第12話:生産職のフレンド
「そうそう、先輩。結局『教会の手伝い』のクエストはクリアして無いんですよね? なら私も行きましょうか?」
家に戻って早々に実夜が言った。
「えっ、でもいいのか? もうお前はクリアしてるんだろ?」
「あのクエストは何回でもできた筈ですし、5回までは違った報酬が貰えるんですよ〜。それに第3の街に着くまではレベリングと金策くらいしかやることありませんからねー」
「そういえばNDOはストーリークエストって無いのか? MMOってそういうのがあるもんだと思ってたんだが」
「一応、ワールドクエストがあるみたいですよ? というか、それのオープニングみたいな演出がβ版の最終日にあったので……っと、そういえば第3の街のイベントってもしかしたらそれかもですね」
ああ、第3の街に一定数人が集まったらやるとか言ってたな。
「じゃあ今はゲームに慣れるための期間みたいなもんか」
「ですね。たぶん今の人数からして、サービス開始から一週間たつ、今週の金曜か土曜日あたりになるんじゃ無いですかね?」
「まぁそれくらいだろうな……」
「では、ダイブインしたら
「おう、了解」
今朝はギルドを出てすぐに落ちていたため、開始地点が合流地点と。
「あれ、先輩早くないですか?」
「ちょうどここで落ちてたんだよ」
「そうでしたか。ではでは、さっさとクエスト受けて向かいましょう!」
そしてクエストを受けて、教会でシスターにその依頼について説明を受けた。
「ーーーそれでは、よろしくお願いしますね」
内容は、教会で預かっている子供達の衣服、シーツの洗濯。そのため、始める前に【洗濯】スキルをもらった……のだが、俺は重大なことを忘れていた。
【洗濯】
種別:常時発動技能
生活魔法アーツ『クリーンヒール』のアンロック
つまりどういうことか。
「……すいません。俺、アーツが使えないんです」
「「えっ? どういうことですか?」」
一通り説明した。すると。
「えー……っと、どうしましょうか」
「先ぱ……じゃなくてルア君! そういう大事なことはもっと早く言ってくださいよ!」
「返す言葉をございません」
「で、でしたら! スキルが必要ない、子供達の相手を頼みましょうか」
「ありがとうございます」
スキルが無いなら素手で洗えってなるかと思ったが、仕事内容を変更してくれた。このシスターの子優しい。
そしてなんとかクエストを終え、ギルドで報酬を受け取り、ひとまずギルドの休憩スペースに腰を下ろした。
「それで、先輩の報酬って使えるスキルも手に入らなかったってことは、ただ若干のお金が手に入っただけでしたか?」
そう、このクエストは手に入れられるスキルが報酬の一部となっているため、それを抜いた報酬は少々のお金だけ。
そしてもちろん、内容が変更になったからといって報酬が変わることは当然無かった。
「じゃあ受ける意味ほとんどなかったわけですか」
「……まあそうなるな。そのうち称号に修正でも入ってくれたら良いんだけど。それでお前は何貰ったんだ?」
「私は【湯沸かし】ですね。生活魔法アーツの『熱湯』が使えるようになるやつです」
「へぇ……その生活魔法アーツって【生活魔法】スキルで覚えるアーツってことか?」
「そうですよー。【生活魔法】の取得方法は不明ですから、『教会の手伝い』が一般的って感じです」
なるほど……それにしても【生活魔法】にアーツがあるってことは区分としては戦闘スキルか。少し引っかかるがまあいいか。
「それで、何します? もう第三の街に向かってみましょうか」
「第三の街って何レベルくらい必要なんだ?」
「えーと、たしか道中の雑魚モブのレベルが10〜13くらいで、蜘蛛のレベルが18だったと思います」
「蜘蛛?」
「あっ、ボスのことです。ジェナイパーって名前なんですけど、見た目がまるっきり蜘蛛で。男女問わずこいつと戦う時だけは視覚設定を『リアル』から変更するって人多いんですよね」
へぇ……虫全般が苦手な俺はまともに戦える気がしない。いや、そもそも。
「雑魚のレベルが10からだと、まだキツそうだな」
「まぁそうですよね。森で熊倒したときにたしかレベル7でしたから、レベリングを少ししてたとしてもレベル14くらい、クエストとか解体とかのこと考えると……ズバリ!先輩のレベルは11ですね?」
「いや、まだ10だよ。……まぁそれはともかく、無理そうだろ?」
「ですねぇ……次のボス戦は洞窟の中ですから、弓で死角からってのも難しいですし」
そう言いながらどこに行こうかと話していると、見覚えのある人がギルドに入ってきて、同時に実夜がその人に話しかけた。
「あっ! スイちゃん?」
「えっ? ってヤミさん! お久しぶりです。……ってあれ、そちらの方は……?」
「ああうん。この人はルア君。ビギナーズラックで色々やらかしちゃってるかわいそうな人とでも思っといて!」
「おい、へんな紹介すんなよ……。こんにちは、ヒスイさん」
