第38話 ルシオラside



―某国立大学院・特殊異能学科。



『破門する?···この私が?』


『よくもまぁ···政府内閣議員秘書兼次期国会議員候補・玖苑充(くおん みつる)様は、自分の破門を他人事見たいに捉えてるな』


『助教授。貴方が私を破門する理由など一欠片もありませんよ』


『破門の理由なんざ、充様最高の脳味噌で考えろ。お前になくてもこっちにはある』


『私は前回の大学院における異能力学会におきまして、完璧な理論を発表致しました。私の発表しました異能力における研究理論文に関しましては、彼らも大層お喜びでしょう』


『そうだな。お前の理論は『非異能力者』にとっては大層満足する出来だ』


『ならば貴方もこの私を必要とする筈です。

異能力者が国内で迫害されず我々が更なる高みに達する為に、私の理論はより完璧なものとなりえるのですよ』


『······自惚れるなよクソ餓鬼が!! 異能力者は神でもなんでも無い!!

お前が学会で発表した研究理論は所詮【人間】としての道を踏み外した時点で、全てが終わってる!!』



―郊外・ルシオラのマンション。



「陸道伊遠の研究資料を元に? 彼の研究資料は七割以上奴自身の手で破壊されただろう」


それはもう伊遠は跡形もなく破壊していった。伊遠は自分の物でも自分の居た痕跡は髪一本残さない。あの男はそう言う男だ。


『ええ。彼のファントム離反の際に、現在の研究資料を全て抹消されたのは、我々に取って想定外でしたが、学院時代の彼の研究資料ならば、私の手元に七割近く保存しております』

「過去の研究資料を参考にする訳か」


『伊遠の過去の資料とは言え、ゴミと埃とカビににまみれた汚い研究室から無断拝借したものですから。あの男がまともに資料の片付けが出来ないのは、昔も今も相変わらずですしね』

「······」


正直充の事は苦手だ。

伊遠の後任である彼が現在行っている研究も、まるで底が見えない代物であり、ファントムのトップである自分にさえ充の研究の全貌をほとんど知らされていない。


離反したとはいえ伊遠の方は自身の研究内容だけでなく、異能力や念動力に関する知識も教えてくれていた分、余程良い研究者だ。



『ルシオラ様。一つお伺いしても宜しいですか?』

「なんだ」

『部下の者達がルシオラ様は探し物をしている、とお聞きになりましたが、どのような探し物で?』



充の言う部下は外部からの構成員の事だ。ファントムと言う組織を狂信する彼らは、相変わらず余計な真似をしてくれる。

充の異能力は特異な物であり、自身の能力を使うには他の異能力者を必要とするとも聞く。

更に充の力を高めるには特殊な能力を持つ異能力者が必要らしく、充自身も珍しい異能力を持つ異能力者を複数欲しがっている。

仮に今接触中の瑠奈の事が充にばれたら、確実に厄介な状況になる事には間違いない。


「お前が知る必要はない」

『いいえ。ルシオラ様の探している物こそ、ファントムの頭脳でもある私の異能の力がいずれは必要になる筈』


己自身を買い被り過ぎるのも良い所だ。今は只でさえ充を含めた外部からの同志や末端の構成員達の扱いにも手を焼いているのに。



「これ以上の通信は危険だ。もう切るぞ」

『やれやれ。私はルシオラ様の為を思って助言しているのですよ。貴方はもう少し部下を頼る事を覚えて下さっても―』



充の言葉を続けさせる間なく、ルシオは無言で端末を切る。

ルシオ自身伊遠の研究していた内容もある程度把握している。伊遠が充と初めて顔を合わせた際、彼は実に嫌そうな顔をしていたのをはっきり覚えている。

伊遠と充に付いて話をした時、充は彼の昔の弟子だったと聞いている。同時に自分の教え子達は助言も聞かず教えを破ったので、全員破門にしたとあっけらかんとした表情で言っていた。


充は伊遠の研究を横取りしようとでも考えて居たのだろうが、己の研究成果を横取りされる程、伊遠と言う研究者は甘くない。

この組織に居た時も、血気盛んな同志達に何を言われようが、命を弄(もてあそ)ぶ研究をする事だけは、頑として拒否していた程だ。


色々とやり取りをしている内に、伊遠にお前は見込みがあると言われた。結果的に組織は伊遠の期待を裏切る形になってしまっているが、ルシオ個人としては今も彼と連絡を取り合っている。



「······」



無意識に端末を握り締める手が強くなっていた。


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