第14話:友人とVRMMO

 今朝起きると、CIRCLEに嶺二からトークが入っていた。


『今日暇か? 暇だったらNDOやろうぜ。俺のプレイヤーネームはプラチナムだ』


 日付は今日で間違いない。……今って6時だよな? 何時に起きてんだコイツ。


 きっと十中八九寝てないんだろう、というかこのトーク送ってから寝たなこりゃあ。

 まあ今日は用事も無いし……良いだろ。


『良いけど、何時からする?』


 それだけ打って閉じる。たぶん今は寝てるだろうし、返信が来るのは9時か10時だろう。



 そして実夜を送り出し、洗濯、掃除といった朝の日課を一通りこなして時計を見ると、ちょうど9時。

 そろそろ返信が来る頃かと思い端末を確認すると、つい10分前に通知が来ていた。


『10時からで。場所はアディエルの噴水広場でヨロシク!』


 10時に始まりの街な。


『了解。俺のプレイヤーネームはLuaだ』


 それだけ送り、NDOにダイブイン。


 あと1時間か。ちょうど昨日解体した熊を売りに行こうと思っていたし、時間もあるなら行くか。

 ということでギルドの受付へ。


「おはようございます。シーナさん」

「あっ、ルアさん。おはようございます! 本日も買取ですか?」

「はい。よろしくお願いします」

「わかりました。こちらへどうぞ」


 シーナさんは解体したものの買い取り担当らしく、人もいいためすぐに打ち解けて買取査定の最中もよく話している。


「ではいつも通りここに出してくださ……っと、その前に一応確認させていただきますが、今回の魔物は前回と同じように中型以下の魔物ですか?」

「いえ、大型だと思います。熊の魔物は130kgからが大型区分でしたよね? 解体場で量ったときはたしか155kgくらいだったので」


 魔物の型の大きさは4種類。小型、中型、大型、特殊に分けられる。解体場で解体方法と一緒に教えてもらったのだが、その基準は魔物の形により様々でまだちゃんと覚えられていない。


「いえ、熊型は150kgが基準ですが、どちらにせよその重さなら大型ですね。でしたらこちらのトレイにお願いします」


 示されたのはいつもの5倍くらいの大きさのトレイ……というか、これトレイだったのか。


「一度に全部載せて大丈夫ですか?」

「はい。構いませんよ」


 凄い、熊20頭分が楽々載った。きっと特殊に対応するためのトレイなんだろうな……。


「……よし。ではお願いします」

「はい。ただ、これだけ量が多いとかなり時間が掛かると思います。お金が今すぐ必要、ということで無ければ終わり次第ご連絡致しますが、どうします?」

「ではそれでお願いします。連絡ってどうやって取るんですか?」

「はい。フレンドになって頂ければフレンドチャットの方でご連絡します。大丈夫なら申請を送りますね」

「はい。お願いします」


「では査定の方が終わり次第ご連絡しますね」

「よろしくお願いします。それではまた」


 とりあえず買い取りの方は大丈夫だろう。待ち合わせまでは……あと30分か。何してるかな……っとそういえば掲示板、実夜に昨日言われたのに結局まだ見てない。

 ということで、噴水広場のベンチに座り掲示板に目を通すことにした。



 ……へぇ。いろんなことが載ってるな。

 掲示板には今、全てのジャンルを合わせると500を超えるスレッドが立っており、中でも『【18スレッド】料理について調べたやつおる?【情報求む】』を1スレ目から追って行くと食材の手に入る場所から販売時の適正価格まで、様々なことが話されていた。

