第84話 瑠奈&クリストフside



玄也とルミナ。クリストフのファントム陣営と、浅枝時緒と逢前響の異能力者狩りによる交戦状態が、衝撃音と共に数十分に渡り続いている。そして異能力を持っている以外は、一般人同然の瑠奈は少し離れた場所で、そんな彼らのぶつかり合いを見守っていた。


「風の異能力者の力ってのはその程度か?」

「こいつ···」


玄也とルミナは二人がかりで、過去に数多くの異能力者を葬って来た浅枝時緒と交戦。ルミナが風の能力を使い時緒とぶつかる玄也を後方で援護している。しかし寸での所で襲い来る複数の風の刃を避ける、時緒の反応速度には目を見張るものがあった。


「この前と同じか。相変わらず戦法が力押し、だなっ!」

「うるさい! あんたに言われたくないね!」


三人が尚も苛烈な戦闘を行っている、少し離れた場所でクリストフと響が交戦状態に入っている。クリストフ自身が戦闘向きの異能力を持ってないが為、純粋に武器同士のぶつかり合いになっていた。筋力は互角と思われるのか鍔迫り合いは拮抗している。


「これはどうかな!」

「!」


時緒と交戦している玄也の手のひらの前に顕現した輪っか。ルシオラに助けられた時に見たものと同じ光輪(ハイロゥ)だ。強大な念動力を持つサイキッカーなら、ハイロゥを顕現出来て当たり前。異能力者でも熟練した者ならばハイロゥを顕現出来る。以前茉莉がハイロゥを瑠奈や琳の前で顕現させ、使っているのを見たことがあった。玄也が笑みを浮かべたと同時に、ハイロゥから念動力の衝撃波が放たれる。



「ぐぅっ!」


「時緒!」

「余所見してる暇ないよ!」



念動波で吹き飛ばされた壁へと叩きつけられた時緒へ、クリストフと交戦していた響の視線が時緒の方へ向かう。響の目線が時緒へ向かった隙を突いてクリストフが攻撃を仕掛ける。しかし響の反応は早く持っている棒で、トンファーからの追撃を防ぐ。壁へ叩きつけられた時緒は意識こそ失わなかったが、打ち付けられた衝撃で立ち眩みを起こしており、体制を整えるのに時間が掛かっていた。時緒の体制を立て直させまいと、ルミナの風の刃が複数連続立て続けに襲いかかる。


「!!」

「なっ···!?」


あろうことか時緒は、今の状態では立って避けられないと判断したのか、床をごろごろと転がりながら、ルミナが後方で時緒へと追撃を掛けていくように、飛ばしている空気の刃を避け続けていく。壁には時緒が刃を避け続けた結果、多数の刃の傷が次々と出来上がって行った。


「······っ」


異能力者とは言え、能力が特殊すぎる瑠奈が出来る事は少なすぎる。念動力を使った戦いも異能力者狩り相手に、どこまで通用するかどうかわからない。以前ファントムの構成員とぶつかったが、相手が末端の者だからこそある程度瑠奈でも対抗出来たが、今度の相手は異能力者狩りであり、異能力者相手には戦い慣れしている人間である以上、瑠奈にとっては余りにも分が悪すぎた。


「よかった。まだ此処にいたのね」


充の影響を受けていない仲間を集めに行動していた薫が、彼らの戦闘を見守っている瑠奈の元へ駆け寄って来る。


「薫さん」

「······弱ったわよ。充の奴、ルシオラ様が直々に助けた同志達を、半分近く自分の陣営に取り込んでたのよ」


薫が渋い表情をしながら大きな溜め息を吐く。薫の様子だとどうやらこの支部内に居る、半分以上のファントム構成員は充に取り込まれていたらしい。


「この支部でルシオラ様の元に残ったのは、戦闘経験の浅い構成員数十人だけ。手練れの異能力者達は皆、充の方に付いて行ったわ」

「そんな···」


充の行動が全くもって底が見えない中、ホール区域内ではファントム陣営と異能力者狩り達との戦闘は続いている。武器のぶつかり合う金属音が響き合い、彼らの拮抗状態は今も続いているのだ。


「全く何を考えてるのよ。充が簡単に約束を守ると思ってるのかしら」


薫が些細な甘言でやすやすと、充に取り込まれる仲間達に不満を溢す。元々外部や研究所で迫害を受け、精神に不安定な者が多いと聞いている。異能力への迫害はない、楽に自分達を受け入れられる場所があるのなら、当然そちらへ行ってしまうのだろう。


「君も此所にいたのか」

「ルシオラ様」


薫が現れた方向からルシオラの姿が現れ、瑠奈達の元へ近付いてくる。予め念を使って気配を消しているらしく、ルシオラがこの場にいる事をまだ悟られていない。


「······完全にやられた。充の奴。自らが取り込んだファントムの同志を、政府管轄の異能力研究所へ引き渡す様だ」

「そ、それは!?」


ファントムの同志を政府管轄の異能力研究所へ引き渡す、瑠奈と薫は顔を見合わせる。


「先程までルミナや玄也とこれまでに集めた情報を解析していた。奴は手練れの能力者は勿論、特殊な能力を持つ異能力者を手当たり次第マークし、政府管轄の研究所へ情報を横流ししていた」


異能力研究所へとファントムに在籍している異能力者の情報を横流し。それは政府へ異能力者の存在を明かすに等しい。


「赤石泪や君も取り入るつもりだったようだ」

「!?」


充は強い念動力を持つ泪や自分の力もつけ狙っていた。


「ただ赤石泪の方には不信な点が幾つかある。前に四堂鋼太朗と話をして聞いたのだが、彼は政府機関の異能力研究にも関わっていたそうだな。彼はファントムに直接協力出来ない代わりにと、政府管轄下異能力研究所数ヶ所の情報データを、私に渡してくれた」


鋼太朗はファントムそのものに協力はしないが、ルシオラ個人を信用出来ると考えて、自分が所属していた異能力研究所のデータを渡していたのか。泪も鋼太朗と同じく異能力研究所と深い関わりを持っている。しかも強い力を持つ故に相当根深い部分に。


「ま、まさか···」

「酷な事を言うが、彼は充と繋がっている可能性が高い」


泪が充と繋がっていると言う事態に瑠奈は目を見開く。


「正確には宇都宮一族と繋がっていた方が正しい。彼は宇都宮一族の情報を充にリークしていた」

「宇都宮······」


また宇都宮一族が関わっているのか。彼らは冴木みなもの命を奪い、友江姉妹を破滅に追いやっただけでなく、泪をも自分達の手元に縛りつけていたのか。



「宇都宮を知っているのか」

「······知っています」



自分でも信じられない位に怒りに満ちた声を出していた。


「ウチの学校の生徒を間接的に手を掛けました」

「なら宇都宮一族が異能力研究を行っているのは?」


実際そこまでは知らなかった。宇都宮夕妬を見ていた限り、彼ら一族は極端なまでの反異能力主義だった筈だ。前に響から聞いた話だと宇都宮夕妬の異能力者への嫌悪は、異能力を知らない人間から見ても異常ではなかったのだから。


「彼ら一族は政府とは全く異なる独自の管轄で、異能力の研究を行っている。それも政府管轄の研究所以上に異能力の研究が進んでいる」


異能力者を極端な程に嫌う宇都宮一族が、政府以上の技術で異能力の研究を行っている。鋼太朗も暁の件に対しては固く口を濁していたが、こう言う訳だったのか。



「彼は······赤石泪は、暁特殊異能学研究所直属のサイキッカーだ」


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