第2話 清掃員の人権
私は清掃のパートをし始めて気が付いたことがあります。
それは、清掃を仕事にしている人にプライドがおかしな方を向いている人がいるということでした。
もう一つ、清掃をしている人に対する世間の見下しがあるということです。(うまい言葉が浮かびません)
パートの同僚は、64歳と72歳くらいだったと思います。
私は50歳代ですが、普通に話しもできるし楽しくやっていました。
清掃のパートの中で一番嫌だと思っていたのは、トイレ掃除中に遠慮なくトイレを使う無神経な人たちでした。
そこで、私はトイレの出入口に
『清掃中のご使用は、ご遠慮ください。下の階のトイレをご使用ください』と貼紙をしてみました。(あるいは上の階)他の階を清掃している人もいるので自分の清掃範囲内を指定する貼紙を二種類準備しておきました。
それでも清掃中にトイレを使う人はいましたが、かなり減りました。
しばらくすると、年下の上司が深刻な顔をしてやって来ました。
「ビルのオーナーへ苦情が入ったという連絡がありました。清掃中にトイレが使えるようにして欲しいという会社があるので、貼紙をやめてもらえませんか?」
と言うのです。
仕方なく貼紙をやめて、どうするのがよいか考えました。
同じ時間帯に来る64歳と72歳の同僚に愚痴ると
「トイレ掃除というものは、人が入って来て当たり前なの。それを使えないようにして掃除するなんて。ちょっと勝手じゃないの?そんなことも出来ないなんて。」と叱られました。
私は考えた末、人がトイレに入って来たら掃除は中断して外で待つことにしました。
とても効率が悪くなりましたが、その待つ間に壁やドアを拭いたりしました。
あえてアピールのために、トイレに入った人が出るまで外に立っていることもありました。
立っていると、
「あっ、すみません!」と言いながら急いで立ち去る人もいました。
そんなことを続けていたある日、私が男子トイレの小便器をタワシでこすっていると男性が入って来ました。
直ぐに外に出ようと私が立ち上がると
「あっ、いいですよ~。清掃を続けてください、直ぐに終わりますから。」と言うのです。
私は、はっきりと言い返しました。
「人が排泄をしている横にいようとは思いません。」
そういうと外で待ちました。
そして、その男性は用を足し出てきて私に言いました。
「大変失礼なことを言って申し訳ありませんでした。」と頭を下げてから去って行きました。
男性は、私に言われるまで気がつかなかったのでしょう。自分がトイレ掃除をする人たちを見下していたことを。人としての尊厳を持って接していなかったということを。
トイレ掃除のおばさんは自分の排泄場面を見せていい人で汚い仕事をする人なんだから気を使ってあげよう、いいよ、仕事してて、僕は排泄するからね。横に散ったりしないように気をつけてあげるからね~。みたいな目で見ていたのでしょう。
私は、この話を同僚の二人に話しました。
ずいぶん、叱られました。
「トイレ清掃は偉そげにするものじゃない。」と。
たまたま午後からの清掃の人が早く来て待機していたので、この話を聞いてもらいました。
すると、その62歳くらいの女性は
「私も外で待っているわよ。嫌よ。それでなくても他人の排泄の後始末をしているのに当然のように排泄の最中に同席するなんて。清掃員を見下しているのよ、みんな。」と言いました。
私は、清掃の仕事にプライドを持つようになってから疑問が沸いていたのです。
トイレ清掃中に気を使うべきは、清掃をする方か、トイレを使う方か。
大型のスーパーで買い物していてトイレに行くと、清掃中でした。
私が、別の階へ行こうとすると清掃員の方が、
「ああ、どうぞどうぞ遠慮なく使ってください。」と言いました。
これは、私を叱った同僚と同じタイプの人だと思いました。せっかく声をかけていただき、恥をかかせるのもと思い遠慮なく使わせていただきました。
清掃の仕事を続けている人は、人が排泄している最中でも掃除できるのが清掃員だというプライドがある人が多いように思います。
私は、それは昔の古い考えのように思ってしまうのです。
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