 話が逸れることが多いから、必要な情報を探すとなると面倒そうではあるけどな。


 と、そんな風に時間を潰していると周りをきょろきょろと見回すプレイヤーが、俺を見つけて話しかけてきた。


「おっ、いたいた。ルア、であってるよな?」


 そう言って話しかけてきたのは金髪癖っ毛の、いかにもヤンキー風な顔立ちを模したアバター。


「ああ。プラチナム、だな。……この名前長くね?」

「おう。長いのには同意するから、プラチナでもプラでも好きに呼んでいいぜ」


 うーん、プラ……チナ……あんましっくりこねぇな。


「まあナムでいいか。で、何する?」

「あ、ああ。とりあえずなんか狩りに行こうぜ。 大型のやつ」

「大型の? 俺の知ってるのだと熊くらいしかいないんだけど」

「熊かぁ。なんかピンと来ないんだよなぁ。他に……莉奈に聞くか。お前も実夜ちゃんに聞いてみてくれ」

「いや今あの二人は授業中じゃ」

「……たぶん大丈夫だろ」

「うーん、先フレに確認してみるな」

「フレ? 実夜以外にいるのか!?」

「……なんだその反応。少しだけどな」


 フレンドの欄を見てみると、丁度ヒスイさんがオンラインになっていたためチャットしてみる。


『今って大丈夫? 聞きたいことがあるんだけど』

『はい、丁度私も連絡取ろうと思ってたので。通話に掛けますね』


「聞こえます? あっ、大丈夫みたいですね。おはようございます」

「おはよう、ヒスイさん。それで、聞きたいことがあるんだけど」

「なんでしょう?」

「大型の魔物って、熊以外に何か知りません?」

「大型の魔物……えっと、第二の街から西に湖があるんですけど、そこにシルヴィシアっていう竜がいますね。たぶん第三の街方面に抜ける前だと、森の熊とその竜くらいしかいないと思います」

「西の湖な。ありがとう。行ってみるわ。それで、ヒスイさんが連絡取ろうとしてたのって?」

「はい。一昨日の夜、『あとで必要な素材まとめて連絡する』って言ったんですけど、都合が合わなくて。遅くなってしまいましたが、さっきやっと纏めたので、リストをフレンドチャットの方に送りますね」

