虚勢から始まる異世界転生

高崎ナル

第1話



第1話 始まりの日









キーッ…

ドン!


グシャッ!!





どこかで硬い何かが柔らかいなにかを突き飛ばし、そして潰す音がした。


そして謎の浮遊感。



ーーあれ?俺は今何してんだ?


今日は高校の卒業式で、今は終わって一時帰宅中。その後の打ち上げに心踊らせながら横断歩道を渡っているとこ、のはずだ。


「それにしてもこの状況はと。」


そう言った彼の体は空を浮いているのだ。


「オ○ム真理教に入って空中浮遊覚えた記憶はねぇし、サ○ヤ人になった覚えもねぇ。」


そう言った途端。ズキンといった感じの痛みを感じる。途端、思い出された記憶は今の状況を説明してくれるものだった。


....あーあ。

ーー車に跳ねられちまったのか。


もっとこう、泣きわめくとかするのかなって思ってたが、自分でもすんなり受け入られたのが不思議に思えた。


「となると。この辺か。」


彼の眼科には辛うじて限界を留めているが自分とは思いたくない。分かりづらい自分が血だまりの中で横たわっていた。目の前には事故の原因となった白いトラックが返り血でなんともまぁホラーな仕上がりになっている。周りにはすでに警官が到着していて現場の交通誘導をしている。



「なんかあれだな。こう現実突きつけられると案外死んだって受け入られるもんだな。」



この状況を見れば誰がどうであれ死を受け入れるだろう。



「ともあれ、今ある情報を集めれるだけ集めてと。」



車に跳ねられた。目の前には自分の死体。死んでることには間違い無いのだが。



「今の状況をって考えると...今の俺ってまさか幽霊?!」



ーーーまさかまさかまさかっ、幽霊とか本や画面の中だけの話じゃなかったのかよ…



情報を整理し、幽霊であるという答えを出した上で彼は出した結論の証明を始めた。まず、手始めに、



「幽霊ってことは空飛んだり?」と言ってみる。



すると飛んだり。と言った瞬間、謎の浮遊感の正体がはっきりした。これで結論の証明は完了。正真正銘、彼は幽霊となったのである。



「おお!すげぇ!本当に幽霊だな!」



くるくるとバク宙を足をつけずに何回もやってみる。



「幽霊。幽霊となると?やることは1つじゃねぇか?」



彼は死んでしまったことなど今更どうでもいいと言いたげな顔をして走りだした。いや、高速で飛行した。目的の秘密の花園。高校の女子更衣室を目指して。



「まだギリギリ!着替えの時間に間に合う!今度こそ!あの委員長の暴力的なムチムチボディ!眼福に預かってやるぜ!」



しかし。五分ほど飛行したのち、フッと体の力が抜けるのがわかった。体が前に行けないのだ、辛うじて後ろに戻ると体は動いた、浮遊も成功、もう一度試してみても結果は変わらなかった。



「これってまさか、幽霊は幽霊でも地縛霊ってやつ??」



彼はがっくりと肩を下ろし、絶望にくれながら歩いてて戻った。


「地縛霊ってねーよ。ナンセンスだよ。不自由じゃねーかよ」


ぶつくさ文句を垂れているうちに事故現場まで戻ってきていた。すると、周りには野次馬も集まっていて


「やべえよ。グロすぎww」

「ねぇこれってヤバくない?」

「ガチヤバなんですけどw」


と、老若男女が言いたい放題。


ーーーうるせぇな。あんまり俺の死体で遊ぶなよ。


いい気はしねぇな。そう思った瞬間、1人の少女が俺の死体めがけて飛び出してきた。


「あ…」


思わず声が出た。飛び出したその少女は彼にとって、

彼は少女にとって大切な人。すなわち彼女であった。

栗色の髪を肩口で切りそろえ、笑うとなんとも幸せな気分になってしまう。そんな笑顔が素敵な子だった。


「なんで?なんで?こんなことになっちゃったの?帰ってきてよっ帰ってきてっ…。」


彼女は警官の制止をよそに、かつて彼であった物に対し泣きじゃくりながら叱りつけるように言葉を投げつける。その顔に好きだった笑顔のカケラも宿やずに。


「悠莉っ。」


途端彼の目からは涙が溢れだした。彼女の悠莉にはもちろん。両親や、悪さをやる時もなにをするにも一緒だった親友のレオ。

自分は与えてもらうだけでなに1つしてあげることが出来ていなかったように感じる。


「ごめん。ごめんなぁ。もっと悠莉。お前と居たかった。」


血で汚れた自分の死体をまるで世界で一番大事なものを抱くように抱く悠莉を実体はないが精一杯の想いを込めて抱いた。


しかし、


「うっ…痛ぇ!!なんっだこれっ。」


次の瞬間。激しい頭痛と悪寒に襲われた。

こらえきれず、出るはずのないものを出すために彼はえずく。



「っつ…この体、肉体的苦痛はない代わりになにやら頭痛が多いな…」



ーーーーーーーけて。



イツキの頭の中で重く怠そうな声が響く。



「ん?今、声が聞こえたような」




ーーーーすけてーーたすけてーー



今度の声は弾むように軽やかに。どことなく悠莉の声に似ていた。



ーーたすーてーーーたすけーーーたすけてー



そして声が重なる



ーーーわたしを。たすけてーーー




その瞬間意識は完全に失われた。


順風満帆だった17歳 ナツカワ イツキの異世界転生が始まった。



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