"悩み"に殺された人間

氷見 実非

sorun教

郊外にあるホールの玄関前に、黒服の老若男女が、集まっていた。そこへ、一台の車が止まった。車の中を覗こうと、車を囲繞する群衆。すると、その群衆にいるであろう誰かが、


「教祖様が、御出になられた!!」


と叫んだ。鼓膜が破れんばかりのとてつもなく大きな歓声が巻き起こった。しばらくすると、車から1人の男が降りてきて、その男が、


「静粛に!!!」


と群衆に向けて、怒鳴り声を上げた。男の命令は、波紋状に伝わってき、やがて静かになった。その男は、群衆が落ち着いたことを確認し、後部座席の扉を開けた。


そこに現れたのは、小柄で弱々しい老夫だった。おそらく、この男が教祖様であろう。老夫は、杖の助けを借りながらも、ゆっくりとホール入り口へと向かっていった。老夫を先頭に、群衆もホールへ入っていった。



会場は、きらびやかに飾るわけでもなく、ごく普通の会場であり、舞台だけが明るく照らされていた。そこへ、老夫が登壇し、話し始めた。


「muminler……」


会場に、緊張感が張り詰めた。


「私は、この日を待っていました。私の先代がこのsorun教を開いてから、100年という素晴らしい日です。我が神の御加護に感謝をし、これからの私達の繁栄を御祈りしましょう」


老夫が話し終え、静寂が訪れた。しかし、次の瞬間、ガサッ、という音とともに、信者達が一斉に合掌して、仏教でいう御経のような言葉を羅列し始めた。その光景は、現実であることを忘れさせるものだった。



同じ光景が、数十回繰り返された。時間にして2時間。再び、老夫が口を開いた。


「私達は、"御奉仕"と呼ばれる形で、神への感謝を表します。そこで、この"御奉仕"に貢献していただいている皆様の中から、特に10名に敬意を示そうと思います」


会場全体に、歓声が響いた。


「しかし、御報告しなければいけないことが、1つあります」


信者達は、期待の目を、壇上の老夫へと向けた。しかし、話の内容は、期待を裏切るものだった。


「実際には、今回の表彰は11人でした。しかし、残りの1人が、課題を成し遂げようと自ら命を断ちました」


歓声から、悲鳴へと変わった。


「静かにしなさい!!」


舞台袖にいた役員が、場を静める。会場が、落ち着きを取り戻し、再び老夫が話し始めた。


「皆様は、勘違いしておられます。彼は、神に対する最高の"御奉仕"をしたのです! だから、悲しんではいけない。誰かを責めてはいけない。これは、喜ぶべきことなのです!!」


悲鳴が、再び歓声へと変わる。人の死を、喜ぶ信者達を眺めながら、老夫は微笑んだ。会場にいる全員が、このsorun教の操り人形のようだった。

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"悩み"に殺された人間 氷見 実非 @Himi-miHi

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