「あっ、はーい。集めた素材はどうやって渡せばいい?」

「荷物機能を使ってください。……荷物機能の使い方分かります?」

「えっと、フレンド欄の名前タップした時に出てくるこれ?」

「それです。荷物ってところを押すと送る物を選べるので、そしたら素材を選んで送って下さい。商品ができたらまた連絡しますね」

「分かった。ありがと」

「はい。では失礼します」


 それからすぐにリストが送られてきた。

 知らない素材もあるし、明日実夜と取りに行くか。


「……うし。おいナム? 大型の魔物見つかったぞ」

「それはいいんだが……今のフレンド、女子か?」

「ん? ああ、そうだな」

「こんだけリアルだと異性とフレンドとかなれないと思ってたわ」

「まあ言いたいことはわかる。実際、俺も運が良かっただけだからな」

「ふーん、まぁとりあえず狩りにいくか。場所は?」

「第二の街からさらに西に行ったところ。……ってその前に森の熊倒したか?」

「森はまだ行ってないな。なんでだ?」

「……森の熊倒さないとそこまで行けないんだよ」

「あっ、そうだったのか? まぁそれなら仕方ねえ、とりあえず今日は熊だな」


 戦闘方法の確認や雑談をしながら森へ向かう。


「それで、まだLv5と」

「おう。動きに慣れるのに思ったより時間かかってなぁ」

「武器は?」

「ダガーが二本とショートソードが一本。敵によって使い分けようと思ってる」

「へぇ……それでジョブなんだ?」

「今は、暗殺者」

「……えっ?」

「いや、言いたいことは分かる。だがなってしまったものは仕方ないだろ?」

「お、おう」

「まあ、そんな戦い方自体は変でも無いと思うから安心してくれ」

「……お前に言われてもなぁ」


 鬼畜ゲーのRTAをしてた変態の言うことは当てにはならない。たぶんコイツの普通は壁を走るとか枝から枝に飛び移るとかそういうレベルだと思う。


 そんなコイツが『普通』ではなく、『変ではない』という曖昧な表現これほど信じられない言葉が今まであっただろうか。


 と、そんな考えはすぐに正しかったと証明された。


「おい……お前、初見なんだよな?」

「おう。思ってたより弱かったな」


 目の前には光の粒子となって消え逝くファイティングビッグベアの姿と、ショートソードを片手に返り血・・・によって赤く染まった嶺二の姿が。

 やっぱりこいつも『惨殺者』の称号を持っていたのか……。これ持ってる人かなり多そうだな。まあそんな慣れ親しんだ称号はこの際どうでもいい。


「で? 何が変じゃないって?」

「いや、変ではなかっただろ? ちゃんと近付いてってショートソードで攻撃して倒した」


 うん、間違ってはいない。いないけれども、だ。


「普通は気づかれずに近づくことも、首を一発で断ち切ることも不可能だ!」

「……いや、それは【暗殺】スキルの補正があるから……」


 コイツは熊が視界に入ると同時に身を屈め、足音を立てずに熊の背後に回り込んだ。そして近くの木を使って三角飛び、高さを稼いだ上で首を刈り取った。


「その補正って、どっちだ? 気配を消した方か、首を刈り取った方か」

「ん? いや、首のほうだ。【暗殺】スキルの効果が気づかれる前に首に攻撃を当てると即死攻撃になるってやつで」

「……気配を消してたのは?」

「うーん……PSプレイヤースキル?」

「それってプレイヤースキルで補えるもんなのか?」

「そうなんだよな……もしかすると匂い遮断みたいな効果が暗殺者にはあるのかもな。まあ今は気にしなくていいだろ」


 いや、そんな適当に済ませていいもんなのか? どう考えても『やばい』部類の職業だろ……。


「……まあ、今に始まったことじゃねぇしな。とりあえず第二の街にいこうか。熊初めて倒したってことは、まだいってないだろ?」

「おう。そこってどんなとこだ?」

「うーん、基本アディエルと変わらない……と思う。そういやまだウルディア第二の街についてあんま知らねぇな」

「そうなのか? 莉奈に聞いたときは『とにかくすごい。行けばわかる』って言ってたんだよなぁ。わからねぇか?」


 ……何があった? あんまり印象に残ってないんだよなぁ。


「わからんな。もしかしたらなんか見逃してたのかも」

「そっかぁ。まー行けばわかるって言ってたし、さっさと行こうぜ。案内はあ頼んだ」

「案内って、別にこのまま直進してれば着くよ」


 そしてしばらくして街が見えてくる。


「あっ、そうそう。街に入るのにギルドカードがいると思うから先に実体化させといた方がいいぞ」

「ぎるどかーど?」

「……お前、アディエルで冒険者ギルド行ったか?」

「冒険者ギルド? そんなもんあったのか」

「行ってないのか……。まあヒントもなさそうだったし割とそういう人多そうだな。街には入れんのか?」

「行けばわかるだろ」


 そして門のところで案の定、身分証の提示を求められた。ないことを伝えると。


「異世界人の方ですよね? 仮の身分証を発行しますのでこちらへどうぞ。なお発行料がかかりますので、払えないようでしたらアディエルでギルドカードを貰ってから、もう一度来ていただくことになります」

「へえ。んじゃあ仮の身分証の発行頼みます。……発行料って1万ドネもしないよな?」

「安心してください。発行料は500ドネです。では、こちらへどうぞ。お連れの方は登録済みですよね。こちらで待たれますか?」

「いえ、大丈夫です。ナム、俺はこの街のギルドで待ってるから、終わったら来いよ」

「おう。りょーかい」


 嶺二と一旦分かれ、俺は第二の街のギルドへ来た。

 そういやここのギルドにくるのは初めてだな。……なんだこの大きさ。

 目の前に建っているのは5階建ての白い建物で、ギルドの看板が入り口に見えているため、ここが冒険者ギルドのはずだ。


 中に入ると目の前に広がっていたのは、アディエルのギルドと同じような受付と依頼版、それから休憩スペース。しかし、それはアディエルのそれより3倍の広さがあり、加えて上り階段と下り階段も確認できた。そして右側の壁には階毎の役割の振り分けが書いてあった。


 どうやら冒険者の入れるスペースは地下1階から地上3階まで。4階より上は職員の作業スペースらしい。地下一階は酒場で1階が基本的な依頼の発注、受注とギルドへの登録などなど。2階は大広間で、緊急時などに集まるらしいが、基本的に第二休憩室のようになっている。3階は指名依頼の発注、受注。

