握力0

 定期的に出てくる本を売却した話である。今日もまた数十冊の本を持って、二キロの道を歩き、ようやく本を売却できた。いつもと違うのは、肩掛けの鞄でなく段ボール箱を運搬に用いたことである。それが失敗だと気が付いたのは、家を出て半刻ほど経った頃だ。

 両腕がしんどい。肩掛けの鞄の時は、右肩が疲れたら左、という風に休憩が出来たのだが、両方の腕を使ってしまうとそれもできない。さらに苦しかったのが指だ。途中何度も荷を下ろして休憩したのだが、その度に指が固まっていた。ちょっと理解できないだろうが、段ボールを抱えたままの形で指が曲がっていて、まっすぐにしようとすると痛むのである。その辺に捨てて帰ろうとすら思った。

 本を売却した帰り道、自動販売機で飲み物を買おうと思ったのだが、財布から取り出した百円を落としてしまった。不注意などではなく、しっかり人差し指と親指で掴んでいたにも関わらず、取りこぼしてしまったのだ。買った飲み物を開けるのにも苦労した。今この文章を打っているときも、握力は戻っていない。試しに力を込めて手首を握りしめてみたが、痛くも痒くも無い。

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