参考になった。……にしても、そんな情報どこで知ったんだ?」
「ふっ、ずっとルアくんを観察していましたからね。それくらいは! 自信満々に言いましたけど、私の単なる憶測です。そう考えると
「へぇ……よくそれだけ考えられるな……」
「友達のためですから! それに、基本的に暇でしたし」
ああ、そういえばそうだったな。
そんな風に話していたら、いつのまにか十数分経っていたようだ。さすがにそろそろ切ろうか。
「じゃあそろそろ通話切るな」
「はい! 久しぶりに話せて楽しかったです。……あっ、次はこちらから通話かけていいんですよね?」
「おう。もちろん。じゃあまた」
「はーい。またです!」
さてと、とりあえず今は料理の真っ最中だ。借りられる時間もまだ二時間以上あるし、材料もある。とりあえずは熊肉の炒め物を量産するかな。道具屋で買った紙皿はまだまだ沢山ある。
「よし。やるか」
気合いを入れなおして、作業に取り掛かった。
「お時間終了10分前になりました」
二時間の間、最適な調味料のバランスを考えながらひたすら熊肉を炒めた。
作った品目は2種類。『熊肉の炒めもの』と『熊肉のピリ辛炒め』だ。豆板醤をニンニクや生姜と一緒に加えると『ピリ辛』がついた。
今回の時間でできた最高品質はこの二つか。……なかなか上がらないな。
そう思いながら二つの鑑定結果を見直す。
=================
NAME:熊肉の炒め物
Rank:3
Info:熊肉を炒めたもの。ニンニクと生姜のバランスが絶妙。30秒間攻撃力UP(小)
=================
初めに作ったものよりRankが1上がり、効果時間は10秒から30秒、効果の大きさも極小が小に上がった。
そしてピリ辛の方はというと。
=================
NAME:熊肉のピリ辛炒め
Rank:2
Info:熊肉をピリ辛に炒めたもの。ピリッと辛い、後を引く美味しさ。3秒間火属性付与
=================
何度も試したが、Rankは2だった。たぶん豆板醤の入れる割合とかニンニクと生姜の比率とか刻み具合とか色々あるんだろう。
それでも、今回の料理は収穫も多かった。一つは同じ料理でもランクが一定じゃないことだ。焦げたときやニンニクを入れすぎたときなんかにRankが1に落ちることもあった。逆に最高はRank3までいったわけだから更に上もあるかもしれない。
そしてもう一つ、料理の正解パターンというのは一つじゃないらしいということ。例えば刻みニンニクの香りがだけを移して途中で取ったときと取らなかったとき。
どちらにおいても同じ料理名かつ同じランクだったが、効果の時間と大きさには違いがあった。まだ憶測の域を出ないが、もし食材やそれらの組み合わせによって効果の内容や時間が変わるのであれば、それを調べるのも面白いと思う。
……とはいえ、掲示板にもう載っているようなら見るけどな。ボス戦とかイベントのネタバレは少し思うところがあるが、料理や生産などの、どうあがいても一人じゃ解明できなそうなものは別だ。
まあ、掲示板はあとで確認するとして、とりあえずもう時間もいい感じだし、夕飯のために一回落ちるか。
ダイブアウトすると端末に数件の通知が来ていることに気がついた。
「ん……一件は実夜か」
実夜から明日の早朝の飛行機で行くとの連絡があった。
とりあえず『気をつけてな』と一言打って、あまり使いどきの無い系統のスタンプを送っておく。
「で、あとは……クラスサークルか」
クラスサークルは高校の同じクラスで作ったCIRCLEグループで、今まで特に盛り上がることは少なかったのだが。
「……NDOの話題が出てるのか」
流し読みしたところ、『NDOやってる人、グループ作ったから入らん?』って話らしい。
うーん、俺は……無理だな。掲示板に晒された人が俺だと気づかれるわけにはいかない。
リアルの人とオンラインで会うのは仲の良い奴だけで十分だ。
そう思い、端末をスリープモードにして夕飯作りに取り掛かった。
食事中、ピロン! という音とともにCIRCLEでグループに招待された旨を知らせる通知が来た。
「んぐっ……なんだ?」
一瞬、驚いて肉を喉に詰まらせかけたが、どうにか飲み込む。
……あれ? クラスサークルには返信してなかったよな? なんのグループだ?