 たぶん一階くらいしか使うことはなさそうだな。


 とりあえず一階の休憩スペースの一つの椅子に腰を下ろし、嶺二を待つことにした……のだが。俺は急に声をかけられた。


「あの! もしかして血染めの弓使いさんじゃないですか!?」


 そう話しかけてきたのは背の低い、水色ショートヘアの可愛らしい女の子で……。


「あっ、いきなりごめんなさい! 僕はニアっていう名前でやってるんですけど、血染めの弓使いさんの動画をみて、すごいなって! それで今あなたの姿見かけて……」

「待て。一旦待ってくれ」

「あっ、すいません。つい興奮しちゃいました」

「まあ、一つ一つ聞かせてくれ。その『血染めの弓使い』っていうのは?」

「えっ? 掲示板で言われてますよね? 新型『特攻』のビルドをしている【血染めの弓使い】さんって」


 なんだその痛い二つ名は。……実夜に見せられた掲示板にあった名前と同じ、か。


「それで、なんでそれが俺だと? ってさっき動画って言ったか?」

「はい。掲示板に上がってる動画を見て……」


 なんだと……?実夜は昨日そんなこと一言も……。


「その、今朝上がった動画を見て、こんな動きしたいなって思って」

「……今朝上がった動画、か」


 昨日の時点ではまだ上がってなかったってことか。そういえばプライバシー設定に『カメラ撮影の許可』みたいな欄があったな。……何も考えず、許可にしていたかもしれない。


「で、その動画に映っていたのが俺だったわけか。なるほど、それでなんだって?」

「はい! 近距離弓使いのカッコよさに一目惚れしてしまして……。良ければでいいんですけど、戦い方を教えていただけませんか?」


 これはどう答えるべきなんだ? 戦い方って、何? ……そうだな。とりあえず、この子が見た動画を見せてもらうのが手っ取り早いか。……あと、急だったからつい砕けた口調になっていたが、基本は敬語だよな。


「……先に、ニアさんが見たっていう動画を見せてくれませんか?」

「はい! えっと、こ、これです!」


 そう言って開いたメニュー画面を可視化させ、こちらに渡してきた。……こんなことできたのか。

 その動画を再生すると、どこの場面かはすぐに分かった。


 ……ソロで初めて挑戦した時、だな。

 その動画の中の俺は、熊の攻撃をギリギリで躱し続け、隙を逃さず矢を射て倒す。距離が近く返り血をもろに浴びているが、それに全くひるむことなく、最後は矢で首を貫いてフィニッシュ。それはたしかに、はたから見ていると、全てがギリギリなのに、何故かとても余裕があるように感じた。

 動画のコメント欄にも『今のなんで躱せるの?』とか『返り血で怯まない……だと!?』とかいろいろあった。


 いや、このとき必死だったからな? 返り血は気にしてる余裕がなかっただけだからな?


 ……で、これを見て『戦い方を教えてほしい』と。頭おかしいのかな? とか一瞬考えてしまう。いやだって、動画見ただけだと俺って完全に戦闘狂かバトルマニアのやべーやつじゃん。……俺、そんなんじゃないよね?

 と、そんなことを黙って考えていると、ニアさんに声を掛けられた。


「……あ、あの?」

「ああ、すいません。ありがとうございます」


 そう言って画面を返しながら、ここで返すべき返事を考えた。


「それで……どうでしょうか?」

「……ああ、はい。とりあえず、考えさせてもらえませんか? ほら、今は人待っててそんなに時間もありませんし」


 ひとまず逃げることを選んだよ……。あとで考えれば、いいよね……?


「はい! お返事待ってますね! で、では、連絡を取れるようにフレンド登録をお願いしても……?」

「え、ええ。もちろんです」

「……っ!! ありがとうございます!!」


 こうしてまた一つ、考えないといけないことができてしまった。

 そのすぐあと、嶺二から『悪い、急に莉奈に呼ばれたから落ちる』というフレチャをもらい、ちょうどお昼時だったため、すぐにダイブアウト。


 とりあえず、あの子になんて返事するかは考えないとな。

 そんなことを思いながら、一人でうどんをすすった。


 ……うん、美味しい。

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