つい昨日クエストで一緒になったヒスイさん。……そういえばβ版ではそこそこ有名だったって言ってたし、実夜と面識があっても不思議じゃないのか。
「ヤミさんとルアさんって知り合いだったんですか! 初心者と言っていたので……っと、もしやβ版からやってる知り合いって?」
「ああはい。ヤミのことです」
「えっ? せん……ルア君とスイちゃんって何で会ったの? スイちゃんもうお店開いてた?」
「いえ、お店はまだ……。ルアさんとは昨日クエストで一緒になったんですよ」
「昨日って……ああ!! 巫女見習いってスイちゃんだったの!?」
「聞いてたんですね。そういうことです。とりあえずフレンド登録しましょうか」
「あっ、うん。……っとこれでおけ! ルア君とはした?」
「はい。昨日しましたよ。……少し、頼みごとがあったので」
少し視線をそらし、はみかみながらそう言い。
「頼みごと?」
「ほら、ヤミさんなら知ってますよね? 洞窟のフィールドボスのこと」
「なるほど。アレをルア君に倒してもらえばそのまま手に入るかもってことですか!」
「ですです。 まぁアレのレベルは40だったと思うので、先のことですけどね」
そんなに高かったのか。まだ無理だとは聞いてたがそこまでとは……。
「ところでヤミさんとルアさんは装備とかどんな感じです?」
「私は見ての通り、熊さんの泥品の服と、鍛冶屋産のラビットブーツ。弓は初期装備だね」
「俺は初期装備だけだな。ところで、泥品はドロップ品ってことだろ? 鍛冶屋産っていうのは?」
「NPCがやってる鍛冶屋で作ってもらったやつってことです。素材とお金を持っていけば作ってもらえるので、プレイヤー産の装備が充実しない序盤には重宝するんですよ。それでスイちゃんがそれを聞いてきたってことは……?」
するとヒスイさんはニコッと笑って。
「はい。先ほど【細工】と【裁縫】のレベルが上がりまして、そこそこ売れる服と靴ができたので。良ければ買いませんか? 素材を持ってきてくれるなら安くしますよ?」
「おお! さすがスイちゃんは早いね!」
「ある程度やることを決めてましたからね」
そういえばヒスイさんは生産職だと言ってたな。
「ああ、前にお前が言ってた生産職のフレンドってヒスイさんのことだったのか」
「そうですよ~。で、スイちゃん。ちなみにできる付与って今どんな感じなの?」
ん? 付与?
「はい。今できる最大付与はステータス±2の付与だけですね。属性を付与できるほどの装備品もまだ手に入っていませんし。なのでヤミさんにはAGI+2がおすすめですね。一応INT-2をいれてSTRかDEXの+1を入れてもいいんですが、まだ確定付与はできないので、お値段が少し張っちゃいます」
「うーん、ならAGI+2だけでいいかな。値段ってどれくらいになる?」
「えーと、定価が服が28,000
「本当!? 買う買う! 先輩はどうします?」
昨日今日のクエストのおかげでお金は足りてるし、序盤とはいえMMOの装備としては破格だろう。
「もちろん買わせてもらいます」
「お買い上げありがとうございます!とりあえず必要な素材は今日中にまとめて
「ああ、わかった」
「それと……ヤミさんもう少し気を付けた方がいいんじゃないですか? 気にしてないならいいですけど」
ああ、うん。それは思った。いや、俺は気にしないからいいんだけど。
「えっ? 何が?」
「さっき、ルアさんのこと先輩って呼んでましたよ? それまで君付けだったことを考えると……まぁ、詮索はしませんけどね」
「嘘っ!? 先輩……じゃなくてルア君、すいません! 」
「リアルネームさえ出さなければ気にしなくていいよ」
「ほんとです? ならお言葉に甘えて先輩って呼ばせてもらいます!」
実夜はそう言ってウインクした。可愛いとは思うが、顔には出さない。
「では私はそろそろ用事があるので失礼しますね。なにかほしいものがありましたら、是非お声をかけてください。それでは」
ぺこりと軽くお辞儀をしてギルドの受付の方へ去っていった。
「にしてもさすがのスイちゃんですね。私も一応そこそこ頑張ってはいたんですがね……っと、いい感じに時間経ちましたね」
「ん? ああ、もう4時半か。じゃあ俺は夕飯作ってくるから。5時半くらいにできると思うから、そしたら来いよ」
「あっ、私も手伝いますよ!」
「えっ、お前がそんなこと言うなんて……雷でも落ちるんじゃないか?」
「ひどくないですか? さすがにお泊りさせてもらってる以上……少しはお手伝いしますよ?」
「……別に気にしなくてもいいぞ?」
「私が気にするんですよ」
「お前なのにか?」
「私だからですよ」
まあ、手伝ってくれるのは正直ありがたいから、ここは手伝ってもらうことにしよう。
「ならお願いするよ。じゃあ、落ちるな」
「はーい! 私もすぐ落ちますね」
「それでは、私は何をすればいいですか? 先輩?」
「それなんだが、なんかカレーにあうおかず、知ってたら作ってくれないか? カレーなら一人でも問題ないし、どうせならお前の料理も食ってみたいしな」