食事を一時中断して確認してみると。
《白金嶺二さんからグループ『NDOのやつ』に招待されました》
……やられた。思わぬところに伏兵がいたもんだ。しかも嶺二が俺を招待したって通知は向こうのグループに行ってる筈だし……。
少し考えた後、『グループ参加する』を押してから端末をスリープモードにして、夕飯を再開。
……まあ、なるようになるだろう。
あまり考えない方がいいと考えながら、水を一口飲んだ。
食器を片付けたあと、先程入ったサークルから通知が来ていたため見てみる。
白金嶺二 :あいつパッケージ勢だぞ
三月のいおりん :うそやば
白金嶺二 :あっ、リア充さんちっす
涼(坂口):その呼び方やめいや
涼(坂口):そういえば武器って何使ってる?
涼(坂口):初めに剣で始めたけどなんか馴染まないんだわ
白金嶺二 :ダガー2本持ちorショートソード
三月のいおりん :剣盾or刀
楓 :投げナイフと杖(魔法)
涼(坂口) :朝倉は?
白金嶺二 :あいつ弓やぞ
白金嶺二 :ふつうに上手い
涼(坂口):うそだろ? 弓とか扱える気しない
三月のいおりん :弓がめっちゃ上手い人ってたまにいるよね
三月のいおりん :今日も闘技場でボコボコにされたし(泣)
楓 :えっ、いおりん剣盾なのに?
三月のいおりん :うん
涼(坂口):なにそれやっば
楓 :有名な人?
三月のいおりん :わかんない、『YAMI』って人
涼(坂口):えっ、それって地獄の天使様? 本物?
楓 :誰? 二つ名持ち?
涼(坂口):β版での二つ名持ち(掲示板限定)
涼(坂口):たまに闘技場に出没する弓使いで
涼(坂口):めちゃ上手くて外見も可愛いのに狙うのが常に急所だから
涼(坂口):初見の人がトラウマになることがあるとかないとか……
白金嶺二 :草
楓 :えっ、いおりんそうなの?
三月のいおりん :首めっちゃ狙われた……
楓 :やば、闘技場近づかんとこ
涼(坂口):本物か……見てみたい
楓 :一緒に行く?
涼(坂口):まだ第二の街にもついていませんorz
楓 :私もまだだったorz
三月のいおりん :頑張って笑
白金嶺二 :熊はそんなに強くないし蜘蛛も遠距離攻撃あればいけんじゃね?
楓 :じゃー頑張る。涼いつ行ける?
涼(坂口):今日はいつでもいいぜ
楓 :じゃあ今からね、噴水のとこで待ってる。ページ1ね
涼(坂口):りょ!
三月のいおりん:仲良いなおい
涼(坂口):まあな!
楓 :そうでもなくない?
涼(坂口):ひどい
楓 :そうでもなくない?
涼(坂口):(泣)
っと、ここまでか。それにしても次々と新事実が……。
まず、YAMIってのはおそらく実夜のことであってるだろう。似ている名前で間違えてるってのも考えにくいしな。
もしそうなら、実夜は今日、1戦だけやって落ちたから、あのときの相手だったのが三月のいおりん……三木伊織さんってことになる。そういえば武器も盾剣だったしな。嶺二が『まだ知らない』って言ってたのは名前だけしか知らなかったからとかそういう理由だろうか。
……世間って狭いんだな
まあ、それよりも実夜が『地獄の天使』という二つ名で呼ばれていたということの方がかなり気になる。……機会があれば本人に聞いてみるのも良いかもしれない。
っと、今日中に称号の効果を試してみたいしさっさとやること済ませないとな。
それから風呂に入ったり歯を磨いたり。ゆったりとした時間を過ごすうちに眠くなってきて。
……よし、称号の確認は明日にしよう。
そう思い、電気を消して布団に潜り、目を閉じた。
明日から暫くはリアルで実夜と会うことは無いんだと、意識が遠のく直前に、何故かそんなことを思い出していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます