第19話 泪side
「ごめんなさい、こんな大事に撒き込んで···」
泪が茉莉に瑠奈の護衛を依頼された二日後の放課後。
瑠奈達はファントム総帥に直接顔を会わせる事になった。正確には茉莉の知り合いが総帥と何度かやり取りをし、瑠奈と会わせる事と引き換えに幾つかの条件を付けたらしい。
真宮瑠奈と引き合わせる条件の一つは異能力者が集まる人混みの多い場所で行う事。次に瑠奈の身内を必ず同伴させる事。
この場合は従姉の茉莉ともう一人は護衛を引き受けた泪だった。
「総帥は一人で?」
「···実は知り合いと一緒に例のファントム総帥と顔合わせたの」
ファントム総帥に会ったと聞き泪と瑠奈は茉莉を凝視する。
どこまで顔が広いのだこの教諭は。実は毎回厄介な騒ぎを起こしている勇羅達以上に、危ない橋を渡っているのではないのか。
「彼···サイキッカーでしたね」
「念は感じ取ったわ。でも、その思念の強さが普通の異能力者と変わらないの」
それもそうだ。
茉莉の様な熟練の異能力者を誤魔化せる当たり、ファントムの総帥は『相当』安定したサイキッカーだろう。
持ち前の念動力が強すぎる反動で、『精神』や『自我』を制御(コントロール)出来ないサイキッカーの方が当たり前なのだから。
二人の会話を余所に瑠奈の方は何かを考え込んでいた。
「どうしたの? さっきから」
「ううん···何でもない」
「待ち合わせ場所は?」
「この前瑠奈がお土産にカステラロール持って帰って来てくれた喫茶店」
なんでも力を隠して過ごしている異能力者達の情報などが、力を隠して過ごしている店長を通して色々と繋がっており、異能力者同士の話し合いで使われる事が多い店なのだとか。
「その店、鋼太朗ちゃん御用達だそうよ~。
んもー瑠奈ったらずるいわ。鋼太朗ちゃんと一緒に行ってきただなんてぇ」
「勘違いされる様な発言止めてよ」
この教諭、鋼太朗や麗二に何度かちょっかいを掛けては逃げられている。
鋼太朗の様なガッチリして引き締まった体格の男性が好みで、更に度胸があって包容力が大きければ尚良いんだとか。今やガタイの良い男子生徒の間ではすっかり茉莉の存在は恐怖の対象と化している。しかも保険教諭として男女問わず生徒の相談には積極的に乗っているので、教師として優れているのも性質が悪い。
「そういや何で鋼太朗ちゃんが?」
「鋼太朗にもサイキッカーの事聞いてたの」
あの鋼太朗が知っていたとは意外だった、現在も半分勘当状態とは言え自分が昔居た研究所に詳しいだけの事はある。
話をしている内に瑠奈が言っていた店が見えてきた。人通りも少なく実に古びた雰囲気のある店だ。
「あの店ですね」
「相手は先に待ってる筈よ。私達は瑠奈の後ろの席に座って様子を見ましょう」
店のドアを開け店内へ入ると客が数人。
その数人の客の内店の片隅に静かな雰囲気を湛えると同時に、鋭い氷の刃を磨いだ感じのする一人の男性が無表情でテーブル席に座っていた。
最も、男性が持つ異質な思念の感覚はただ一人。泪だけが感じ取っていた。
···間違いない、彼は『サイキッカー』だ。
これからの話し合いに緊張しているのか、隣に居る瑠奈から唾を飲む音が僅かに聞き取れる。片隅の席に座っている男性を見て茉莉が静かに口を開く。
「···彼が異能力者集団ファントム総帥・ルシオラよ」
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