後輩と一緒にVRMMO!~弓使いとして精一杯楽しむわ~
てる
第一章
第1話:キャラメイク
まだかなー。まだかなー。
俺は今、自室でそわそわしながらその時を待っていた。そして……。
ピンポーン
「宅配便でーす」
きたああああああああ待ってましたああああああ!!!!
「はーーい!少々お待ちくださーい」
返事をしながら玄関へ駆けた。
そして程なくして荷物を受け取る。それは大きな段ボールと小さな段ボールの二つ。
大きい方の中身はVR専用ハードである"FUTURO"正しい発音はフトゥーロだそうだが、通称"フツロ"。小さい方はそのフツロ専用ソフトであり、明日から正式オープンするVRMMO "Never Dream Online" 、初のVRMMOであるそれは普通、NDOやネバドリと略される。因みに俺はNDO派だ。
世界初の五感完全没入型VRゲームハードであるフツロは一昨年に発売されてから瞬く間に世界中に広まり、二年経つ今でもその人気は衰える気配を全く感じさせない。
その分野は幅広く、ギャルゲーや格ゲーは勿論、RPGや音ゲーなど多岐に渡り、そのどれもが「まるで現実世界で夢を見ているようだ」と言わしめる程の完成度を誇っている。
そして二年間全く発売されなかったジャンル。それがMMO RPG。開発自体は様々な企業によって行われてきたが、そのどれもが余りの処理の多さとシステム制御の困難さに匙を投げた。
しかし遂に、ある日本の企業が開発に成功した。それが今回購入したVRMMOであるNDOだ。
『夢見る者達にもう一つの
そんなキャッチコピーと共に発表され、去年の秋から冬にかけて行われたβ版は、世界中の運の良かった三千人がプレイし、大きなバグも無く終えたそのレビューでは大絶賛の嵐が巻き起こった。
曰く、リアルじゃないのにリアルだった。
曰く、夢を見ているようだった。
世界中でそんな評価をされたVRMMOはそう簡単に手に入るものでは無かった。懸賞に応募したり、ネットで予約開始10分前からスタンばったり、予約開始と同時にPCがフリーズした時は泣こうかと思った。
しかし、俺は手に入れることができた。
あとで懸賞の応募に協力してくれた人達に改めてお礼を言っておこうと思いながら、二つの段ボールを自室に運ぶ。
「さてさて、それではお披露目ー!!」
そしてすぐにでもできるような状態まで持っていく。
たしかサービス開始は明日からだったけど、インターネットに繋げばキャラ作成だけはできた筈だよな。
そう思いながらヘッドホンに液晶をくっつけた様な形のフツロを被り、布団に転がる。
「そんじゃあ早速!《ダイブイン》!!」
☆★☆★☆★☆
「起きて下さい!起きて下さい!」
そんな声が聞こえてきた。
「んんっ……おっ」
気がつくと俺はまさしくバーチャルらしい部屋の中で横になっていた。
ああ、そういえばインの時と同じ格好で始まるとか聞いたな。たしか上下の感覚が曖昧になるからとかなんとか。
……まあ問題ねぇか。それよりも、と起き上がって横を見ると此方を向いて姿勢良く立つ一人の女の子の姿があった。
「それで、君は……?」
「はい。私はNDOの案内及びキャラメイク担当のAIです。これからキャラメイクについての説明をさせて頂きます。よろしいでしょうか?」
「あ、ああ。よろしく頼む」
いや、マジでAIなのか?というか本当にここVR世界か?いや、自分の体が若干アニメっぽくなってるのは分かるんだが……。目の前のAIの胸部の膨らみとその揺れがリアルすぎる。これがギャルゲーで培ったグラフィックか……。
彼女はそんな俺の考えを全く無視して話を進める。
「ではまず、年齢、誕生日、リアルネーム、キャラクターネームですね。キャラクターネームは普段から頭上に表示されます。また、同名のプレイヤーがいる場合は設定できません」
「年齢は十六、誕生日は六月二日。リアルネームは
そう言いながら表示されたウィンドウに入力していく。因みに基本は音声入力なのだが、この精度がかなり高い。どうやら思考と音声を同時に読み取っているらしく、今も『ルア』という発音なのに『Lua』と表示された。
何この謎技術……便利過ぎるだろ……。
あと、リアルネームが女子みたいという苦情は受け付けない。せめて同じナツキでも那月とかならまだ良いと思うんだが、親曰く男女どちらでも通用する名前を事前に決めておいたとかなんとか。……愚痴を言っても仕方ねぇか。
「プレイヤーネーム"Lua"で検索中――はい。同名のプレイヤーは見つかりませんでしたので、問題ありません。 "Lua" で登録しますか?」
「頼む」
「はい。登録が完了致しました。続いて初期スキルの選択に移ります」
そして目の前に新たなウィンドウが現れた。
「そこで初期に取れるスキル全三百種類が見られます。横にあるタブで戦闘、生産、その他と切り替えられて、選べるスキルは全部で十種類のみ。
また、このスキル構成によって始めの"ジョブ"が決定します。これ以降、ジョブは装備できる十種類のアクティブスキルによって変化します」
ジョブというのは剣士や魔術師をはじめとし、様々な種類がある。そしてそれぞれによってステータスの補正が変わってくる。例えば魔術師だとSTRが二割減、INTが二割増の様に補正がかかる。
まあ俺はスキル構成に関しては取りたくなったものを取る感じだ。まだ何も考えていない。
「とりあえず『鑑定』は安定として、必須になりそうな『暗視』と……」
そして一時間近くかけて十種類に絞った。いや、本当に面白そうなスキル多いなぁ。
まず戦闘スキルだが、とりあえず主な武器は弓にしようと思う。弓でソロってなんか浪漫を感じないか?というのが弓を選んだ理由だったりする。そうなると近距離も対応できて……回復も欲しいか?
【弓 Lv1】
【拳 Lv1】
【足捌き Lv1】
【立体移動 Lv1】
【風魔法 Lv1】
ってことでこの五種類。【弓】は弓使いだから当然として、【拳】と【足捌き】は近距離に対応するため。【立体移動】は弓で木の上から射抜いたりする時にあると便利そうだからだ。【風魔法】はただの予防線だ。
以前やったMMOでは初めに魔法系統のスキルを取っていないと『それ以降一切魔法スキルを取得できない』という鬼畜仕様だった。あのゲームを経験してからなるべく多くの種類を初めは取得するよう心掛けている。
じゃあ何故特に【風魔法】なのかというと、弓に関係ありそうな属性がこれだけだったからだな。
次に生産だが、これは非常に迷った。散々迷った結果【鍛治】と【裁縫】は諦めて……。
【料理 Lv1】
【調合 Lv1】
【料理】はリアルで得意だが、好きに作ろうとすると無駄に金が掛かってしまうということで、VRでも作ることにした。【調合】は回復手段である回復薬?みたいなのを作れると思ったからだ。
で、残りの三つがその他スキルであるわけだが、こちらは無難に収まった。
【鑑定 Lv1】
【暗視 Lv1】
【解体 Lv1】
【鑑定】と【暗視】は当然として、【解体】があった方が肉とか多く取れるかな?と思ったからだ。
……正直『罠』とか『釣り』とか『舞踏』とか色々面白そうなスキルあって迷ったんだけどね。……まあとりあえずこんなところでいいだろう。
「決まりましたね。ジョブ検索中――はい。貴方のジョブは……弓闘士となります。続いて初期ステータスポイントの割り振りに移ります」
そしてまたウィンドウが切り替わる。
「ステータスはSTR、VIT、INT、MIND、AGI、DEXの計六つです」
STRは筋力、VITは恐らく防御力、INTは知能でMINDは精神、AGIが俊敏さでDEXが器用さといったところだろう。
「なお、HPは主にVIT及びSTRの値、MPはMIND及びINTの値で変動します。それではステータスポイント《SP》を割り振って下さい。初期SPは25ptです」
そう言われてまた新たに開かれたウィンドウを見る
STR……1pt
VIT……1pt
INT……1pt
MIND……1pt
AGI……1pt
DEX……1pt
《残りSP……25pt》
と、表示されていた。とりあえずDEXが無いと弓は当たらんだろ。それと攻撃力がSTRで、近距離に反応できるAGIも必要か。
STR……10pt
VIT……1pt
INT……1pt
MIND……1pt
AGI……8pt
DEX……10pt
《残りSP……0pt》
……紙防御ではあるが、HPはSTRでも上がるようなのでいいだろう。まあ遠くから射抜くし、近くに行っても避けるから問題無い。
「これでよろしいですか? ――はい。ステータス設定が完了しました。
SPはレベルが上がる毎に基本2ptずつ手に入ります。ただし1の位に5のつくレベルでは5pt、10の倍数のレベルでは10ptになります。参考までに」
へぇ、Lv10まで上げるとそれだけで合計……えーっと、29pt?手に入る訳か。思ってたより多いな。
「では続いてキャラクターの外見を作ります。弓闘士ですので、ウィンドウに弓を持ったあなたの姿が映ります。
変更したい部分をタッチすることで色や細かい触感などを設定できます」
おっ、出てきた。本当に現実世界の自分の姿が映るんだな。とりあえず髪の色と目の色は濃い赤で……って眼球の影の色まで設定できるのか……色々とやばいな。
ついでに言うと髪の性質(癖っ毛やストレートなど)や長さなども変更できた。……どこに本気出してるんだよ。
……っとこんなもんで良いかな。
細かいところはだいぶ変更したけど、顔のパーツや背丈、体重などはいじれなかった。
リアルで顔バレは実際にあった人も数人はいたらしいが、リアルとVR世界の顔の記憶はそう簡単に繋がらないようになっているらしく殆ど聞かない。
……まあ完成度滅茶苦茶高いことはキャラメイクだけでも十分分かったから顔バレ覚悟でもやるんですけどね。
「キャラメイクが完了しました。サービス開始まであと二十七時間十四分です。ダイブアウトしますか?」
「じゃあダイブアウトしまーす」
「はい。左上のメニューマークに意識を向けるとメニューが開きます。その中の一番下の段にあるダイブアウトを押して下さい。セーフティエリアでないとダイブアウトはできませんのでご注意下さい。セーフティエリア以外で強制ダイブアウトした場合、アバターがその場に残り、モンスターmobにキルされることがあります」
言われた通りにすると《ダイブアウトに移ります》という画面が開かれ、場所が変わり《台の上に横になって下さい》というシステムウィンドウが表示された。
どうやらダイブアウトする時もリアルと同じように寝ないといけないようで、『その為の部屋』という感じだろう。
そして台の上に横になると、徐々に意識が戻ってくる様な変な感覚があり、目を開けるとダイブインした自室の布団の上だった。
「……VRってすげぇ」
サービス開始は七月十六日。つまりは明日、金曜の午後八時から。……金曜の夜からって、寝かせる気ねぇな?
とりあえず明日までは学校もあるため、今日は早めに寝た。
そして翌日、俺は高校で終業式を終え、午後の補修を乗り切ってから帰宅する。中学より早く夏休みが来る高校生って得だよなぁ。
家に着くとすぐに夕飯と風呂、ついでに歯磨きも済ませてフツロをセッティングする。あとはフツロを被って横になるだけの状態だ。
やっぱり一人暮らしだと夕飯を早めに済ませられるのが利点だな。
父親は俺が子供の頃に心臓発作で亡くなって、今は母しかいないが、それも殆ど海外出張で家には帰ってこない。
そのため、基本一人暮らしで家事も自分で行なっている。
中学に入る前からこの生活のため、家事はかなり得意になった。
話を戻そう。とにかく準備を全てを終わらせた。そして時計に目をやるとそれの示す時刻は五時四十分。サービス開始までまだ二時間以上あった。
うん。流石に早過ぎたね。
ということで、久し振りに誰かに連絡取って話そうかと万能連絡ツール"
こういう暇なときに連絡できる間柄の人なんてなぁ……っとアイツでいいや。
そう思い"みやっち"とのトークを開き
『今ちょっと話せるー?」
と打ち込むと、速攻で。
『可愛い後輩ちゃんに何かご用ですかぁ? (・∀・)ニヤニヤ』
と返ってきた。とりあえずCIRCLE電話を掛ける。
prprprprと呼び出し音が鳴り、それはすぐに声に変わる。
「はいはい!呼ばれて飛び出てジャジャジャジャーン!ということで、何の用ですか先輩。可愛い可愛い私の声が聞きたくなっちゃったんですかぁ?変態ですねっ!」
コイツは俺が中学の頃の同じ部活の後輩だった
「はいはい、そういうのはいいから。お前ゲーム好きだったろ? お前もVRMMOやるのかと思ってな」
「ええ勿論ですとも! というか私、β版勢ですよ?ほら、去年の秋から冬。殆ど先輩で遊ばなかった時期あったじゃないですかぁ」
「あっ、そういう理由だったの? てっきり受験シーズンであることを流石のお前も意識してるのかと思ってたわ」
「えっ? ……あー、じゃあその理由採用で! はい。私は受験シーズンにあった先輩を思いやっていました! 私優しいっ!」
「……えぇ。まあいいや。とりあえずお前もやるんだな? じゃあフレンド登録してくれないか? 俺はまだ何も知らないし色々教えてくれ」
「おおっ! つまり私が先輩ということですね! 任せて下さい。とりあえずダイブインしてから真っ直ぐ進むと噴水広場があるのでそこで待ち合わせしましょ!」
「ああ、了解だ。因みにアバターってどんくらい弄った?」
「おやおやぁ? もしや私の可憐な姿を久しぶりに見られると楽しみにしてるんですかぁ? いやぁ、そう言われると照れますねぇ」
「お前ほんと楽しそうだな……。ただ見れば分かるかと思っただけだよ」
「あーたぶん大丈夫です。あとついでに言っておくと、向こうでは私のこと
「ああ、分かった。じゃあ俺も
「あーはい。了解ですー。……あっ! なら私のこと先輩って呼んでくれていいですよ? ゲームの中じゃ先輩なんで!」
「悪いがお前を先輩呼びはあり得ないな。とりあえず敬いたくない」
「えー、酷くないですか? 一応これでも成績優秀の美少女なんですけど」
「あーはいはい。ソウデスネー」
「じゃあ私はまだ夕飯食べてないので切りますね! ではまたっ! 今度は
「おう。またなー」
そう言ってCIRCLE電話が切れる。
うーん。まだまだ時間あるなぁ。NDOの掲示板でも覗いとくかぁ。
そうして掲示板を覗いたりホームページを見たり、少し漫画を読んだりしてサービス開始まで時間を潰した。
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