「先輩が私の手料理をどうしても食べたいと! いやぁ、仕方ないですねぇ。……とは言ってもそんな作れるものもないんですけど。そうですね……少し冷蔵庫を見せてくださいねーっと。うーん……ではシーザーサラダでも作ってみますね」
「おう、頼むわ。ってかお前冷蔵庫の中見てさっと作れる料理思いつくのか……女子力高いな」
「そうです? まぁ小学生の頃は私とりつねぇが交代で夕飯作ってましたから、そのおかげでしょうね」
そんなことを話しつつ料理へ入る。
「野菜切り終わりましたよ~」
「おお、ありがとう」
「いえ、これくらいは。サラダならご飯が炊ける10分前に作り始めれば間に合いますから」
思っていた以上に実夜が手伝ってくれた。いや、仕事量的に俺の方が手伝ってる感じになってる。
「さて、サラダ盛り付けましたよ~」
「ああ、こっちもできた。ご飯も炊き立てだ」
「ふふっ、なんか新婚さんみたいな会話じゃないですか?」
「ははっ、たしかにな」
「……」
「……」
言ってから恥ずかしくなるのはダメだろ……。つられてこっちまで恥ずかしくなってきた。
「ま、まぁ、食べましょうか」
「そ、そうだな。っと、カレーはチーズとか乗せるか? 俺は目玉焼きとチーズをのせるつもりだが」
「あっ、なら私も両方お願いします!」
「りょーかい」
「それでは」
「「いただきます」」
まずはサラダから。レタス、トマト、ベーコンの三種にドレッシングがかかり、上に温泉卵が乗っている。ベーコンとトマトをレタスでくるみ、ドレッシングにしっかりつけて頬張る。ドレッシングはマヨネーズベースで、少しニンニクが少し効いており、野菜とベーコンによく合って。単純に美味かった。
「んん~。美味しいです。やっぱりカレーは豚肉ですね!」
「それならよかった。お前のシーザーサラダも美味いな」
「ほんとです? ならいいんですけど。本当は小松菜がよくドレッシングに絡んで、私は好きなんですけど、今日はなかったのでレタスにしました」
「へぇ……、たしかに小松菜でも美味そうだな。また今度、小松菜があるときに作ってくれないか?」
「いいですよ~。でも、先輩もなんか作ってくださいね!」
「ああ。希望に添えるように頑張るよ」
そろそろ新しいメニューにてを出してもいいかもな。と、スプーンを口に運びながら思った。
「「ごちそうさまでした!」」
食べ終えたら皿洗いだが。
「皿洗いは俺がやるよ」
「んー久しぶりの料理で疲れちゃったので、お言葉に甘えて先輩にお願いします。ではその間にお風呂先もらいますね」
「ああ。お湯沸かすか?」
「うーん、今日はシャワーだけでいいですよ」
「そうか? 遠慮はすんなよ?」
「はーい!」
そして、お皿を洗い終わったころ。
「お風呂空きましたよ~」
寝巻き姿で髪をタオルで拭きながら言いに来た。
「おう。了解」
「あっ、先輩今日は寝る前にNDOします?」
「うーん、今日は疲れのせいか眠いからインはしないかな。実夜はべつにインしていいけど、あんまり夜更かしはするなよ?」
「わかってますって。では私はNDOにインしますので! 襲わないでくださいね!」
「当たり前だ」
そして俺が着替えとタオルを持って風呂場に行くと、少しばかり問題が発生した。
「実夜……隠すことくらい忘れるなよ……」
下着等は直接洗濯機に入れるシステムなのだが、ドラム缶型の洗濯機であるため、意識して隠そうとしないと丸見えになってしまう。まぁどうせ洗濯物を干すときに見ることにはなるんだが、使用前後でその意味は変わってくる。
「……俺は何も見なかった」
そういうことにした。幸いこの事実を知っているのは俺一人。俺が気づかなかったのなら何も問題は発生しない。
ということで風呂に入りシャワーを浴びる。このひと時は本当にリラックスできる、俺の大好きな時間だ。まあそのおかげでシャワーだけなのにかなり時間が過ぎてしまうんだが。
と、そんなひと時に少し浴室の外から物音がした。……実夜が気づいて戻ってきたのか? うん。今確かにドアの前から実夜の「にゃあああああああ 私の馬鹿ああああああああ」という声が聞こえた。……まぁあの様子ならわざわざ話題にすることもないだろうから、いいか。
面倒そうなことは考えないに限る。ドアの前から実夜の気配が完全に消えてから風呂を出て着替えた。それから歯を磨いて部屋へ行くと、すでに部屋の明かりは暗めのものになっていて、実夜は自分の布団でヘッドギアを被り横になっていた。
「……こいつって、やっぱり可愛いんだよな」
ふと、実夜をみて呟いていた。寝巻きを着て一定のリズムで呼吸する姿は、たしかに美少女のそれで。
「……ふっ、俺は何を言ってんだろうな。アホらし」
自分で自分を鼻で笑ってしまう。それから、自分の布団にもぐりこみ、眠りについた。
布団にもぐりこむ直前、ヘッドギアを付けた実夜の頬が少し赤く染まっていた気がしたが……それも、考えないことにした。
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